UXploration

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お知らせ - Blog を引っ越します

約10年続いたこのブログを止め、note に移行します。

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これまでと変わらず、自分の専門領域である UX デザインやプロダクトマネジメントについて触れていく予定です。今後とも変わらずによろしくお願い致します。よろしければ Twitter もフォローしてやってください。

 坂田一倫

バリュー・プロポジションを言語化してみよう!

この記事では、プロダクトやサービスの提供価値を言葉でシンプルに説明する方法をご紹介します。

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プロダクトやサービスを開発している中で、聞かれるとちょっとドキッとしてしまう質問があります。

そのプロダクトの価値ってなんですか?

なぜドキッとしてしまうかと言うと、どのような言葉で説明すれば納得がいく回答になるのか、戸惑ってしまうためです。

プロダクトやサービスは何かしらのユーザーないしは社会の問題を解決しています。解決しているからこそ、存続していると思っています。そのため、プロダクトやサービスの価値はなんですか?という問いに対する回答には、どんな人の、どのような課題を解決しているのかが明確に具現化されていなければ、自身を持って答えることができずにモヤモヤが残ってしまいます。 

そもそもなぜ具現化する必要があるのか?

ぼくが好きな言葉のひとつに以下があります。

Customers don't care about your solution. They care about their problems.(ユーザーはソリューションに興味はない。ユーザーが興味があるのは、自分自身がどのような問題を抱えているからである。)

米サンフランシスコで多くのスタートアップのアクセラレータープログラムを提供している 500 Startups の Dave McClure 氏の言葉です。

ソリューションはなんであれ、ユーザーはプロダクトを利用するきっかけとして、自身が抱える問題が解決されるのか否かを気にしています。そのため、どのようなソリューションでも、どんな問題を解決してくれるのかが具現化されていないと、ユーザーとの距離が遠ざかってしまって、つくることだけに注力してしまいがちです。それはチームにとってもよくありません。

結果としてリスクが膨らみ続け、ユーザーに使わなくなったり、改善に向けて検討を開始する際にプロダクトやサービスの存在価値を問う場面に直面してしまって、あたふたして逆戻りしてしまいます。ぼくも以前、その状況に陥ったことがありました。「解決したいこと」よりも「開発したいこと」が先行してしまい、開発して満足してしまうケースです。

どのように言語化すべきか?

具現化するためには、まず言語化する必要があります。言葉で表すことができなければ、もちろん伝達することはできませんよね。

そんな居心地の悪さから打破するためには、プロダクトやサービスの提供価値の言語化が効果的です。それも、対象の価値が一目でわかるようにすることです。

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プロジェクトチームでバリュー・プロポジション・ステートメントのアイディアを考えている様子。後ろでカメラに向けに笑っているのはぼくと Pivotal Labs のもう1人の PM です(笑)

そこで今回ご紹介したいのは、Pivotal Labs でプロダクトやサービスの提供価値を言語化する手段の一つとして用いられているバリュー・プロポジション・ステートメントです。以下がそのフォーマットです。

〜は(ペルソナ)
〜のとき(コンテキスト)
〜ができていないだろう。(課題)

この〜は(ソリューションまたは機能)
〜とは違い(競合またはいまの解決策)
〜をすることによって(提供価値)
〜は(ペルソナ)
〜できる。(ユーザーが得られるアウトカム) 

 

イメージしやすいように、例を挙げてみます。

電車の新しい乗り換え案内アプリを開発していると過程して、ペルソナの名前はタカシさんとします。ユーザーリサーチで特定した、ビジネスにとってもユーザーにとっても優先度が高く、解決すべき問題にアプローチするための提供価値を、バリュー・プロポジション・ステートメントにあてはめてみると以下のようになります。

タカシさんは
目的地(駅)に向かうために電車に乗るとき
ちゃんと時刻通りに電車が動いているかどうかを必要なときに把握できていないだろう。

このプロダクトは
(競合のプロダクト名)とは違い
正確かつ最新の運行情報を提供することによって
タカシさんは
どの電車を利用すればよいか自信をもって選ぶことができる。 

 

実際のプロジェクトではコンテキストや課題をもっと具体的に記載していますが、提供価値をこのようにステートメントとして言語化することによって、冒頭の質問をされたときに、チーム全員が自信をもって回答することができるようになりました。

つくったあとはどうするべきか?

バリュー・プロポジション・ステートメントのいいところは、以下がひとまとまりで表現されていることです。

  • 誰が、どんなときに、どのような問題に直面しているのか
  • 他と比較して、なぜこのプロダクトでなければ解決できないのか
  • プロダクトの価値を届けることで、ユーザーが得られることはなにか

そして、このプロダクトでなければいけない理由をビジネスとユーザーの双方から捉えることで、北極星を見失わずに済みます。

バリュー・プロポジション・ステートメントはつくっただけで満足するのではなく、常に振り返ることが大切です。時間の経過と共にユーザーもマーケットも変わっていくため、様々な調査を進めながら変化に合わせて柔軟に更新し続けていく必要があります。

そのためには継続的にユーザー調査を実施することをお勧めします。プロダクトマネージャー、プロダクトデザイナー、エンジニアなどメンバー全員で優先度が高いと判断したユーザーの課題を解決するための価値が反映されているか、がポイントになります。

もしお時間がある方はぜひやって見てください😆 そして、やってみた感想などをコメントなどでフィードバックしていただけると嬉しいです。

*Originally published at https://link.medium.com/f2M5wdzAxZ on Aug 15, 2018. Pivotal Labs Tokyo の公式ブログに掲載した記事の転載です。

Q思考と UX デザインーー正しい答えよりも正しい問いを

ハウツーが豊富な実用書ばかりを手に取るくらいなら、Q思考という書籍を推奨します。もともと当ブログでも何度も言及しているとおり、首題となる人間中心設計や UX デザインと呼ばれている手法体系は「問題解決」に重きを置きがちです。問題を解決するための手段として徐々に普及していますが、正しくモノをつくろうとする(正しい答えを求めようとする)意識が先行してしまうが故に、正しいモノの追求(正しい問いの追求)という本質が抜けてしまっているように思えて仕方がありません。

Q思考――シンプルな問いで本質をつかむ思考法

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人はなぜ答えを求めたがるのか?

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(image courtesy of shutterstock)

Q思考の文脈に照らし合わせて言うならば、旧式での決まりきった方法やアプローチが幅を利かせているが故に、人は問いに時間を割くことを忘れ、答えこそが問題を解決し、我々を前進させ、改善の道を示してくれるという思い込みが生まれてしまいます。ではなぜ人は答えを求めたがるのでしょうか?本書ではその理由を以下のように説明しています。

  1. 問いを探ることは権威に刃向かうことになるという思考が働きやすい
  2. 確率された既存の仕組みやプロセスを混乱させるという脅威が働きやすい
  3. なぜその答えを求めているのか、問いに向き合う時間が不足しがち
  4. 効率重視の思考が働き、物事を考える視点が「モノをつくる」視点に偏っている
  5. 教育上、問いよりも答えを重んじるように教えられてきた
  6. 失敗への恐怖心が問いを探る思考や行動を阻んでいる

ほとんどの学校では生徒たちは質問よりも答えを重んじるよう教えられており、しかも大半の問題について正しい答えは「一つだけ」だと言われることが多いため、「答え」というものが世界のどこかにあって「発見される」、あるいは「偶然見つかる」「調べられる」「獲得される」「購入される」「手渡される」のを待っている、と私たちが考えてしまうようになるのも不思議ではない。

過去のエントリー二輪駆動の人間中心設計でも述べましたが、モノをつくるという観点から物事を考えてしまっては確率された人間中心設計のプロセスや手法で予め定められた手順を重視してしまうあまりにプロセスのツールやドキュメントなどのアウトプットに重点に置いてしまう傾向にあります。しかし、本来のモノづくりはユーザーにとって価値のある製品やサービスをつくり、提供することです。

そのためには本書でも述べている通り、

  • 「モノをつくる」という観点から「問いを探る」という観点で物事を考える
  • 製品やサービスは「具現化された問い」であるという思考に転換する

必要があります。

正しい問いは何をもたらすのか?

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(image courtesy of shutterstock)

Q思考の著者は問いを「知性のエンジン」と称し、モノづくりを問いを探るための実験に次ぐ実験とと捉えるべきであると謳っています。これはモノづくりにおけるグッズ・ドミナント・ロジックからサービス・ドミナント・ロジックへのパラダイムシフトにも通ずる理論であり、製品やサービスを生産して顧客に届ける、というアウトプット単位のグッズ中心の考え方から製品やサービスはあくまでも顧客とサービス提供者間のインタラクションを実現するための手段であり、互いの問いを解決していくための価値交換を中心としたサービスエコシステムの構築という考え方への転換の必要性を意味します。

また、本書ではイノベーションの公式を以下に定めています。

基本の公式は「Q(問い)+A(アクション)=I(イノベーション)」だ。同時に「Q-A=P(フィロソフィー)」となる。

アクション、つまり実行や問題解決のみではイノベーションは生まれません。「イノベーションを起こせ」というアクション主体の考え方では正しいモノへと導くことが難しくなり、間違った使えるモノが生まれてしまいます。そのための回避策としてクエスチョン、つまり正しい問い、問題発見や問題定義を疎かにしてはなりません。

組織のトップにいる人たちはなぜ出世できたのだろうか。それは「答えを出すのがうまかったから」だ。「一方でそれは、問いを生み出した経験はあまりないことを意味しています」。

正しくモノをつくるよりも、正しいモノをつくる

正しくモノをつくるよりも、正しいモノをつくるー著者が常に頭の片隅に置いている信念です。

問題解決としての人間中心設計、UX デザインは語り尽くされました。ケーススタディも検索すれば大量にヒットします。しかし、ケーススタディに代表される手本に頼ってしまっては問いを拒絶してしまう思考に陥りやすくなるので注意が必要です。「現代は質問の黄金時代」とQ思考の著者は話します。オンラインのソースから答えがすぐに手に入る時代だからこそ、投げかけるべき正しい問いや解決すべき正しい問いはなんなのか、に時間を割くべきなのではないでしょうか。

答えからは距離を置き、問いの中に居続けること。

最後に、本書では問いを効果的に探るための問いかけの方法も紹介されていますのでオススメです。

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