人間中心設計(HCD)におけるマネジメント

HCD(UXD)の価値は、実践を通じて証明しなければならないと思っています。そのためには、戦略など上位にある構想(=無形)を見える化(=有形)し、具体性を与えることで実践に直結するように心掛ける必要があります。

現状課題(=As-Is)からビジョン創造(=To-Be)への展開方法や発想方法についてはこれまでの HCD(UXD)の文脈で多く語られてきました。カスタマージャーニーマップをはじめとするコラボレーティブデザインなど、周囲のステークホルダーをも巻き込んだ共創活動が除々に活発化していくも、意思決定後の計画を他者に任せるも文脈が全く共有されていなかったり、実行性を考慮しない故に当初の構想とはかけ離れたアウトプットになってしまう事態に陥りがちです。

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((c) pennstatenews via Compfight cc)

それだけではもちろん価値創出には繋がりませんし、自己満足状態になってしまっては意味がありません。いくらアイディアが素晴らしくても、エグゼキューション(実行)されなければそのアイディアも無価値に終わってしまいます

はじめに

先日参加した HCD フォーラム内のチュートリアルで、ソシオメディアの篠原さんが担当されたセッション「HCD におけるマネジメント」はその名の通り、HCD(UXD)の組織化を広義/狭義におけるマネジメント観点から先の課題解決に繋がるヒントを多くご紹介いただきました。

イノベーションを導く手法として、ユーザエクスペリエンス・デザイン(UXD)やデザイン思考などに注目が集まっています。しかし、これらの知見やスキルの習得だけでは、組織の目的達成までには至りません。専門性のマスターに加え、各種手法をメソッドとして企業全体やプロジェクトの中に組織化・制度化(Institutionalization)すること、推進のためのリーダーシップ開発や人材育成を行うこと、一連の活動をメトリクスとして管理・運用することなど、「マネジメント」の諸要素こそが重要となります。本チュートリアルでは、「HCDにおけるマネジメント」を遂行するための諸条件とその具体的な実践方法について解説します。

HCD-Net | HCD-Netフォーラム2014 チュートリアル

セッションの冒頭では HCD(UXD)が求められている背景として競争化・グローバル化における経営戦略的観点から1960年代まで遡り、製品を基軸とした戦略的製造体系から体験に重きを置いたエクスペリエンス戦略ありきの製造体系への以降をご紹介いただきました。当ブログでも何度か言及しているコトからモノへのデザイン、製品からサービスへのシフトによって、HCD(UXD)への重要性が社会的に除々に認識されはじめています。スマートグリッド構想やスマートハウスなど、日常生活におけるインフラのスマート化が発展し、特定の分野だけでは完結しない、分野を横断したユーザー起点のサービスが提供されるようになりました。

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((c) T.Shinohara)

理解を示す一方で、経営戦略的観点からの HCD(UXD)のマネジメント体系が組織内に確立されていなれば冒頭の普及活動は一向に進展しません。HCD(UXD)におけるマネジメントは

  • 「プロジェクト」における HCD のマネジメント(=プロジェクト・マネジメント)
  • 「企業経営」における HCD のマネジメント(=経営・マネジメント)

の2つに分類することができると篠原さんは言います。

  1. プロジェクト・マネジメント:HCD(UXD)の推進組織・チーム・諸活動を管理・運営・推進すること
  2. 経営・マネジメント:HCD(UXD)の価値を理解して、HCD(UXD)を経営・組織に導入・定着させること

加えて、組織のヒエラルキー(例:経営層、事業部長、部門長など)と専門用語群のヒエラルキー(例:思想、メソッド、手法など)を軸に組織内に HCD(UXD)を普及させるためのフレームワークの枠組みを紹介していただきました。

  • 経営・マネジメント
  • HCD 基礎力
  • HCD 活用力
  • プロジェクトマネジメント

当ブログでは「HCD 基礎力」「HCD 活用力」に触れていきたいと思います。

HCD 基礎力

ISO で定義されている「人間中心設計(HCD)」は上記で言う思想に該当します。次に各種手法(ツール)の習得です。ペルソナやシナリオなどの代表的なツールに加え、世の中には実に様々な HCD(UXD)を実践する手法が存在します。

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((c) Human-Centered Design Toolkit | IDEO)

忘れてはならないのは、手法はあくまでも点に過ぎないということです。HCD(UXD)の基礎力を司る、最も重要な要素は上記にもリストアップされているような各種手法のメソッド化です。

メソッド化とは、属人性が排除され、ゴールまでの手順が明確になっている道筋とも言い換えることができます。手法を学び、メソッドを学ぶ。またはメソッドを学び、手法を学ぶ。鶏卵論のようにも思われるかもしれませんが、ルールがわからないと最適なフォーメーションが組めないように、アジャイルやリーン生産方式など既存のメソッドを理解することで各種 HCD(UXD)のツールを臨機応変に繋げることができます。結果として組織内の文脈を壊さずに HCD(UXD)のマインドセットや取り組みを推進できるのではないでしょうか。

メソッド化されていないと人に伝わらないことも事実です。いくら対象の手法が目新しく、優れていたとしてもメソッド化されていなければ形式知化されずに暗黙知でしか成り立たない場合が増えてきていしまいます。それでは、組織全体への普及は困難です。

HCD 活用力

組織全体への普及を目的とした場合には多くのステークホルダーが関係してきます。そのためには参加している、または関係しているすべてのステークホルダーを対象とした課題抽出や未来創造ワークショップの実施が必要不可欠になってきます。そのために求められるスキルとして、「ファシリテーション」が挙げられていました。

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((c) chrisbb@prodigy.net via Compfight cc)

ワークに限らず、プロジェクトでも積極的にファシリテーションを遂行すべきです。当ブログ記事「デザイナーとエンジニアのこれまでとこれから:D/E問題を考える」でも言及しましたが、特にデザイナーに至っては「デザインをする立場」から「デザインを導く立場へ」とマインドを切り替えてファシリテーションすべきだと考えています。

HCD(UXD)の本質は問題解決です。昨今よく耳にするデザインシンキングも元を正せば問題解決型のロジカルシンキングのエッセンスを取り入れています。つまり、HCD(UXD)には必ず目的があり、デザインすることそのものに意味を見出すのではなく、意味があってこその HCD(UXD)であることを理解する必要があります。ロジカルシンキングは、HCD(UXD)の手法やメソッドを論理的に活用し、前段となる理論を構築する際に必要となる、最低限の基礎スキルだと僕は考えます。

最後に

デザインをする立場からデザインを導く立場として、我々は時としてプロジェクトマネージャーとして立ち振る舞わなければなりません。プロジェクトチームの編成はもちろん、構想から設計、設計から実装、実装から評価、そして運用までの一連のプロセスに自身の身を置き、プロジェクトを完遂することではじめて、HCD(UXD)の重要性を実証できます。

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((c) The Rise of the Planet Apes)

結果としてリーダーシップが養われ、経営戦略的観点から HCD(UXD)を導入するために必要な計画や人材配置、費用対効果にまでコミットする機会が増えるようになり、ユーザー中心のサービス開発が企業内文化として根付いている状態が創り出せるのだと僕は思います。

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