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二輪駆動の人間中心設計

人間中心設計プロセスの「2つの誤解」

先ずは以下の図をご覧ください。これは、著者が評議員を務める人間中心設計推進機構が自社の公式サイトで掲載している人間中心設計(Human Centered Design:HCD)のプロセス図です。「人間中心設計 プロセス」と画像検索すると類似する画像が沢山ヒットしますが、多くは以下のような図ないしは円形の図で示されていることが多いです。

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国際規格として1999年に発効されて以来、この図は17年もの間、ユーザー中心・ユーザー視点で自社製品やサービスを構築、実現するための手段としてさまざまな研究論文やプレゼンテーションなどに流用されてきました。
 
が、17年も経過するとさまざまな変化が訪れます。もともとはユーザビリティ強化の一環としてハードウェア業界の発展に伴い普及してきた人間中心設計ですが、逆もありきでソフトウェア業界でも同様の手法が用いられるようになりました。著者がソフトウェア業界に身を置いているため、ソフトウェアにおけるモノづくりの視点が前提となっていることをご理解いただきたいのですが、この人間中心設計のプロセス図には「2つ誤解」が生じてしまいます。以下は、これまでの著者の経験と、様々なイベントなどで参加者との貴重な意見交換の場で得られた知見に基づくものです。
 
  1. ひとつは、最上段の工程を開始地点として進めなければならないという誤解です。
  2. もうひとつは、人間中心設計のプロセスはリニアに進めなければならないという誤解です。

誤解その1:最上段の工程を開発地点として進めなければならない

本来、人間中心設計に開始地点などは存在しません。人間中心設計のプロセスを大きく分けてユーザーの要求事項を探求する「問題定義(構想:主に頭を動かすステージ)」と、設計による解決策を提供する「問題解決(実現:主に手を動かすステージ)」と分類した場合、必ずしも問題定義からはじめればならない、というわけではありません。
 
なぜか?問題を定義する以前に、先ずは正しい問題、またはユーザーの潜在的なニーズを確実に抽出するための手段として製品やサービスをつくる、といった思想への価値転換が発生しているためです。この背景には外的要因と内的要因がそれぞれ関係していると考えています。
 
  • 外的要因:同様の製品やサービスの数が爆発的に増えたことで顧客の要求水準を追い越してしまい、コモディティ市場への対応策として潜在的なニーズの発掘と競合優位性を保つためのスピードが求められるようになった。
  • 内的要因:スマートデバイスの普及によってデザイナーとエンジニア双方の活動領域が拡張し、重なり合うことで設計・開発速度が向上し、自社製品やサービスの早期検証が可能になった。
 
また、既存サービスを運営している場合は現在解決している(と思われる)課題は健在か?正しい解決手段を提供できているか?を検証するために評価から開始する方が人間中心設計プロセスは比較的導入しやすいはずです。ところが、先ずは現状のユーザーの利用状況を調査・把握するところからはじめましょう、と流れに従ったプロセス導入をしてしまいがちです。
 

誤解その2:人間中心設計のプロセスはリニアに進めなければならない

プロセスと聞くとどうしても手順や過程をイメージしてしまいます。確かに、どのような手順で、どういう過程で調査・設計・開発したのかが明確な方が理解が進みやすいと思います。ところが、昨今のアジャイル開発やリーンUXの発展は従来のモノづくりへのアンチテーゼとして生まれているということを留意しなければなりません。
 
従来のモノづくり、もとい人間中心設計のプロセスや手法は予め定められた手順を重視するあまりにプロセスやツール、ドキュメントや計画などに重点を置いてしまう傾向にありました。しかし、本来の(ソフトウェア業界における)モノづくりはユーザーにとって価値のある製品やサービスをつくり、提供することです。アジャイル開発やリーンUXはこれまでの偏りがちだった価値観の転換を促す概念として誕生し、本来の目的に回帰しようというシグナルであると捉えることができます。
 
アジャイル開発やリーンUXの本質は、人間中心設計です。リーンスタートアップを提唱したエリック・リース氏もデザイン思考の発展に寄与したIDEO代表のティム・ブラウン氏との対話で、そのように明かしています。
 
アジャイル開発とリーンUXーこのブログで何度も言及していますが、共通するキーワードとして
 
  • 組織のサイロを超えた職種・職能横断のクロスファンクショナルなチーム編成
  • 問題発見と問題解決をパラレルかつ短期間で進める取り組み
 
などが挙げられます。
 

二輪駆動の人間中心設計とは?

以上を踏まえ、人間中心設計のプロセス図にはアップデートが必要だと考えます。乗り物に例えると、従来の人間中心設計のプロセスは一輪車のようで(製品やサービスの)方向転換にはあまり向いておらず、速度も限られてしまいます。そして今回、著者がアップデートした人間中心設計プロセスは自転車のような両輪駆動でこれまで以上に方向展開(リーンUXの言葉を借りるとピボット)が容易となり、比較的全体の速度も向上します。これを「二輪駆動の人間中心設計」と呼んでいます。
 

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上記図は2015年2月に無料動画オンライン学習サイト「schoo」で授業をさせていただいた内容より抜粋した図です。詳しく知りたい方はぜひ受講していただきたいのですが、ポイントは以下のとおりです:
 
  • 開始地点と終着地点は設けずに目的別(=問題定義、問題解決)に永続的に取り組む
  • 問題定義と問題解決を行き来する
  • 必要であれば問題定義を繰り返す、問題解決を繰り返す

 

自転車の二輪のように双方の目的を見失わずに「誰の問題を解決しようとしているのか?」「どのように解決しようとしているのか?」を繰り返しながら双方の「解」の精度を向上させることが、この「二輪駆動の人間中心設計」の狙いです。

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一見、リニアのように進めているようにも見えますが、ユーザー調査と並行して全体のサイトマップや詳細設計を見直し、プロトタイプした製品やサービスをその場で検証し、利用シナリオをジャーニーマップにまとめ、詳細設計に活用するといった取り組みを実施した例です。
 
もちろん、この「二輪駆動の人間中心設計」こそが正しい、というわけではありません。あくまでも一例として、これからも人間中心設計のプロセス図は見直しが必要と思いますし、今回のような言論がもっと増えて行くことが真の人間中心設計の普及に貢献するのではないかと考えています。
 

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