HCD導入設計論ー公用語としての人間中心デザイン

産業技術大学院大学の履修証明プログラム「人間中心デザイン」の受講から早やいもので3年が経過しました。昨年は開講されなかったものの、2014年度はシラバスが大幅にリニューアルされ、過去最大となる30名を越える5期生の方々が受講されています。

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本プログラムは、「高いユーザビリティ、よりよいユーザー体験(UX)を提供するものづくり」を実践するための、人間中心デザイン(HCD)の諸理論並びに関連分野の知識の習得と、企画・デザインを行う具体的な手法及び技法の習得を目的としている。

産業技術大学院大学『人間中心デザイン』全体シラバス

2014年度は以下の3つのユニットによって構成されています。

  1. デザインリテラシー編(入門、解析、発想法など)
  2. 方法論編(調査、評価、サービスデザインなど)
  3. 応用演習(総合演習)

昨日2月28日(土)には最終回となる応用演習の「HCD導入設計論」が開催され、人間中心デザインの卒業生として過去の受講生の方々と一緒に、自身の経験から人間中心デザインにおける組織への導入に関する話題提供をさせていただました。

本講義は、本履修証明プログラムの全体での学びの振返りを狙ったものである。人間中心デザインを各企業において普及・促進する方法を考えるとともに、受講者が今後どのように企業内で学んだ手法等を活用していくべきかについて議論する。

産業技術大学院大学『人間中心デザイン』全体シラバス

人間中心デザインとスター・ウォーズ 

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人間中心デザイン(HCD)ないしはユーザエクスペリエンス(UX)の導入についてはこれまで UX Tokyo や Shibuya UX 主催で開催したイベントやディスカッションの場でも話題は尽きず、今後も半永久的に議論される内容だと考えています。今回は「HCD導入設計論」と題した集中討議の場が設けられたこともあり、本セッションでは著者の七年間の経験で取り組んできた人間中心デザインと常にあった葛藤を、ジョージ・ルーカス監督が手掛けたSFシリーズ「スター・ウォーズ」の文脈に従ってご紹介しました。

なぜスター・ウォーズなのか?

著者の個人的な好み…でもありますが、銀河系の自由と正義の守護者として一人前のジェダイ戦士を目指すルークに助言を呈するマスター・ヨーダの思想は、人間中心デザインの導入にあたって学ぶべきことが実に多くあります。 

例えば、ジェダイと対立する銀河系の悪と恐怖の信奉者であるシスとの長期戦争において、正しいと思っていることを遂行するも自身の力不足に挫折し、「信じられない…」と苛立ちを隠せないルークに対してマスター・ヨーダはこのように語りかけます。

That is why you fail.

(それが失敗する理由だ。)

 ー スター・ウォーズ エピソード5「帝国の逆襲」より

人間中心デザインを導入しようとするあまりに正しくモノをつくろうとする力、ないしは強制力が働いてしまい、上手く行かなかった状況下で最も陥りやすい場面です。自身がルールブックであり、自分ではそれが正しいことだと考えている一方で、どこか煮え切らない。裏側にある否があることを知っていても認められない自己正当化、エゴのいたずらです。

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著者も同様の経験がありますが、信じられない…と目の前の現象を受け入れられない状態から脱却するには、人間中心デザインに習ってことを進めることよりも、本来あるべき正しいモノをつくるための思想やアプローチを探求・追求することで必然的に対象の組織体系にフィットした人間中心デザインが生まれてきます。

もうひとつ、マスター・ヨーダは力(勢力)が第一である巨大な帝国国家シスとの戦いの中でルークにこのような言葉を投げかけます。

To answer the power with power, the Jedi way is not. In this war, a danger there is of losing who we are.

(力に力で応えようとするな。この戦いで最も危険なのは、己が誰であるかを見失うことである。)

ー スター・ウォーズ エピソード1「ファントム・メナス」より 

人間中心デザインを導入しようと働きかけることの目的や必要性が理解できなければ、自身の活動に対して意味性を見出すことができず、加えて前述した自己正当化の圧力が増幅し、強制「力」に頼ってしまう可能性があります。このままでは、アナキンのように我を見失ってしまいます。

人間中心デザインの最も大切なステップ

にて紹介されている人間中心デザイン(HCD)を参照する際に、実践に直結する以下の4つのステージについ目が奪われがちです。

 

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ところが、著者が最も大切にしているポイントは上記の4つではなく、その前後に位置付けられる以下の2つです。

  1. 人間中心設計の必要性の特定
  2. システムが特定のユーザー及び組織の要求事項を満足

本来、人間中心的思考の開始ポイント(問題意識)は「(1)人間中心設計の必要性の特定」から始めるべきです。その際に、

  • 必要とされている状態とはどのような状態か?
  • 必要性を見極めるポイントとはなにか?

を念頭に入れる必要があります。また、本来の思考着地ポイント(目的意識)は「(2)システムが特定のユーザー及び組織の要求事項を満足」であるべきです。

  • 組織における要求事項とはなにか?
  • 組織における満足とはなにか? 

必要性が特定できなければ導入する意味や目的が不明瞭のまま、なんでHCDって必要なの?と突き詰められて終わってしまいます。

ー WebUX研究会×ShibuyaUXの共同HCDワークショップ - UXploration

本セッションでは著者の経験を交えながら、主に上記ポイントを考察するための学びをご紹介させていただきました。

人間中心デザインないしは自身を必要とされている状態を探り、必要性を見極めるためには例えそれがデザインとは作業工程的に遠く離れている場所でも、それはデザインとは無関係である…という心理的距離を離さないことが大切だと考えます。ユーザーとの接点を担うからこそ「主体者」として、デザインを導く立場として振る舞うことで人間中心デザインの可能性を狭めないようにすることが大切です。

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組織における要求事項や満足するポイントを探る上では、UX Maturity Model(UX成熟度モデル)でも言及されているように、対象組織の成熟度を把握し、相手の理解できる言葉で伝える工夫が求められます。また、エンドユーザー「だけ」を対象とせず、人間中心デザインに込められている「人間」の本来の意味を理解し、優れたユーザー体験を実現するための手段として、組織の成熟度を高め自走できる環境を促す意味でももう一人のユーザー(ステークホルダーやサービスプロバイダー)の体験も考慮する必要があると考えます。

まとめ

最後に、人間中心デザインは「言語」です。当たり前ですが、言葉は交わすために存在します。但し、それぞれが異なる言葉を交わしていては、ユーザーへはもちろん、組織内の人間にも想いは伝わりません。

伝えることと伝わることは別です。伝えることは手段であり、結果として伝わっているかどうかは評価しなければわかりません。伝えたことで満足してしまっては双方のコミュニケーションは成立しません。最も重要なのは、伝わることです。

ー 優れたUXを実現するための人間中心デザインとは? - UXploration 

著者がこの記事を日本語で書いている理由は、言わずもがな、日本の読者の方に読んでいただきたいためであり、そのための手段として公用語(日本語)を採用しています。人間中心デザインは、組織における公用語として機能すべきと考えています。

組織では、必要なノウハウや大切にすべき価値観などの多くは言葉で伝わっていきます。役職や職種が多様化する組織では共通の定義と意味で理解し合うことが出来る言語が必要があり、第三者であるユーザーの想いが組み込まれている人間中心デザインこそ、その役割を果たすことができます。

ただ、本セッションのように人間中心デザインの導入に責任感を感じ、前述したルークのような状態に直面してしまっては意味がありません。導入には目的や必要性が前提として存在している必要があります。公用語は手段でしかなく、導入による効用は、導入する目的を軸に考えなければなりません

そのため、人間中心デザインの効用は導入に至った背景や目的ごとに異なるはずです。言葉を変えれば、組織ごとに公用語は異なるはずです。

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人間中心デザインの公用語化によって工数の削減に成功した、打ち合わせの時間が劇的に改善された、などの成功を収めたケースを見かけますが、同様の効果や目的を期待して導入に走ることは公用語の特性を考えると、本質的ではないように思えます。そのためには、一人一人が自分自身の中で人間中心デザインを公用語としてどのように捉え、確立させ、どのように社会や組織に役立てていくべきなのかを考えていかなければなりません。

フォースを操る、ジェダイ戦士のように。 

A Jedi uses the Force for knowledge and defense, never for attack.

(ジェダイ戦士はフォースを攻撃のためではなく、自身の知恵や防御のために使うのだ。)

ー スター・ウォーズ エピソード3「シスの復讐」より

ぼくと人間中心設計の七年間戦争

この場をお借りして、お声がけいただいた安藤先生、ご参加いただいた受講生のみなさまに感謝申し上げます。ありがとうございました。

関連記事:

優れたUXを実現するための人間中心デザインとは?

当記事は、2015年2月5日に無料動画のオンライン学習サイト - schoo WEB-campus(スクー)にて開催した授業「優れたUXを実現するための人間中心デザインとは?」のフォローアップになります。

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当日の授業の内容は schoo の下記ウェブサイトよりご覧いただけます(会員登録が必要です)。

はじめに

当企画は schoo と弊社コンセントとの合同企画で「社会に求められる価値あるデザイナーとは?」というテーマのもと、著者含むコンセントのアートディレクターの佐藤とサービスデザイナーの大崎の3名でそれぞれの立場から1人づつ授業を開催してきました。

  1. デザイン領域の拡張に伴うデザイナーとしての役割とは? 佐藤 通洋 先生 - 無料動画学習|schoo(スクー)

  2.  サービスデザイン時代のデザイナーのあり方とは? 大崎 優 先生 - 無料動画学習|schoo(スクー)

最終回となる今回は、以下のポイントを軸に人間中心デザインを題材としたモノづくりからコトづくりへの発想転換を背景に、いま社会に求められるデザイナー像を探っていきました。

① 美大卒だけがデザイナーとしての価値を発揮するとは限らない。

初回と前回の授業を担当した2人とは異なり、著者は美大を卒業しておらず特にビジュアルデザインにおける専門知識はほぼゼロに等しい状態でした。

但し、だからこそ「見える」デザインよりも「見えない」デザインを重視したアプローチやマインドセットを強化する姿勢を保つことができ、デザインをする立場からデザインを導く立場で振る舞うデザイナーとしての必要性を理解することができたと共に、デザイナーの新たな価値創出の場を見出すことができました。

結果として美大を卒業した方のみがデザイナーになれるという固定観念を取り払い、より多彩な専門家をデザインという土台に招き入れることができるのではないかと考えています。

② 正しくモノをつくろうとするのではなく、正しいモノをつくろう。

今回の題材となっている人間中心デザインというアプローチはあくまでも手段であり、目的ではありません。

人間中心デザインの根底にある思想や目的を理解することで、正しくモノをつくろうとする力よりも正しいモノをつくろうという力が働きやすくなります。

人間中心デザインは、正しいモノをつくるための「ものさし」として以降、解説していきます。

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人間中心デザイン的思考回路

著者の社会人経験はIT企業のビジュアルデザイナー(見習い)からスタートしました。様々なウェブサイト上で露出される特定商品のバナー制作やその先のランディングページである特集ページのデザインやコーディングを担当していた時期です。

当時は Photoshop や Illustrator などの専用のソフトウェアを使い分け、限られた空間(サイズ、露出枠など)内で作業をすることに喜びを感じていましたが、少しづつ、ランディングページへの導線設計やランディングページそのものの設計範囲までを含めたコンテンツや機能設計に関心を持ち、ウェブディレクター職へと移りました。ウェブディレクター時代は制作の進行管理やサイトの簡単な情報アーキテクチャなどを担当しておりましたが、サービスそのものを抜本的に改善したいという想いが強まり、

「どのように」つくるか?から「なにを」つくるか?そして「なぜ」つくる必要があるのか? 

と問い質すようになったことがきっかけでサービスデザイン領域からモノづくりに関わっていけるようなポジションに身を置くようになりました。

本当にユーザーから必要とされている、または正しいモノをつくるためには先ず誰のために、なぜつくるのか?を明確にしなければならない。

これは、ユーザーとの接点を担っているデザイナーだからこそ課題意識として認識できるのではないでしょうか?

この思想に辿り着いたのは学生時代に専攻していたユニバーサルデザインの提唱者であるドナルド・ノーマン博士の著書「誰のためのデザイン?」で言及された「ユーザー中心設計」との出会いでした。

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「誰のためのデザイン?」が出版された1980年代以降、エンジニアリング領域からもヒューマンセントリックなモノづくりの重要性が主張されはじめ、1999年にISO 国際規格として「人間中心設計」が制定されました。

すべての人が使いやすく、という考え方は非合理的です。誰にとっても使いやすいプロダクトやサービスを目指せば、誰にとっても使いにくいモノになってしまう。

ユーザーの立場からも誰のためのプロダクトやサービスなのかが理解できず、自分ごと化できずに終わってしまう恐れがあります。だからこその人間中心デザイン改め人間中心設計なのです。

 花とデザインと伝わる仕組み 

「デザインとは、相手に花束を渡すようなものだ。」

ー中西 元男(PAOSグループ代表)

著者が学生時代に大変お世話になった、師匠の言葉です。人間中心設計はここで言う花束の届け方、つまりは「伝わるしくみ」を考える行為・プロセスそのものです。

「伝わるしくみ」を考えることは日常的に誰もが無意識に行っている行為です。例えば大切な方や友人にプレゼントを渡すシーンを想像してみてください。

  1. まず初めに、相手に伝えたい想いがあるはずです。例:ありがとう、ごめんなさい、付き合ってください、等
  2. (1) の想いを表現するために用いられるのがプレゼント(モノ)です。ここであなたは想いがより相手に伝わるためのプレゼントを、相手の性格や特徴を踏まえて選んでいることと思います。
  3. プレゼントが揃いましたら、想いを伝えるための方法を考えるはずです。いつ、どこで、どのように渡せば想いは伝わるのか、伝わるためのしくみをあなたは考えているはずです。
  4. 相手は受け取ったプレゼント(=想いを表す記号的役割を果たす)からあなたの想いを解読し、結果はどうであれ応えるはずです。
  5. あなたは相手の反応を待って、自分が用意したプレゼントはもちろん、伝えるためのしくみが正しかったか、伝わっていたかを評価し、次に活かそうとするはずです。 

人間中心設計も全く同じ思考手順で進みます。

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伝わるしくみを考える上で大事なポイントは2つあります。

  1. 伝えることと伝わることは別です。伝えることは手段であり、結果として伝わっているかどうかは評価しなければわかりません。伝えたことで満足してしまっては双方のコミュニケーションは成立しません。最も重要なのは、伝わることです。

相手に、ユーザーに、伝わったつもりではいませんか?

  1. 誰が、いつ、どこで、なにを、どうしたら伝わるのか?そもそもなぜ伝える必要があるのか?伝わるしくみを考える際のこれらのポイントは、お気づきの方もいるかもしれませんが「5W1H」と称される問題発見と問題解決と同じ思考のフレームワークを採用しています。

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結論、人間中心設計の本質は問題発見と問題解決であると言えます。

人間中心設計は問題の解決策を探るだけではなく、解決したいそもそもの問題を探る行為・プロセスなのです。

結果として、人間中心設計を通じて問題発見力・問題解決力を養うことがができます。

ここでは8つのステップで解説していきました。

問題発見:
  1. データ分析
    データ分析には3つの意図があります。過去からパータンを探る、いまを知る、未来を予測する。
  2. ファクト抽出
    ユーザーを知るための情報を抽出していきます。不足があれば、定性調査等で補います。
  3. ユーザー定義
    ユーザーが実在するかのように非言語情報として可視化し、周囲のイメージ強化を図ります。
  4. シナリオ定義
    時間軸でユーザーの生活を把握します。問題が多く発生している箇所を解決することが本質的な問題発見・解決に至るとは限りません。 
問題解決:
  1. 解決案作成
    問題とその原因を特定後、5W1Hに習ってユーザーに伝える解決する方法を模索していきます。
  2. 構造定義
    データやデバイス、ウェブサイトが全体の構造としてどのように調和していくべきなのかを考えます。
  3. 詳細設計
    解決する方法を軸に、想いを伝えるための表現手段を考えます。
  4. 評価
    事前・事後問わずユーザーに正しく伝わり、問題の解決に至ったかを検証します。

幸せの「ものさし」 

言わずもがな、そもそもものさしとは長さを測るためにあります。

なぜ人々はものさしを用いるのか。

当たり前のことではありますが、ものさしを使わずに対象を見ただけでは長さの判断においてばらつきや歪みが生じ、不都合が生じてしまう恐れがあるためです。

デザインにも同じようなことが言えます。

チーム内で同じものさしで物事や事情を測らなければ、ばらつぎが生じ、確信をもって判断ができなくなってしまいます。そしてこの人間中心設計は、チーム共通のものさしとして機能します。

前述した、誰によって、いつ、どこで、どのように、そしてなぜ対象のプロダクトやサービスが使われているのか?を発見し、問題を特定することで以降の問題解決でも同様に、誰に、いつ、どこで、なにを、どうやって伝える(提供する)のか、そもそもなぜか、を共通の目盛として考えていきます。

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人間中心設計はプロセスである、と説明しましたが必ずしもスタート地点がどの場合においても一緒とは限りません。場合によっては評価からはじめることもありますし、特に新規事業の場合は事前のデータなどがないため、仮説としてユーザーを定義したりします。

ポイントは、問題発見と問題解決で目的を明確に区別することで人間中心設計で陥りやすい手段の目的化から逃れることができます。

人間中心設計を参考にすることで、定量・定性の両方の側面から様々なプラスの効果を得ることができます。

資料に記載の数値的な結果と同様の効果を補償することはできませんが、ひとつ言えることは失敗はしません。チーム内で共通のものさしを設けることができれば、「正しいモノ」が測れるようになりチーム、そして組織を成功へと導いてくれます。

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著者が過去に担当したサービスも、サイトリニューアルを通じてコンバージョン率がリニューアル後3ヶ月で平均54.2%(昨対比)も改善し、事業に大きく貢献しましたが、何よりも嬉しかったのはリニューアル後に事業の各スタッフがリニューアル中に定めたユーザーやシナリオが正しかったかを継続的に検証を進めていることでした。

人間中心設計の価値は定性的な側面による効果が大きく、対象の事業も同様の効果が見られた故だと考えています。 

  • チームメンバー全員が主体的にモノづくりに関わっていけた。
  • ターゲットユーザーが共通言語として成立していた。
  • ものさしとして機能し、機能開発の優先順位が明確になった。
  • リリース後も継続的な改善を促すことができた。
  • 全体スケジュールやコストを平均20〜25%短縮することができた。
上記図のように、人間中心設計は無限かつ自動車のエンジンのように前輪と後輪で役割を明確化し、組織の中で稼働し続ける必要があります。

 「人間中心と言うからには、私は本当に人の幸せを考えらているのか、常に考えるようにしている。」

ー中埜 博(東京環境構造センター代表)

プロダクトやサービスは、ユーザーにとってその先にある目的やゴールを達成するためのひとつの通過点に過ぎません。

だからこそ、その先にあるユーザーの姿をも視野に入れ、自社のプロダクトやサービスがその人の幸せに向けてどのような役割を果たしているのか、を理解する必要があります。

人間中心設計または伝わるしくみを考えることは、想いを伝える先にいる相手の幸せを考えることだと思います。

そのためのものさしを、設けてみませんか?

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まとめ 

人間中心設計という名前こそ専門的な印象を受けますが、前述した「伝わるしくみ」に置き換えて考えることができれば、明日からでも実践することができます。

例えば、料理を食べさせてあげるときやメールをするとき、仕事場でプレゼンをするときなど、相手がいてこそ成立する日常のコミュニケーションに遭遇することがあれば、ぜひ、伝わるしくみの要領で想いを的確に相手に伝え、伝わるためのしくみづくりやコトづくりを意識してみてください。

そのように身の回りの日常から意識し、創造的に活動をすることでデザイナーでなくともデザイナー的思考のもと、人間本来誰しもが持っている創造力を取り戻し、そして育み、発揮することができます。

デザイナーには、「伝わるしくみ」のような無形の概念や言葉を形にできる、ないしは表現できる大きな強みがあります。

だからこそ、冒頭の正しいモノへと周囲を導くことができると信じています。

社会に求められるデザイナーとは?というテーマで人間中心設計という行為やプロセスを軸にデザイナーのあるべき姿や担うべき役割を述べさせていただきましたが、社会から一方的に求められるだけではなく「求めてもらえる」ようなデザイナーを目指すことが結果としてデザイナーの価値創出に繋がるのではないでしょうか?

おしらせ

いかがでしたでしょうか?

schoo と弊社コンセントとの合同企画で「社会に求められる価値あるデザイナーとは?」というテーマのもと計3回に渡り授業を開催してきましたが、みなさんからお寄せいただく質問や疑問にすべてお答えできなかったことが悔みです。

そこで来る2月25日(水)にクリエイティブスペース「amu」にて afterschoo、デザイナーのための放課後と題し、授業を担当した3名によるトークセッションとみなさまとのディスカッションの場を設けさせていただきました。

下記より申し込みいただけます。

ご都合が会いましたらぜひ、お気軽にご参加ください。オフラインでもお会いしましょう。

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Lean UX Quest in Tokyo at Lean Startup Update!! 2015

書籍『Lean UXーリーン思考によるユーザエクスペリエンス・デザイン』が刊行されて1年が経過しました。年明け1月に刊行されたこともあり、2014年を Lean UX と共に盛り上げていけるよう公私共に様々な冒険(クエスト)という名の活動を繰り広げてきました。Lean UX Quest と題し、これまでの取り組みを振り返ってみたいと思います。

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尚、当記事は昨日開催された Lean Startup Update!! でお話させていただいた内容を基にしています。

STORY 1: PUBLIC

大変嬉しい事に、刊行直後には Lean UX の第一人者である Janice Fraser氏が来日し「Lean Startup マスターワークショップ」と題した1日ワークショップを実施しました。Janice氏は「Get Out of the Building!」思想をとても大切にされており、当日のワークショップも大半の時間を外で過ごすチームもいました。

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仮想のサービスの立ち上げに際して事前にチーム内でリストを洗い出し、解消するための実験を介した顧客開発・顧客理解を主とし、得られた学びをチーム及びワークショップ参加者全員に共有することで実験の大切さ、学びの大切さを教えてくれました。

更にその3ヶ月後には『Lean UX』の著者である Jeff Gothelf氏が来日しました。Janice氏同様に1日ワークショップ形式で行われましたが、Jeff氏は仮説ステートメントの作成に重きを置き、より科学的な実験を行うためのフレームワークや方法を伝授してくれました。

We believe [This feature(機能)] for [this persona(ペルソナ)] will achieve [these outcomes(得られる効果)] by measuring [metrics/KPI(主要な指標/KPI)]

当日の内容はグラフィックレーコンディングとしても記録されているので、ぜひご覧になってみてください。

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2014年3月6日にはGREEにて出版記念イベント『Lean UX が拓く最適なデザイン』を開催しました。企業規模や事業形態を問わず、3名のゲストスピーカーをお招きし最適なデザインを実現する際に求められるデザイニング・カルチャーの重要性やそのカルチャーをつくる上でのポイントを Lean UX を基点にディスカッションを行いました。

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当日はなんと400名を越える方にご参加いただき、大成功に終わりました。ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。

STORY 2: PRIVATE

Janice Fraser氏と Jeff Gothelf氏。このお二人に来日していただけたことはとても貴重な機会であり、多くの学びを得ることが出来ました。「考える」と「つくる」。それぞれに重きを置いたお二人のワーク内容を参考に、2014年下期では計6社にお邪魔してプライベートなワークショップやパイロットプロジェクトをご一緒させていただきました。

特に印象的であったのは Yahoo! JAPAN 様でのワークショップでした。一部のカンパニーの約半数の社員、約300名を対象としたワークショップを計17回に別けて実施し、Lean UX の社内浸透を担当の方と一緒に検討を進めてきました。様々な方から貴重なご意見等をいただくことができ、本書に習い様々な試行錯誤を繰り返して行きました。

ワークショップでは Lean Analytics でも言及されている CPS 仮説検証モデルに従い、担当されているサービスの顧客情報やサービスの要素を書き出していただくことで、実証するための軸設定を主としました。

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  • 思い浮かべている顧客は本当に実在するのか?
  • 対象の顧客が抱えている問題は実在するのか?
  • その問題に対して対象のサービスは解決に繋がっているのか?

などの思い込みを排除し、実証に繋げることが目的です。ワークでは前述した Janice氏や Jeff氏の教えを参考にプロトペルソナシックスアップスケッチ*1を取り入れ、Lean Startup に UX のエッセンスを加えた文字通り Lean UX の実践に務めました。

リーンキャンバスなどを用いて関係者間の認識を統一するためには、情報の非言語(ノンバーバル)表現が有効です。例えば30代主婦をサービスのターゲット・セグメントとした場合でも、ひとりひとりが思い浮かべる30代主婦は異なるはずです。どこに住んでいるのか?子供はいるのか?子供とどのような生活をおくっているのか?自分時間をどのように有効活用しているか?など言語的情報では分かり得ない情報をよりフォーカスすることで発見することができ、共通言語化すると共に言語表現では見えてこない潜在的欲求を探求することができると考えています。

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ワークショップにおける最終的なゴールは実際の現場に応用し、即実行できる状態をつくりあげることでした。そのために CPS の軸に従った実証を進めるための MVP の設計や検証方法を指定の時間軸に従って整理していきました。この場合は2日、2週間、2ヶ月という制限を設けることによってアイディアの散乱を防ぐことを念頭に置きました。

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最後にワークショップ以外にも実際に新規サービスの現場に応用すべく共同でパイロットプロジェクトを進めている企業様もいます。まだ実験中ですので半年後には良いご報告ができるのではないかと個人的には思っています。

なぜ Lean UX なのか?

著者が Lean UX を推奨する理由は大きく別けて4つあります。

  1. どのようにつくるかではなく、どのようなものをつくるかにフォーカスしたマインドセットを養うことができる。
  2. 問題解決よりも問題の発見と定義に重きを置くことでサービス価値の最大化に貢献できる。問題解決(サービス)の質は、定義している問題の質と比例していると考えています。
  3. 透明性を維持し、共創文化を醸成する。本来のモノづくりはどうあるべきなのか?Lean UX を実践することによってその問いの重要性に気付かされます。
  4. ユーザーのみならず、メンバーからの学びを大切にする。人数の分だけ学びは存在すると考えます。

STORY 3: LEAN UX CIRCLE

Lean UX は組織文化をデザインすることと等しいと考えます。そのため、組織への浸透は容易ではありません。共創を組織内だけに留めず、社会全体の共創を促す場として本書『Lean UX』を基点に Lean UX を浸透・実践・普及させるための有志による団体Lean UX Circleを2014年夏に立ち上げました。

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今では88名のメンバーが在籍し、Lean UX に関する様々な問題を解決する場として月1の頻度でクローズドな環境下で活動をしています。

Lean UX Circle の活動も Lean Startup / Lean UX の要領で改善を重ねてきました。参加されているメンバーの解決したい問題を軸に集まったメンバーで発想・創造を繰り返し、アイディアをテストした結果を月1の活動で共有することで、学びを促進する Build-Measure-Learn(Think-Make-Check)を体現しています。

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活動開始から約半年が経過し、2015年3月の最終報告会に向けて追い込み期間に突入しています。以降の活動については未定ですが、2015年も冒険は続けます。ご興味がある方がいらっしゃればお気軽にご連絡ください。

正しくモノをつくろうとするのではなく、正しいモノをつくろう。

最後に、他の登壇者のプレゼンテーションも非常に刺激的な内容でしたのでご紹介します。

Lean UX 関連記事:

*1:プロトペルソナ並びにシックスアップスケッチの概要はテンプレートはこちらをご参考ください。

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