昨日に開催された Devlove という都内で最大規模を誇るコミュニティのイベントにて、「メタ・サービスデザインー情報アーキテクチャの観点から捉えるサービスデザイン」というセッションを担当させていただきました。
当イベントでお話した内容は、同じような取り組みが実際多くの企業または人たちの間で行われていたはずで、目新しさはないかもしれません。ただし問題は、似たようなことが行われていても、必ずしも体系的ではないために途中で頓挫してしまったり、実践者の我流で行われていたために、他の人には理解できずに社内で広がらなくなっていたと思います。
このセッションでは、課題や可能性を共有しながら、参加者の皆さんとの対話を重ね、新しい考え方へのシフトチェンジのための新しく体系化されたコンセプトをともに見つけることを目標としていました。
当イベントの告知ページで掲載させていただいた「結局、ユーザエクスペリエンス・デザインは答えではありませんでした」という一文。これは決して否定的な意味を込めているのではなく、逆説として作用できるよう答えとなる問いを正しく理解できているか?またはその問いに対して正しい答えが用意されているのか?という本質的な問いかけでもあります。
先ずはじめに個人の経験からこれまで関わってきたプロジェクトで直面した課題をご紹介しました。それは、理想とする姿を追い求めるあまりにユーザに目を向けるのみで、自身の足元である組織上の課題には触れずに「表向き」の改善施策のみに留まってしまっているのではないかということです。
昨今ニュースメディアを騒がせている、一流ホテルレストランのメニュー表記の誤りがそれを物語っています。続々と摘発されているホテルリストにプリンスホテルも含まれていました。そのプレスリリースを拝見したところ、原因は大きく別けて2つありました。
- メニューを作成する調理部門、食材の発注・仕入れをする購買部門、メニュー表示をするレストラン部門の間において、情報伝達の仕組みに不備があった。
- 使用食材を変更する際に、本来、チラシ・メニュー等もあわせて変更すべきところ、その作業工程に不備があった。
以上を踏まえてプリンスホテルが取った解決策は、チェック体制を強化する、でした。果たして人員を増やすことが最適解だったのでしょうか?資産が豊富であれば短期施策としては妥当かもしれませんが、人員配置並びに作業工程のプロセスそのものを抜本的に見直さなければ、今後も摘発される可能性は(少なくなるかもしれませんが)十分にあるのではないでしょうか。
この騒ぎは、業界は違えど、サービスを提供している組織であれば誰でも直面する可能性のある事態だと思っています。組織の構造やオペレーションに変更を加えることは時間も予算もかかることではありますが、今回のような一流ホテルにおいてはブランド価値を中長期的に維持していくためにはプランのひとつとして含まれるべきです。
素晴らしい体験は、素晴らしい組織から。当イベントに参加されていた GREE の村越さんのブログを引用させていただきます。
サービスデザインという考え方は、「ユーザのために最適なサービスのあり方を設計する」という視点から、サービスが内包する問題を「可視化」することで、組織に対する危機感を醸成し、改善へと進ませる一つのツールのような使い方になるのかな、と解釈していました。
一方で、以前のブログ記事でもご紹介したとおり、サービスはサービスプロバイダー(提供者)とユーザ(利用者)のコミュニケーションが発生する場でもあります。ユーザが把握していない、それこそバックステージにいるスタッフひとりひとりでも各人の役割やオペレーションがあってこそサービスは成立します。最終的にはユーザに目に見える形となって提供されるサービスであっても、上流で行われている、比較的抽象度が高く、あるべき姿を描くカスタマージャーニーマップに代表されるような活動やアウトプットは、正に intangible(無形)です。As-Is(現在の姿)から To-Be(あるべき姿)の順序で進めたとしても、考慮すべきパラメータが多すぎて意思決定やその後の計画を他に任せるスタンスで終わってしまうことが多いと思います。回避するためには、As-Is から To-Be で終わるではなく、実現可能性はもちろんのこと実現方法の基本合意が取れている、tangible(有形)かつアクショナブルな Can-Be(なれる姿)への展開が求められているのではないでしょうか。
描くだけではもちろん価値創出には繋がりませんし、いくらアイディアが素晴らしくても、それが実行されなければそのアイディアも無価値に終わってしまいます。エクスペリエンスの設計価値は、実践を通じなければ永遠に証明されないと思っています。
実行性の高いプランニングと、実行にうつすための組織内での立ち振る舞い方。
この二つがなされない限り、サービスデザインはやはり絵に描いた餅に終始してしまう、と感じます。
その回避策として今回ご紹介したコンセプトが、似て非なる「エンタープライズ・アーキテクチャ」と「情報アーキテクチャ」です。サービスそのものを構造的に捉える情報アーキテクチャの視点を取り入れ、抽象度が高い戦略または構想をエンタープライズ・アーキテクチャの観点からビジネスアーキテクチャ、及びそれを支援するITアーキテクチャのモデル化を推進することで、具体性を与えることが可能になります。
Design is about making things exactly as you want them.
デザインは、想いをそのままカタチにすることである。(Bruce Mau)
エンタープライズ・アーキテクチャ及び情報アーキテクチャの詳細についてはぜひ、当日のスライドをご覧ください。
当セッションでは4つのキーワードを取り上げました。
「ユーザエクスペリエンス・デザイン」は、言うならば体験のインターフェイスを司る部分。そして今回の議題でもあった「サービスデザイン」は体験の背景にある組織やサービスそのもののデザイン。「情報アーキテクチャ」は、サービスを提供するスタッフ、利用するユーザ、サービスを取り巻く情報という切り口からサービス開発におけるコミュニケーション・デザインを実現するための考え方、そしてサービスを実現するためのIT戦略をモデル化して設計する「エンタープライズ・アーキテクチャ」というフレームワーク。
ユーザエクスペリエンス・デザインやサービスデザインという発想は、お互いに補完しあえるすべての土台となりえると思います。そして、サービスデザイン同様に1970~1980年代に提唱された情報アーキテクチャやエンタープライズ・アーキテクチャというコンセプトは決して新しくなく、逆に組み合わせることによって新しい価値や意味を見出すことが可能になると信じています。
今回のセッションは、自身にとっては挑戦でした。
これが答えとは思ってもいませんし、参加された方々から大変貴重なフィードバックもいただくことができましたので、今後に向けて良いアジェンダ設定ができたと思っています。サービスデザインのように、名称が後から取って付けられたかのようなコンセプトに否定的な姿勢は見せずに、先ずはその背景にある経緯や価値を見出すことがユーザエクスペリエンス・デザインの理解に繋がっていくのではないかと考えています。
Keeping on doing the same things and expecting different results is one definition of insanity.
精神異常とは、同じことをやり続けて、違う結果を期待することである。
(アルベルト・アインシュタイン)
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