UXploration

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サンフランシスコ UX コンサル事情ーService Experience & LeanUX

※本記事は Concent 社のラボからの転載です。写真をあわせて追加しました。

9月21日〜24日まで、HCD-Net(人間中心設計推進機構)が主催するツアーに参加し、サンフランシスコの教育機関や研究機関、UX(ユーザーエクスペリエンスデザイン)コンサルティング会社を訪問する機会を得ました。

そのなかでも Adaptive Path 社と LUXr 社で見聞きしたことが大変興味深かったので、こちらを紹介しようと思います。

Adaptive Path

Adaptive Path はご存知の方も多いかと思いますが、サンフランシスコを拠点とする、世界初のUXを専門とするコンサルティング会社です。Ajax の父であり Visual Vocabulary を作った人でもある Jesse James Garrett(JJG)が率いていることでも知られています。

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僕たちが Adaptive Path 社を訪問した時には JJG に加え、デザインディレクターの Patrick Quattlebaum 氏が迎えてくれ、彼らの事業やその中でも特に注力している点について話してくれました。

彼らは自分たちの事業領域を、以下の4つで捉えていました。

  1. Experience Strategy(戦略策定、戦略構築)
  2. Product Design(プロダクトデザイン)
  3. Service Design(サービスデザイン)
  4. Training(教育、育成)

1と4については特に疑問に思うところはありませんが、2と3のような括りにしているところは大変興味深いと思いました。

なぜなら、これまで彼らは UX に重点を置いた活動をしていたこともあり、また最近ではSX(Service Experience、サービスエクスペリエンス)という言葉も使い始めていたため、事業を説明する際にはこれら(UXとSX)を軸にするのではないかと推測していたからです。

さらに、「プロダクトデザイン」「サービスデザイン」に対して「UX」「SX」がそれぞれ対になるのだろうかという疑問も湧いてきます。

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しかし、UX デザインの対象はプロダクトだけではないはずです。そのことについて JJG は、「Service Experience の対になるのは Product Experience である」と説明していました。

チェコのプラハにて先週開催された WebExpo Prague 2013 Conference でも JJG は本件について触れています。ちなみに彼らの「プロダクトデザイン」には、デジタルデバイスはもちろん、アプリ、ウェブサイトが含まれます。


広義に、また本質的に考えれば、UXD(ユーザーエクスペリエンスデザイン)は提供価値の実現に向けてユーザー中心の組織マネジメントをも対象範囲に含んで考えるべきです。しかし、やはりUXの「U」の部分がどうしてもユーザー「のみ」に寄った見方になってしまう恐れがあり、それゆえ、UXと言う場合には、サービス提供者側の当事者意識がサービスデザインほどには強くないという傾向があります。

そこで注目したいのが、「フロントステージ」「バックステージ」というメタファーです。このメタファーはサービスデザインの話でよく取り上げられます。

劇に例えて考えると、「フロントステージ」が劇そのもので、観客を楽しませる「体験(UX)」の部分。一方「バックステージ」がステージを盛り上げるためのセットや備品あるいはその運搬といった、バックエンドの仕組みやプロセス管理にあたる部分です。そしてこのバックステージの部分こそ、よりエンタープライズ領域(サービス提供者の当事者意識)といえるわけです。

UX がプロダクトだけに限定されてしまっては利用体験にはほど遠いでしょう。Adaptive Path が事業領域としてあえて UX という言葉に触れていないのは、対象が何であってもUX は実現されるべきもので、それゆえ UX や SX という区別ではなく、今後は対象がプロダクトなのかサービスなのかで語られるのが自然であるとの思想ゆえだと考えられます。

一方で「SX」という言葉を使っているあたりに、彼らのプロモーションのうまさ、つまり新しいコンセプトを打ち出すことで注目を集め、結果的に当たり前のものとなるように浸透させるという戦略、がうかがえます。

彼らが(そしてこれはコンセントを含め大きな流れとしても)サービスデザインに特に力を入れる背景として、そもそも世界的に、サービス提供事業者(サービスプロバイダー)が急増しているということが挙げられます。世界の GDP の64%はこうしたサービスプロバイダーによって生み出されているそうです。にも関わらず、アメリカの市場では、400億ドルもの資金が広告費として投じられる一方、サービスデザインへの活動資金は20億ドルにとどまっているという現状があります。実際にはこうした莫大な広告費に加え、新規顧客獲得やロイヤリティ顧客の創出のための投資がのしかかります。このままでは中長期的に顧客の期待値を満たす、あるいはそれを上回るサービスのポテンシャルは失われていく一方です。そこでサービスデザインにもっと注力すべきだと考えているのです。

Adaptive Path の活動からも感じられる「ユーザーエクスペリエンスデザイン」から「サービスデザイン」へのシフトは、「情報アーキテクチャ(IA)」から「エンタープライズ情報アーキテクチャEIA)」へのパラダイムシフトにも似ているように感じました。

LUXr

Adaptive Path のほかには、同じくサンフランシスコを拠点とし、スタートアップ向けのUX コンサルティング業務を得意としている LUXr という会社を訪問しました。

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Co-Founder の Janice Fraser さんは、初代 Adaptive Path の Founder/CEO でもあります。彼女が2年ほど前に来日した際に知り合いになり、僕が主宰する ShibuyaUX でもLeanUX の発起人の一人として登壇していただいたことがあります。

社名の LUXr は、LeanUX Residence の略で、彼らははもともと、サンフランシスコ在住のスタートアップに(資金面での投資はせずに)オフィス内 Residency(住居)を提供しながら、密着した UX コンサルティングを実施してきた会社です。

しかし、利益上スケーラブルではないことから、スタートアップ向けの UX スタートアップキット「LUXr Bento Box」の提供を2年前から徐々に開始し、現在ではLUXr Core Curriculumという、Bento Boxを 電子化したパッケージをオンライン販売することで、eラーニング事業へと移行しつつああるようです。それに加え、ベンチャーキャピタリストを対象としたBtoBのワークショップも開催しています。

※Bento Box の名称は、まさに日本の弁当箱から着想を得たとのこと。

ところで、さきほどから登場している「LeanUX」という言葉ですが、これはリーンスタートアップのコンセプトを人間中心設計に取り入れ、アジャイルなチームマネジメントをも可能にする手法体系です。詳しく述べると長くなってしまうので、興味がある方はぜひ僕のスライドシェアをご覧ください。

Janice さんがスタートアップにこだわる理由として、

  • UX は組織の、会社の DNA に深く根付いていなければならないという想いが非常に強いこと
  • 数あるスタートアップが UX について真剣に向きあっていないことに危機感を覚えたからということ

があるようです。

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Adaptive Path 訪問の部分でも触れた通り、ユーザーエクスペリエンスデザインとサービスデザインは密接な関係がありますし、サービスデザイン領域はもはやビジネスアーキテクチャの設計やリフレーミングに等しい活動でもあります。そして Janice さんが行っている業務はまさにそういう活動だと感じます。そういう意味で、僕も全く彼女に同感ですし、むしろサービスデザインは LeanUX から学べることが多いのではないかとも思います。

2社を訪問してみて

Adaptive Path は、2012年の IA Summit を皮切りに2年間で300箇所を回って、Customer Experience Mapping (日本語版ガイドライン)のワークショップを実施してきたそうです。

彼らのこうした活動の甲斐もあり、カスタマーエクスペリエンスマップ、カスタマージャーニーマップについてはずいぶん浸透してきたようにも思いますし、実際にこうしたツールを用いることで、よりビジネスの核心にせまる領域にも踏み込んでいけるようになったと言えます。

しかし一方では、カスタマージャーニーマップがひとり歩きしてしまい、それを作ることに過剰にフォーカスされることで、相対的に本来の情報設計や機能設計、コンテンツ設計といった部分の大切さがやや鮮明さを失っているようにも感じます。当然のことながら、こうした構造設計やコンテンツ戦略といった基礎的な考え方や、最終的な作り込みの力がなければ目指すべきサービスの実現には至らず、サービスデザインは成立しません。彼らの話を聞きながら、なんとなくそんなことも考えました。

また、今回の訪問ではコミュニケーションは英語であったわけですが、やはり英語ができるに越したことはないと感じます。僕の場合は生まれや育ちの関係上、幸運なことに英語を自由に使うことができるのでコミュニケーション上困ることはありませんが、先端で活動している彼らのような会社から発信される情報で、僕らに役立つものは大変たくさんありますがその多くは英語によるものです。情報入手に手間取るばかりか、英語での発信がボトルネックとなって日本からの発信量自体が少なく見えてしまうのも残念なことです。直接彼らから話を聞く機会を得ると、やはり英語でコミュニケーションできることには価値があると感じましたし、現状でのギャップを埋めるために、翻訳や日本の活動についての英語での発信など、精力的におこなっていきたいと思いました。

さて、最後に、サービスデザインについて、もしもっと知りたいという方がいたら、僕は次の書籍をオススメします。

THIS IS SERVICE DESIGN THINKING.  Basics - Tools - Cases ー 領域横断的アプローチによるビジネスモデルの設計

THIS IS SERVICE DESIGN THINKING. Basics - Tools - Cases ー 領域横断的アプローチによるビジネスモデルの設計

  • 作者: マーク・スティックドーン,ヤコブ・シュナイダー,長谷川敦士,武山政直,渡邉康太郎,郷司陽子
  • 出版社/メーカー: ビー・エヌ・エヌ新社
  • 発売日: 2013/07/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • この商品を含むブログを見る
 

コンセントのグループ会社である BNN 新社から日本語版として刊行されていますが、原書に触れてみるのもいいでしょう。

また、Web IA の古典とも言える白クマ本の著者である Louis Rosenfeld が立ち上げたローゼンフェルドメディアという出版社からもサービスデザイン関連の書籍が出ています。

Service Design: From Insight to Implementation

Service Design: From Insight to Implementation

 

参考記事:

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