UXploration

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LeanUX Design(リーン・ユーザエクスペリエンス・デザイン)

2月某日、Movida Japan 様主催のもとスタートアップの方々を対象とした「LeanUX Design ワークショップ」を開催しました。

当ワークショップは Lean Startup のコンセプトに HCD(人間中心設計)のエッセンスを取り入れた、アジャイルなチームマネジメントをも可能にする手法体系 LeanUX Design(リーン・ユーザエクスペリエンス・デザイン)を体系的に学べるワークショップとなっており、計12社から集まった23名のメンバーを対象に丸1日かけて実施しました。


尚、今回のワークショップは「Lean UXーリーン思考によるユーザエクスペリエンス・デザイン」の内容をベースとしています。
Lean UX ―リーン思考によるユーザエクスペリエンス・デザイン (THE LEAN SERIES)

Lean UX ―リーン思考によるユーザエクスペリエンス・デザイン (THE LEAN SERIES)

  • 作者: ジェフ・ゴーセルフ,ジョシュ・セイデン,エリック・リース,坂田一倫(監訳),児島修
  • 出版社/メーカー: オライリージャパン
  • 発売日: 2014/01/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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イントロダクション

先ず初めに、ユーザエクスペリエンス・デザインとリーン・スタートアップの紹介から。Movida Japan 様が提供されている Seed Accelaration Program でも多く取り上げられていますが、ユーザエクスペリエンス(UX)が重要視され始めたきっかけを個人の見解として掘り下げてみたいと思います。

ここ5年で日々の生活に欠かせないチャネル(ウェブ、メール、電話など)やデバイス(デスクトップパソコン、モバイル、タブレット、テレビなど)、メディア(本、新聞、ビデオなど)やプラットフォーム(iOS、Android、MS Windowsなど)の数は10倍にまで膨れ上がったと言われており、人々の生活はロー・コンテキストだったものから徐々にハイ・コンテキストへとシフトし始めています。コンテキストに応じて自身の判断で最適なチャネル/デバイス/メディア/プラットフォームを選択し、利活用できるにまでに至りました。これは、人類において大きな進化でもあります。


NFL Mobile Commercial

コンテキストという言葉を使いましたが、日本語では「利用文脈」と訳されることが多く、ヒトのコンテキストは大きく分けて「外因的要因」と「内因的要因」によって影響を受けると考えられています。モバイルを例にまとめています。

  • 外因的要因:文化ー環境ー行動ーキャリアー通信ー機器
  • 内因的要因:目的ー認知ー作業

外因的要因の大半は利用者の立場から制御できるものではないですが、外因的要因と内因的要因の双方をつなぐインターフェイスと、それを扱う利用者自身から生まれる内因的要因はヒト依存でありコントロールすることは可能です。そして忘れてはならないのはヒトは社会的動物であり学習できる能力があるこということ。どんな外因的要因が彼らを覆うとも、よっぽどでない限り順応することは可能です。

つまり、サービス提供者側のヒトも利用者同様に変わらなければいけないターニングポイントに来ていることが、ユーザエクスペリエンス・デザインの価値を高めている背景になっていると考えられます(あるいは変わるべき理由として考えられます)。

「モノ」から「コト」のデザインへ

ユーザエクスペリエンスをデザインするということは、ユーザの、それこそ冒頭で述べたコンテキスト、様々な利用シーンを想定して設計・デザインすることに尽きると思います。Google が先日 Google Glass を発表したように、今後もチャネル、デバイス、メディア、そしてプラットフォームの数が増え続けることは間違いないでしょう。どんなに優れたコンテンツやサービスであってもユーザのコンテキストを無視していてはその価値は伝わりません。

User Requirements in 21st Century(21世紀の要求定義)」という記事では、ハイ・コンテキスト時代のユーザ要求定義手法のポイントを従来と比較として以下のようにまとめています。

  • 従来の要求定義:Who(誰が)ーWhat(何を)ーHow(どのように)
  • 21世紀の要求定義:Who(誰が)ーWhen(いつ)ーWhere(どこで)ーWhat(何を)ーHow(どのように)ーWhy(そしてなぜ)

これまではヒト対モノの側面を重要視していましたが、これからはいつ、どこで、そしてなぜ、という問いにも答えることでヒトとモノのインターフェイスのみではなく、コンテキストをも想定した要求定義を考慮していく必要があります。

"ユーザと「会社、会社のサービス、商品」の相互利用の全ての側面を含む。第一の要件は、混乱や面倒なしで顧客の的確なニーズを満たすこと。第二の要件は、所有する楽しさ、使用する楽しさを生み出す「簡潔さと優雅さ」である。" ー ドナルド・ノーマン

「モノ」から「コト」のデザイン、これはドナルド・ノーマンが定義するユーザエクスペリエンスの第二の要件としても明示されており、上記のポイントを抑えることで文字通りのユーザエクスペリエンス・デザインを遂行することができます。

ユーザエクスペリエンス・デザイン=問題解決

ユーザエクスペリエンス・デザインは問題解決することとほぼ等しいと考えます。「【UX設計の失敗学】今年、「最高のユーザ体験」を作りたいと考えるディベロッパーが知るべき3つのこと」というインタビュー記事でも同様の内容を取り上げていただきました。

"本当の意味での『デザイン』では問題解決をすることだからです。デザインとアートを比較するなら、デザインとはよりよい戦略的な視点でトータルエクスペリエンスを作っていくことになります。その意識を開発チーム全体に浸透させるように働きかけることで、例えば『UX向上はデザイナーが考える役割だ』などという他人任せの意識もなくなっていきます。"

ヒトが優れていると評価し、日常的によく利用するサービスまたはプロダクトはユーザがそれまで抱えていた潜在的な課題を克服していることがわかります。例えば Dropbox はクラウド上にファイルを格納することによって複雑化するデバイスやプラットフォームに依存せずに同様の価値を様々な環境でも提供できるように設計されています。尚、初回リリース当時はひとつのデバイスのみに対応していたところ、ユーザインタビューを通じてその他デバイスやプラットフォームでも閲覧したいと思われる仕草を見せていたため、課題として認識していまのサービスレベルに拡張したそうです。

スタートアップのみに限らず、新規サービスやプロダクトを構築する際にはそれまで解決されていなかった課題を如何に特定し、解決することができるのかまたはできたのかを価値定義すべきであると考えます。課題定義から要求定義、設計から評価までの一連の流れを可能にするのが、当ワークショップの主題でもあった HCD(人間中心設計)です。

  1. 人間中心設計の必要性の特定
  2. 利用と状況の把握と明示(ユーザの要求を知る)
  3. ユーザと組織の要求事項の明示(ユーザ要求をシステム要求に変換する)
  4. 設計による解決策の作成(デザインや設計案を作り込む)
  5. 要求事項に対する設計の評価(デザインや設計案の妥当性を評価する)
  6. システムが特定のユーザ及び組織の要求事項を満す

HCD(人間中心設計)の詳しい解説については以前担当したセッション「ゴールド・エクスペリエンス」を参照ください。

リーン時代の UX デザイン

UX デザインを実現にする HCD(人間中心設計)も時代によってその姿形を変えてきました。これまでは主にユーザビリティ(使い勝手)を重視してきましが、アジャイル開発が浸透されはじめてからはプロジェクト内のコラボレーションや提供価値を最大化するために用いられてきました。そして今はここ2年で耳にするようになってきたリーン・スタートアップとの親和性を高めるべく、発見や検証、学習を繰り返すことの習慣を根付かせるための手法として注目されています。

リーン・スタートアップの真骨頂は、そのエッセンスである

  1. Customer Development(顧客開発)
  2. Minimum Viable Product(最小の出荷可能なプロダクト)
  3. Validated Learning(検証による学習)

Learn(学ぶ)ーBuild(創る)ーMeasure(図る)のフィードバック・サイクルの無駄取りを徹底し効率的に廻し続けることにあります。そしてこの Learn(学ぶ)ーBuild(創る)ーMeasure(図る)のコンセプトにこそ、HCD(人間中心設計)を取り入れることでよりその効果が発揮されます。

LearnーCustomer Development(顧客開発)

当ワークショップでは Customer Development(顧客開発)の一環として、顧客の発見から検証をユーザインタビュー方式で実施しました。インタビューを実施する前に「誰に」インタビューするのか、そしてどのような仮説を検証したいのかを先ずは明確にし、得られた情報を整理する手段としてカードソーティングを行いチーム単位で対象とするユーザ像をつくっていただきました。それが、ペルソナです。ペルソナを作成することでこれまでの発見を記録できることはもちろん、その後の検証を促すことができます。

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BuildーMinimum Viable Product(最小の出荷可能なプロダクト)

 作成したペルソナの利用シーンを想定する上で最も効果的な方法はシナリオを描くことです。当ワークショップでは作成したペルソナが対象のサービスまたはプロダクトを利用するシーンをストーリーテリングの要領で描くことで提供価値を示し、MVP の前提となる最も重要な機能を導き出せるようにしました。

シナリオを描く際のポイントは、ヒトとモノのみに絞るのではなく、いつ、どこで、どのように利用しているかがわかるように場所や時間が一目でわかるように絵図としてまとめることです。結果として何度も言及しているコンテキストを想定した要求定義が可能になります。

次にジェフ・パットン氏直伝のユーザストーリーマッピングを描いていきました。 ユーザストーリーマッピングはアジャイル開発内で提案された手法の1つで、ユーザの要求を記述するための記述形式です。提供したい機能単位ではなく、シナリオで描いた物語をユーザの求める効用単位、ないしはストーリーとして詳細に記述していきます。

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ユーザストーリーのマッピングを終えるとペルソナが目的を達成するために最低限必要なコトを MVP と以降の次期開発フェーズで対応するものとを識別していきます。MVP を定める上では収益性や資産など様々な要因が関係してきますが、先ずは HCD(人間中心設計)に着眼点を置いて前後文脈を考慮した MVP を設定するポイントを抑えていただきました。

"ストーリーとは、私たちが創ろうとしている未来を表すものだ。" ー ジェフ・パットン

MeasureーValidated Learning(検証による学習)

MVP の範囲を設定する指標の1つとして、出荷したサービスまたはプロダクトが冒頭のユーザインタビューで設定した課題が評価できる最低限のクオリティを担保することも重要です。そしてその MVP を Measure(図る)で検証するポイントは3つあります。

  1. Customer(顧客の検証)
  2. Problemt(課題の検証)
  3. Solution(解決策の検証)

C-P-S 仮説検証とも呼ばれており、スタートアップや新規サービスまたはプロダクトで検証すべき領域は、正しいユーザを想定のコンテキスト通りに取り込めていたかどうか(Customer)、に加えて正しい課題解決を促すことができたかどうかないしは正しい課題にアプローチできていたかどうか(Product)、そしてそれに対して正しい解決策、価値を提供できていたかどうか(Solution)であるべきです。

まとめ

HCD(人間中心設計)を主軸に置いてしまうと返って Lean Startup の良さであるスピードを殺し、無駄を生んで本末転倒になってしまうのではないか、という懸念も考えられます。当ワークショップで一番伝えたかったのは、ユーザエクスペリエンスがもはやプロダクトとしての価値そのものである時代、どんなサービスまたはプロダクトであろうとモノよりもコト、対象ユーザの利用シーン(コンテキスト)を想定した要求定義を、以下の形式で抑えておくべきだということです。

Who(誰)needs What(何を)because Why(なぜ)

1つでも欠けてしまうとサービスまたはプロダクトの提供価値が不明瞭なってしまい、目指すべき方向性が失われてしまう危険があります。Lean Startup のコンセプトに HCD(人間中心設計)を取り入れることができれば、それは無駄なのではなくむしろ付加価値であると僕は思っています。

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