本日6月11日に HCD-Net が主催する毎年恒例の「HCD-Net フォーラム 2016」が開催されました。どれも大変興味深いセッションばかりでしたが、著者がモデレータを担当させていただいたセッション「ビジネス、社会に貢献するHCD」では13名もの方に人間中心設計、ないしは UX デザインがどのようにビジネスや社会に貢献しているのか?をテーマにライトニングトーク形式で発表いただきました。
ウェブサイトにおける人間中心設計、UXデザインの応用例から地域の課題解決のためのサービスデザイン事例など話題は実に様々でしたが、発表いただいた内容から着想を得て、人間中心設計 / UX デザインがどのようにビジネスや社会に貢献しているのかを説明するための枠組みを考えてみました。
人間中心設計 / UX デザインの価値定義
人間中心設計 / UX デザインはビジネスや社会に十分に貢献できる、または貢献していると考えています。では、どのように貢献しているのでしょうか?今回発表いただいた内容はその証明にもなると思いますが、人間中心設計 / UX デザインは以下の軸でビジネスや社会に貢献していると捉えることができます。
- OUTCOME(成果としての人間中心設計 / UX デザイン)
- PROCESS(プロセス、過程としての人間中心設計 / UXデザイン)
加えて、ビジネスや社会への貢献を大きく分けて
- 内的効果(組織やステークホルダーに影響を及ぼすもの)
- 外的効果(顧客やユーザーに影響を及ぼすもの)
の2つに分類することができます。以上の軸を枠組みとしてまとめると、人間中心設計 / UX デザインは以下の観点からビジネスや社会に貢献していると言い切れるのではないでしょうか。
A: 成果として組織やステークホルダーにもたらされる効果
定性的な側面が強い人間中心設計や UX デザインの価値を証明するために用いられることが最も多い領域です。人間中心設計 / UX デザインの本質が問題解決であるが故に結果としてユーザビリティ(利用性)が向上し、エラー回数が減ることによってユーザーの目的到達率が向上しやすくなります。つまり、組織にとって収益の向上が見込まれ、かつユーザーからの問い合わせ数が低下する傾向にあるため、主に人的コストの削減も期待されます。
B: 成果として顧客やユーザーにもたらされる効果
(A) に影響し、対象組織ないしはサービスに対するユーザーのエンゲージメントが向上し、ブランド認知度の向上が期待できます。当セッションでも紹介がありましたが、昨今では NPS(Net Promoter Score)を活用した顧客満足度調査を経営指標とする企業も増えてきており、(A) の結果として顧客やユーザーにどのような定性的な変化が起きているのかを証明する手法も増えてきています。
C: 過程として顧客やユーザーにもたらされる効果
まだ馴染みのない領域かもしれませんが、社会を対象とした人間中心設計 / UX デザインにおいては顧客やユーザーと共に共創する参加型デザインも主流になりつつあります。
過去のエントリー「組織とサービスデザインーサービスを起点とした2つのユーザー体験を考える」でも触れましたが、Airbnb では (B) の延長としてサービスのファンが Airbnb の創造活動に参加しやすい環境を構築しています。結果、ファンから従業員に転身するユーザーがいるほど、顧客ロイヤリティーを高め、従業員として雇用することを最終目的として様々な取り組みをされている企業、組織もいます。
D: 過程として組織やステークホルダーにもたらされる効果
言わずもがな、人間中心設計 / UX デザインは単身で完結するものではありません。複数のステークホルダーを共通言語を用いて巻き込むことによって、意思疎通や合意形成を円滑に進めやすくなります。結果としてコミュニケーションコストが削減され、かつ各種成果物がナレッジとして組織に蓄積されることで組織内横展開が容易となり、教育や育成の側面においても貢献している、あるいは貢献できると言えます。
まとめ
既にお気付きの方がいるかもしれませんが、人間中心設計 / UX デザインがビジネスや社会に貢献できる4つ(A, B, C, D)の領域は互いに連鎖関係にあります。つまり、価値の循環が生まれる、ということです。最も語られることが多い (A) の背景には (D) が介在し、結果として (B) 、(C) へと連鎖していきます。
ここでお伝えしたいことは、(A) だけで語ってはいけないということです。著者は過去に、人間中心設計 / UX デザインの価値を証明するために収益への貢献度を苦手な数式を用いて算出しましたが、ボード陣に受け入れられたものの人間中心設計 / UX デザインそのものの本質的価値の証明が疎かになっていました。
よい結果が得られたのであればその他サービス、事業に横展開せよー人間中心設計または UX デザインというプロセスそのものを装着すれば期待される (A) の成果が得られるという期待だけが各事業に膨らみました。
もちろん、同じ「もの」を導入したからといって同様の結果が得られるとは限りません。にも関わらず、機械的な導入だけが進み、人間中心設計や UX デザインの過程で重要となる (C) や (D) への理解が得られずにいました。それでは本末転倒です。経営観点から考えてみても、よりよい収益上の成果が得られるのであれば手段は問わない、という思考に陥りやすくなります。
考えを改めなければならないのは、人間中心設計や UX デザインは様々な観点でビジネスや社会に貢献できるということであり、現状を把握した上で組織や社会に導入するにあたって最も効果が期待される領域を見定め、確実に装着し、価値の循環を回していくことなのではないでしょうか。
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