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組織とサービスデザインーサービスを基点とした2つのユーザー体験を考える

はじめに

当記事は、2015年1月10日にヤフー株式会社にて開催された HCD-Net 教育セミナー「第7回サービスデザイン方法論フォローアップ講習会」でお話させていただいた内容の描き下ろしです。

尚、当日の内容は静岡の常葉大学未来デザイン研究会の学生の皆様によるグラフィックレコーディングとしても記録されています(ありがとうございます)。

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((c) 第7回サービスデザイン方法論 - コンバル!)

当日の資料は Slideshare よりご覧いただけます。

サービスとサービスデザインのイデオロギー

「サービスデザイン」という言葉が最初に使われたのは1990年代初頭にドイツのKöln International School of Designで開始された「サービスデザイン教育プログラム」と言われています。以降、2004年に Service Design Network が設立され、サービスデザインに纏わる様々な議論がなされてきました。定義は実に様々ですが、はじめに「サービスデザイン」と「サービス」について、認識を揃えた上で進めていきたいと思います。

サービスデザインとは、顧客と対象サービスの背景に存在するサービス提供者が関わる接点全体を、 デザインの対象として捉え、 その最適化を図るアプローチと考えています。つまり、接点を介して相互作用する顧客とサービス提供者間の「コミュニケーションデザイン」とも言い替えることができます。

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以前に航空会社におけるサービスについて分析したサービスブループリントを当ブログでご紹介しましたが、例えばスーツケースなどを荷物を集荷し、機内に運んでいる地上スタッフとは直接的なコミュニケーションは発生していませんが、間接的に対象の航空会社のサービスを司る一部として顧客として「サービスを受けている」ことになります。飛行機の離陸準備が整う、つまりは荷物が機内に積まれてたことを意味します。一部の航空会社では荷物の集荷状態をトラッキングできるサービスを提供し、直接的なコミュニケーションを実現しているケースもあります。

サービスにおけるコミュニケーションは、サービスを受ける側と提供者側とのインタラクションの連続性によって成立します。そのため、一部でもコミュニケーション上のトラブルが発生してしまうと、対象のブランドないしはサービスへの受ける側からの総合的な評価が下がってしまうことがあります。

なぜなら、提供者側の視点からコミュニケーションは1対N(不特定多数)の形態をとっていることに対し、サービスを受ける側は1対1の視点でインタラクションを継続しています。顧客満足度アンケートに「◯◯のサービスはいかがでしたか?」に似た質問項目をよく見かけますが、回答する際にサービスを1人の人格にあてはめて総合評価している感覚です。

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前述したコミュニケーション上のトラブルは深刻な課題です。一昨年に発生した某ホテル・レストランのメニュー表示と異なった食材を使用していたことに関する事件で、その原因は部門間における情報伝達の仕組みや作業過程に不備があったことを明かしました。このようなトラブルはやがて表面化し、顧客の見える範囲となって露出してしまう恐れがあります。1対Nと1対1、この視点の違いこそコミュニケーション上のトラブルが発生してしまう要因なのではないかと考えています。

サービスデザインを上記のように定義すると、サービスとは顧客とサービス提供者の相互作用の生起によって創造・構成される社会システムと考えます。これは、事業や製品をすべて「サービス」として捉えるサービス・ドミナント・ロジックという視座をもとにしています。日本におけるサービスには教育・研究、医療・保険・介護、流通、事業向けサービスなどが分野として存在しますが、すべてに共通しているサービスの特性は、以下の3つに分類することができるのではないでしょうか。

  1. 無形性 (Intangible):物として触ることができない
  2. 同時性 (Simultaneous):生産と消費が同時に発生する
  3. 異質性 (Heterogeneous):人によって価値が異なる

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つまり、サービスは一人一人の顧客との間に存在する、組織の無形資産であることを意味します。サービスを組織の無形資産とするのであれば、その無形資産を有効活用するアプローチがサービスデザインだと考えています。

フロントステージとバックステージのエクスペリエンス・デザイン

ここからはサービスの登場人物であるサービスの受け手側となる顧客とサービス提供者という2つの視点から、サービスデザインを解説する上でよく言及されるフロントステージとバックステージ、それぞれの体験をデザインするためのアプローチについて考えてみたいと思います。

昨年に開催された、Facebook の開発者会議「f8」にて、同社CEOのマーク・ザッカーバーグ氏による基調講演が大変参考になりました。

サービスを使うためだけに人々が存在しているかのように”ユーザー”と呼ぶのはごう慢に等しく、ヒューマンセントリックなサービスを構築するために、まずは人々がそれぞれ生活や好みを持つ存在であることを認識する必要がある。ーFacebook Home: People First, Mobile Best (Video) - Forbes

People FirstーFacebook が f8 で掲げたキーワードです。ここから学べきことは、サービスを受ける側の「人」に対してどのように組織としてコミュニケーションしていくべきかを考える大切さ、だと思います。サービスを提供する「人」にも目を向け、双方の視点から俯瞰的かつ具体的に自社のサービスを捉え、正に人間中心設計的思想で考えていく必要があります。

話を少し戻します。フロントステージとバックステージにおける体験は、飲食店に例えると以下のように整理することができます。

  • フロントステージにおける体験:CX(Customer Experience)
    CXは入店から退店までの来店者における一連の体験のことを指します。
  • バックステージにおけるUX:EX(Employee Experience)
    EX は注文の受付から厨房で料理を完成させるまでの一連の体験のことを指します。

サービスデザインの対象となるそれぞれの代表的な要素に、カスタマージャーニー、タッチポイント、製品、オペレーションなどがあります。

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UX(ユーザエクスペリエンス)の「ユーザー」はエンドユーザーやカスタマーを指しているケースが多く、ユーザー視点で如何にサービスの接点を構築していくかということが議論されてきましたが、実現にはその背景に存在するもうひとりの「ユーザー」であるサービス提供者及びその組織に目を向ける必要があります。ユーザーとのコミュニケーションが阻害されている課題として

  1. いまユーザーや現場で何が起きているか把握できない
  2. その原因が特定できない
  3. 施策の効果を予測することができない

などが存在し、組織内のサイロや情報伝達・情報取得手段の希薄、職責の不明などが影響しているのではないでしょうか。打開するためにはフロントステージのみならず、バックステージにおける体験も視野に入れて検討していく必要があります。

正に人間中心設計です。これまで主にフロントステージを対象に行われてきた同様のアプローチを、もう一つのユーザー、バックステージのエクスペリエンスデザインの一環として適応することで相乗効果が期待できます。

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事実、後にご紹介する著者が関わっているプロジェクトの多くは、結果としてバックステージ上のコミュニケーションデザインに分類され、直面する上記3つの課題解決に向けたシステム開発やユーザー体験の設計、ガバナンス方針の改善などのアプローチを検討してきました。

ケーススタディ

これまでの言及にあるサービスデザインの2つの視点、フロントステージのみならずバックステージにおける体験のデザインは容易ではありませんでした。プロジェクトは1年以上を要し、多くのステークホルダーと関わるため長期戦となりました。

詳細には記載できませんが、某AV家電メーカーでは前述のオペレーションに該当するプロダクション・ライン(ワークフロー)の改善を担当させていただきました。職種や債務の定義、中間生成物の整理から意思決定プロセスの最適化までを進め、「らしさ」の体現を検討していきました。

もうひとつはオフィス機器メーカーにて組織の文化を形成するガイドラインなどの公式ドキュメントの整備を進めました。全社共通のブランドメッセージを体現すべく、ウェブを始めとする海外支社を含む全社のタッチポイントの構築に伴う方針を明文化し、バックステージ間のオペレーションの再編成を含む、エンドユーザーとのコミュニケーションプランに相当する内容を検討しました。

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目を海外に向けると、バックステージにおける体験のデザインの重要性が伝わってきます。

GE は全従業員30万人の共通目的意識を養うためにクラウド、BYOD、ビッグデータ、そしてコラボレーションを活用した Colab を導入し、主要な製品の生産性の向上に専念しています。

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最近話題の Airbnb では「One Airbnb」をブランドコンセプトに掲げ、全従業員のエンゲージメントを向上させるために存在する専属部隊が採用活動の改善から労働環境の整備に力を入れ、従業員ひとりひとりのサービスへのコミットメント率を高める施策をとっています。結果、88%の従業員が Airbnb の職場を友人が知人に推奨したいという評価結果となり、顧客ロイヤリティーを高め従業員として雇用することを最終目的として様々な取り組みをされています。

まとめ

なぜサービスデザインなのか?

著者の私見ですが、ユーザエクスペリエンスデザインを実践する際に、残念ながらエンドユーザーのみの施策に留まってしまっているケースを多く経験してきました。しかし、サービス・ドミナント・ロジックの観点からサービスのあるべき姿を捉えると、これからはサービス提供者側(バックステージ)のエクスペリエンスの改善にも注力し、議論を更に深めていくべきだと考えています。 結果としてエンドユーザーの立場におけるユーザエクスペリエンス価値向上に貢献できるのではないでしょうか。

素晴らしい体験は、素晴らしい組織からしか生まれないと思っています。

但し、組織そのものをデザインすることは容易ではありませんし、それを担う役職でなければ実現は困難です。しかし、当ブログでも何度もご紹介している米 Yahoo! CEO のマリッサ・メイヤー氏のようにサービスデザイン的思想のもと、経営改革を推し進めている企業もいます。

ヤフーでのわたしの役職は、製品のデザインではなく、 組織のデザインをするということ、戦略のデザインをすること、ヤフーで働くとはどういうことなのかをデザインすることだと 考えています。もちろんデザインも大切ですが、あくまでデザインは一部でなくてはなりません。すべてのプロセスの一部でなくてはいけないと思います。ーマリッサ・メイヤー

CXO でなくとも、同志を募り、様々な角度からアプローチを図り、既成事実を積み上げることができればサービスデザインを組織に浸透させるための説得力を上げることができるのではないでしょうか。そのためには、情報の発信こそすべての出発点だと考えます。結果として周囲を巻き込みまたは巻き込まれ実現に向けて進むことができると考えています。

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この記事も、そのために書きました。この文章が、サービスデザイン固有の領域に関するディスコースの活性化に僅かながらも貢献できることを願って。

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