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UXploration

Explore the art of UX persuasion

デザイナーとエンジニアのこれまでとこれから:D/E問題を考える

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先日、日本デザイン学会 情報デザイン研究部会主催の研究会「エンジニアとの協業におけるデザイナーの役割と自負」が開催されました。発端となったのは、デザイナーによってどのような価値が生み出されているのか?更には、デザイン活動をする前に、その価値を相手に理解してもらい、価値創造を主体とした取り組みを増やしていくためには何が必要か?といったオンラインコミュニティ内で展開されていた議論でした。

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(主査の山崎真湖人さんより背景のご説明)

デザイナーがどんな価値を生み出しているのか?が周囲に伝わっていなければ、そのプロセスには誰も振り向いては来れません。これは、デザイナーが新しい価値を創造することが前提となっているインハウスのデザイナーや研究機関に所属するデザイナーの方々にはあまり重要には思えないかもしれませんが、デザイン活動は明らかに新しい価値を創造していくことを中心とした活動であるにもかかわらず、Shibuya UX コミュニティのメンバーとも接していて感じるのは、世の中からは価値創造を求めるデザイナーへの依頼はほとんど無いのが現状です。

では、価値創造はデザイナーが担うべきなのでしょうか?誰が担うべきなのでしょうか?でも確実に、その一翼はデザイナーが担えるものだと思っています。そして、「価値を創造している。」デザイナーであれば十中八九、そう自負しているのではないでしょうか。

本研究会「エンジニアとの協業におけるデザイナーの役割と自負」にて僕はソフトウェア開発プロセスにおけるD/E問題を取り上げ、デザイナーとエンジニア双方の自負と今後求められる役割を自身の経験を踏まえてご紹介しました。

ユーザエクスペリエンス・デザイナーとして、僕は「共創」をワークテーマに掲げています。手前味噌ですがコンセントではもちろん、スピーカー兼メンターを担当させていただいている Lean Startup Machine Tokyo、数々のスタートアップを支援させていただくきっかけとなった Movida Japan様のワークショップRace for Resilience を始めとする各種ハッカソンのメンター兼審査員など、これらの取り組みに共通しているのはモノづくり・コトづくりに関わる全員が、ユーザエクスペリエンス・デザインの観点から関わっていける「場」づくりだと思っています。

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(当日は多くのデザイナーの方にご参加いただきました)

D/E問題は存在するのか?

きっかけは過去の苦い経験からでした。当時、僕はユーザエクスペリエンス・デザイナーとして事業責任者、デザイナー、エンジニアの狭間で仕事をすることが多かったため、ウォーターフォール型開発プロセスが進むに連れデザイナーとエンジニアの事実と思いを目の当たりにしました。

設計書を忠実に再現し、美しい/綺麗と褒められることに喜びを覚え、ピクセル単位の細かな仕様策定に時間を割き、他者のデザイナーとの差別化を図るべく独自性を追求しているデザイナー。一方でスケジュール順守が最優先課題であり、保守や運用のしやすいシステムの構築を目標にバグが無い状態にすることに喜びを感じ、処理速度を追い求めるエンジニア。結果としてリリースされたプロダクトにデザイナーは頭を悩ませていました。

デザイナーとエンジニアのそれぞれの矜持の違いによって起きるD/E問題へと発展した原因には以下が挙げられます:

  • デザインの実装における課題(例:ミドルエンド実装)が認識されにくい
  • 設計書やデザインが100%再現できなかったとしても、良し悪しの判断がつけづらい
  • 誰のために?何のために?が忘れ去られ、エゴとエゴが対立し、非生産的な議論が展開される

なぜこのようなことが起きるのでしょうか?

  1. デザインの本質的理解の欠如
    デザイン=化粧と誤解されることもありました。追求すべきは使いやすさや心地良さであり、ただ色を塗るだけ、ただ仕様通りに機能をつくるだけでは実現されません。クリエイティブはユーザーとの接点を担う上で確かに重要な要素ではありますが、ユーザーはそれだけではサービスやプロダクトの良し悪しを判断しません。

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  2. 優先順位の逆転
    前述したとおりデザイナーとエンジニアでは着手する際の優先事項が異なります。特徴的なのは、開発工程が後ろになるにつれ、現場がユーザーから遠のいて行ってしまうことです。

  3. 共通言語の不在
    「これはしてはいけません、ここはいじらないでください。」といった注意書きに溢れた仕様書を何度も目にしてきました。これだけでは肝心な理由が抜けており、結果そのような状態に陥ってしまった際の回避策や事の重大さが理解されないまま、世に出てしまいます。

  4. 組織内のサイロ化
    スタートアップではない限り、デザイナーとエンジニアが同じ部署で仕事をしているケースは稀です。物理的距離が離れてしまうとそれだけコミュニケーション・コストが発生してしまいます。また、理解にも時間が要されてしまい、的確に意図や背景を伝えることが難しくなってしまいます。結果として作成される仕様書などのドキュメント類の作成に時間が費やされ、非効率です。

デザインの早期検討と主体性

後にこれまでの課題を払拭すべく、アジャイル開発にも取り組んできました。事業責任者やエンジニアなどの非デザイナーなステークホルダーと共に、プロジェクトの初期段階よりデザイナーと共にサービス内容や一連のユーザー体験を可視化し、今回の対象範囲や目的などを明確化する時間を設けるように心がけました。

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(Jeff Patton の Agile UX に改良を加えた「Agile Experience Design」の説明)

  • 利用してもらいたい/利用しているユーザーは誰か?
  • どのようなストーリー/コンテクストでサービスを利用するか?
  • ユーザーとのコミュニケーションを図る上で、トーン&マナーはどうあるべきか?
  • 結果として今回の対象となるサービスまたは機能はどのような価値を提供すべきか?

早期に共通認識を図ることによって、以降のスプリントでは修正による遅れが軽減され、デザイナーのみならず、エンジニアの稼働領域が広がったことで全員が「価値創造」を担うことができました。また、これまでは職能や職種に惑わされやることが決めつけられてきましたが、ペアで作業を行うことによってできるヒトが進んでやる主体的な取り組みが実現されました。

単なる開発履歴やステータスを記すではなく、「なぜユーザーに対してこれが大切か」、「これをすることでチームにどう貢献したいのか」という考えを共有することが大事なんですね。ー KAIZEN platformが伊藤直也氏とやってきた、開発現場の暗黙知をなくすチーム運営術【連載:エンジニアの幸せな職場】 - エンジニアtype

デザインマネジメントにおける思想的風土

製品責任者は社内政治的な動機から「保険」的な多機能化に走りがちです。失敗したときに「あれが無いから失敗したんだ」と言われないために。あるいは、他社事例の模倣にも走りがち。それに加えて稟議・合議制や「空気の支配」も強烈。それらの障害をはねのけて設計思想を初志貫徹するには、強烈な意志や力が必要です。そもそも「設計思想」があるのでしょうか。無い場合のほうが多いでしょう。日本企業では「価値」の話ができない。価値を語る土壌がない。何が「良い」のか、何が「正しい」のかという価値観の話をせずに、よいデザインが出来上がることなど稀です。(※)日本企業におけるデザインマネジメントの根本的問題は、日本社会の思想的風土にあります。ー 日本企業でしばしば見られる、デザインマネジメント上の問題点

 Lean UX で謳っている組織文化の醸成は、上記引用にあるデザインマネジメントにおける思想的風土の醸成でもあります。部門や領域横断のコラボレーションの実現によって冒頭の「価値創造は誰が担うか?」という責任転嫁は不要になりつつあります。代わりに、何が「良い」のか、何が「正しい」のかという価値観の判断は全員によって行われます。

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そして、デザイナーの役割においては「デザインをする」立場から「デザインを導く」立場へのマインドシフトが今後求められてくると思います。優れたデザイナーは優れたファシリテーターでもあるべきと共に、組織内における「コミュニケーションデザイン」は更に大事になってくるのではないでしょうか?

Design is about making things exactly as you want them.(デザインは、思想をそのままカタチにすることである。)- Bruce Mau

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(ラウンドデーブル・ディスカッションの様子)

セッション後はラウンドテーブル形式で議論をしました。それぞれが抱く「美しさ」とはなにか、デザイナーの教育はどう見直されるべきなのか、など実に示唆に富んだ気付きと学びが生まれました。続きが気になる方はぜひ Facebook のオンラインコミュニティを覗いてみてください。

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