Lean UX を一言で表すと「学びのエンジン」です。
Lean UX は、そのルーツである Lean Startup の「Build(創る)ーMeasure(図る)ーLearn(学ぶ)サイクル」をユーザエクスペリエンス・デザインの基盤とし、対ユーザー/対メンバーからの学びを促進してくれます。
対ユーザーからの学習
Lean UX と聞いて、「無駄を省く」「早い」というイメージを持たれていないでしょうか?
相対的にみれば確かに実感としては「早い」のかもしれません。ただ、Lean UX は決して「早さ」を追求しているわけではありません。ドキュメントなどの成果物ではなく、エクスペリエンスをデザインすることに重きを置くことによって生まれる、ユーザーからの学習を増やす試みが結果としてプロジェクトサイクルの時間の削減に繋がるのです。
ソリューションではなくいま現在抱えている問題に着目することによって、不確実性を排除し、前提条件や仮説検証を繰り返すことが Lean UX です。ユーザーインタビューやユーザビリティテストを実践することによって、問題解決ではなく問題発見に多くの時間を割くことで、プロダクトやサービスを通じて何が問題かを把握し、学び、調整をしながら開発を進めていきます。Lean UX の目的は「正しく」ものを創ることよりも、「正しい」ものを創ることです。
近年ではスタートアップに触発されて多くの企業もコラボレーティブ・デザイン(共創)のスタイルを取り入れ、プロトタイプの設計や構築、インタビューの実施に時間を費やすようになり、ユーザーの抱えている問題や潜在的なニーズを早期に発見することを試みるようになってきました。
Amazon も、そのひとつです。徹底した顧客志向として知られる Amazon は平均11.6秒に1回の頻度で本番環境(サイト)に変更を加え、ユーザーからのフィードバックを頼りに意思決定を行い、施策の確度を向上させています。
対メンバーからの学習
当たり前ですが、ドキュメントそのものはユーザーにとって何の意味もありません。また、ユーザーの課題を解決してくれるものでもありません。ところが、人々はプロジェクトの多くのリソースをドキュメント作成に費やしています。もちろん、ドキュメントが問題だと言いたいわけではありません。Lean UX の著者であるジェフの言う「Getting out of the deliverables business(中間成果物を主体としたビジネスからの脱却)」の示す通り、ドキュメントありきの仕事から脱却し、「何を創るか」ではなく「何が効果的か」にフォーカスすることが求められているということです。
ユーザーが真に求めているプロダクトやサービスを実現するためには、メンバー間のコラボレーションは必要不可欠です。それは単に作業効率を上げるという目的ではなく、それぞれの得意分野から知恵を分け合い、互いに学びながら切磋琢磨を繰り返し、アイディアの実現を現実的なものへと近づけていくためなのです。
Google も Lean UX を一部導入しているようです。Google は、自社の開発プロセスの見直しを行い、結果として約80%の無駄の時間を削除することができたそうです。加えて、1週間の内、2~3日はユーザーインタビューに時間を費やし、学習する機会を半強制的に設けているようです。
最後に
Lean UX は、ユーザーのみならずメンバーからの学習にも重きを置くことで、成果物主体の文化から学習主体の文化への変革を実現してくれます。Lean UX は決して新しくありません。新たに用意しなければいけないものもありません。前述したマインドセットにさえ置き換えることができれば、企業の規模や立場を問わず既存の資源を有効活用しながら実践できます。
マインドセットの変化は決して簡単なことではありませんが、この度、監訳を担当させていただいたオライリー・ジャパンより出版される「Lean UXーリーン思考によるユーザエクスペリエンス・デザイン」はそのお役に立てる一冊になると自負しています。
Lean UX ―リーン思考によるユーザエクスペリエンス・デザイン (THE LEAN SERIES)
- 作者: ジェフ・ゴーセルフ,ジョシュ・セイデン,エリック・リース,坂田一倫(監訳),児島修
- 出版社/メーカー: オライリージャパン
- 発売日: 2014/01/22
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これからも引き続き優れたユーザエクスペリエンスを提供するプロダクトやサービスが注目されると思います。
これからはハードウェアとソフトウェアの境界線が消え、俗に Internet of Things (IoT)*1 を通して私達の身の回りにあるもの全てがシームレスに連携し、特定のハードウェア/ソフトウェアに限定しない、総合的な価値を提供できることが求められます。
それは、組織も同じです。
部署や職種間、そして組織とユーザ間のシームレスな連携なしにユーザーが本当に求めているプロダクトやサービスの検討と実現はほぼ不可能だと思います。Lean UX は、その可能性を確実に広げてくれる、ひとつのエンジンなのです。
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*1:「モノのインターネット」とも呼ばれています。モノのインターネットとは、世の中に存在するあらゆる(さまざまな)モノ(商品、物体、設備)が RFID やセンサーを備えると共に、それらのモノがインターネットに接続されることにより、モノの個体情報を識別したり、そのモノが置かれた状況を把握したり、そのモノ自体を制御することができる仕組みや概念のことを指し示します。