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UXploration

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HCD導入設計論ー公用語としての人間中心デザイン

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産業技術大学院大学の履修証明プログラム「人間中心デザイン」の受講から早やいもので3年が経過しました。昨年は開講されなかったものの、2014年度はシラバスが大幅にリニューアルされ、過去最大となる30名を越える5期生の方々が受講されています。

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本プログラムは、「高いユーザビリティ、よりよいユーザー体験(UX)を提供するものづくり」を実践するための、人間中心デザイン(HCD)の諸理論並びに関連分野の知識の習得と、企画・デザインを行う具体的な手法及び技法の習得を目的としている。

産業技術大学院大学『人間中心デザイン』全体シラバス

2014年度は以下の3つのユニットによって構成されています。

  1. デザインリテラシー編(入門、解析、発想法など)
  2. 方法論編(調査、評価、サービスデザインなど)
  3. 応用演習(総合演習)

昨日2月28日(土)には最終回となる応用演習の「HCD導入設計論」が開催され、人間中心デザインの卒業生として過去の受講生の方々と一緒に、自身の経験から人間中心デザインにおける組織への導入に関する話題提供をさせていただました。

本講義は、本履修証明プログラムの全体での学びの振返りを狙ったものである。人間中心デザインを各企業において普及・促進する方法を考えるとともに、受講者が今後どのように企業内で学んだ手法等を活用していくべきかについて議論する。

産業技術大学院大学『人間中心デザイン』全体シラバス

人間中心デザインとスター・ウォーズ 

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人間中心デザイン(HCD)ないしはユーザエクスペリエンス(UX)の導入についてはこれまで UX Tokyo や Shibuya UX 主催で開催したイベントやディスカッションの場でも話題は尽きず、今後も半永久的に議論される内容だと考えています。今回は「HCD導入設計論」と題した集中討議の場が設けられたこともあり、本セッションでは著者の七年間の経験で取り組んできた人間中心デザインと常にあった葛藤を、ジョージ・ルーカス監督が手掛けたSFシリーズ「スター・ウォーズ」の文脈に従ってご紹介しました。

なぜスター・ウォーズなのか?

著者の個人的な好み…でもありますが、銀河系の自由と正義の守護者として一人前のジェダイ戦士を目指すルークに助言を呈するマスター・ヨーダの思想は、人間中心デザインの導入にあたって学ぶべきことが実に多くあります。 

例えば、ジェダイと対立する銀河系の悪と恐怖の信奉者であるシスとの長期戦争において、正しいと思っていることを遂行するも自身の力不足に挫折し、「信じられない…」と苛立ちを隠せないルークに対してマスター・ヨーダはこのように語りかけます。

That is why you fail.

(それが失敗する理由だ。)

 ー スター・ウォーズ エピソード5「帝国の逆襲」より

人間中心デザインを導入しようとするあまりに正しくモノをつくろうとする力、ないしは強制力が働いてしまい、上手く行かなかった状況下で最も陥りやすい場面です。自身がルールブックであり、自分ではそれが正しいことだと考えている一方で、どこか煮え切らない。裏側にある否があることを知っていても認められない自己正当化、エゴのいたずらです。

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著者も同様の経験がありますが、信じられない…と目の前の現象を受け入れられない状態から脱却するには、人間中心デザインに習ってことを進めることよりも、本来あるべき正しいモノをつくるための思想やアプローチを探求・追求することで必然的に対象の組織体系にフィットした人間中心デザインが生まれてきます。

もうひとつ、マスター・ヨーダは力(勢力)が第一である巨大な帝国国家シスとの戦いの中でルークにこのような言葉を投げかけます。

To answer the power with power, the Jedi way is not. In this war, a danger there is of losing who we are.

(力に力で応えようとするな。この戦いで最も危険なのは、己が誰であるかを見失うことである。)

ー スター・ウォーズ エピソード1「ファントム・メナス」より 

人間中心デザインを導入しようと働きかけることの目的や必要性が理解できなければ、自身の活動に対して意味性を見出すことができず、加えて前述した自己正当化の圧力が増幅し、強制「力」に頼ってしまう可能性があります。このままでは、アナキンのように我を見失ってしまいます。

人間中心デザインの最も大切なステップ

にて紹介されている人間中心デザイン(HCD)を参照する際に、実践に直結する以下の4つのステージについ目が奪われがちです。

 

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ところが、著者が最も大切にしているポイントは上記の4つではなく、その前後に位置付けられる以下の2つです。

  1. 人間中心設計の必要性の特定
  2. システムが特定のユーザー及び組織の要求事項を満足

本来、人間中心的思考の開始ポイント(問題意識)は「(1)人間中心設計の必要性の特定」から始めるべきです。その際に、

  • 必要とされている状態とはどのような状態か?
  • 必要性を見極めるポイントとはなにか?

を念頭に入れる必要があります。また、本来の思考着地ポイント(目的意識)は「(2)システムが特定のユーザー及び組織の要求事項を満足」であるべきです。

  • 組織における要求事項とはなにか?
  • 組織における満足とはなにか? 

必要性が特定できなければ導入する意味や目的が不明瞭のまま、なんでHCDって必要なの?と突き詰められて終わってしまいます。

ー WebUX研究会×ShibuyaUXの共同HCDワークショップ - UXploration

本セッションでは著者の経験を交えながら、主に上記ポイントを考察するための学びをご紹介させていただきました。

人間中心デザインないしは自身を必要とされている状態を探り、必要性を見極めるためには例えそれがデザインとは作業工程的に遠く離れている場所でも、それはデザインとは無関係である…という心理的距離を離さないことが大切だと考えます。ユーザーとの接点を担うからこそ「主体者」として、デザインを導く立場として振る舞うことで人間中心デザインの可能性を狭めないようにすることが大切です。

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組織における要求事項や満足するポイントを探る上では、UX Maturity Model(UX成熟度モデル)でも言及されているように、対象組織の成熟度を把握し、相手の理解できる言葉で伝える工夫が求められます。また、エンドユーザー「だけ」を対象とせず、人間中心デザインに込められている「人間」の本来の意味を理解し、優れたユーザー体験を実現するための手段として、組織の成熟度を高め自走できる環境を促す意味でももう一人のユーザー(ステークホルダーやサービスプロバイダー)の体験も考慮する必要があると考えます。

まとめ

最後に、人間中心デザインは「言語」です。当たり前ですが、言葉は交わすために存在します。但し、それぞれが異なる言葉を交わしていては、ユーザーへはもちろん、組織内の人間にも想いは伝わりません。

伝えることと伝わることは別です。伝えることは手段であり、結果として伝わっているかどうかは評価しなければわかりません。伝えたことで満足してしまっては双方のコミュニケーションは成立しません。最も重要なのは、伝わることです。

ー 優れたUXを実現するための人間中心デザインとは? - UXploration 

著者がこの記事を日本語で書いている理由は、言わずもがな、日本の読者の方に読んでいただきたいためであり、そのための手段として公用語(日本語)を採用しています。人間中心デザインは、組織における公用語として機能すべきと考えています。

組織では、必要なノウハウや大切にすべき価値観などの多くは言葉で伝わっていきます。役職や職種が多様化する組織では共通の定義と意味で理解し合うことが出来る言語が必要があり、第三者であるユーザーの想いが組み込まれている人間中心デザインこそ、その役割を果たすことができます。

ただ、本セッションのように人間中心デザインの導入に責任感を感じ、前述したルークのような状態に直面してしまっては意味がありません。導入には目的や必要性が前提として存在している必要があります。公用語は手段でしかなく、導入による効用は、導入する目的を軸に考えなければなりません

そのため、人間中心デザインの効用は導入に至った背景や目的ごとに異なるはずです。言葉を変えれば、組織ごとに公用語は異なるはずです。

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人間中心デザインの公用語化によって工数の削減に成功した、打ち合わせの時間が劇的に改善された、などの成功を収めたケースを見かけますが、同様の効果や目的を期待して導入に走ることは公用語の特性を考えると、本質的ではないように思えます。そのためには、一人一人が自分自身の中で人間中心デザインを公用語としてどのように捉え、確立させ、どのように社会や組織に役立てていくべきなのかを考えていかなければなりません。

フォースを操る、ジェダイ戦士のように。 

A Jedi uses the Force for knowledge and defense, never for attack.

(ジェダイ戦士はフォースを攻撃のためではなく、自身の知恵や防御のために使うのだ。)

ー スター・ウォーズ エピソード3「シスの復讐」より

ぼくと人間中心設計の七年間戦争

この場をお借りして、お声がけいただいた安藤先生、ご参加いただいた受講生のみなさまに感謝申し上げます。ありがとうございました。

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