Empathy:いま、デザインに求めらていれるエンパシーとは?

当記事は9月8日に開催された「UX Jam #2」でお話させていただいた内容を参考にしています。

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UXデザインの仕事の本質は、日々進化するツールやフレームワークを使いこなすことではなく、ユーザーへのエンパシーを高められるよう、日頃からいろいろな体験をしておくこと。そしてそんな体験をシェアし合う場が求められている、というお話でした!

ー 【イベントレポ】ゆるく学ぶUXイベント UX JAM #2 | UX MILK

Empathy とは?

Empathy(エンパシー:共感力)に着眼点を置いた理由は、エンパシーこそが我々デザイナーが他の職種と差別化できる唯一の要素である、と考えているからです。

この思想に至った背景には、約2年前に参加した国際カンファレンスでの出来事があります。その日、参加者数名と一緒に懇親会を兼ねた夕食を食べに都内のレストランに足を運んだ時のことです。ファーストドリンクが運ばれるまでの開いている時間に突然隣に座っていた女性がテーブルに敷かれている紙のテーブルクロスに手持ちのペンで絵を描き始めました。

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「何を描いているのですか?」そう尋ねると彼女はこう答えました。「想像に任せるよ。」確信が持てなかった著者はその隣に「こういうことですか?」と尋ねながら絵コンテのように次の一コマを絵で描いて見せました。「そういう捉え方もあるね」と目の前に座っていた男性が更にその続きの絵を無言で描き始めました。次にその男性の隣に座っていた人にペンが託され、紙芝居のように次々とコマが増えていきました。

言葉や文化、人種はそれぞれ異なるも、言葉を交わさずに絵だけでひとつのストーリーが完成しました。これがエンパシーだ、とみんなで実感した瞬間でもありました。

描かれている絵からひとつひとつの要素を抽出し、時間軸を加えて前後の文脈を保ちながら登場人物の感情や体験を設計する。これは正にユーザーエクスペリエンス・デザインそのものではないでしょうか。

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描かれている絵の登場人物が置かれている状況や心境を自分ごとのように理解し、把握する力が共感力であり、いまデザインに求められている力だと考えています。

なぜ、Empathy なのか?

手前味噌ですが、登壇させていただくイベントや参加させていただくイベントの多くは、手法/プロセス/ツールのハウツーや事例などのノウハウに話題が偏ってしまっています。決してマイナスではありませんが、IT 技術の発展に伴い、これまでと比べてハウツーやノウハウなどの知識はネットで簡単に入手できるようになりました。

また、ツールや技法を習得できたとしても、良いアイディアの創出には直結しないと痛感しています。良いアイディアが創出される確率は上がるかもしれませんが、同時に「個人/個性」としての介在価値が発揮されにくくなります

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アイディアを、「洞察や分析を通じて見つかる問題に対してさまざまな観点から得られる発見や気づきを加えて発想し、具現化されるもの」として捉えると、アイディアの質は「発見や気づきを得るための観点」に依存すると言えます。

そしてこの観点を養うためには、自分自分がさまざまな体験をすることで自分ごととして対象の体験を設計するためのユーザー視点を担保しなければなりません

これが、エンパシー(共感力)が求められている理由です。

ペルソナを作成したとしても、その属性や立場から遠い人にとっては理解が進まず、施策検討の段階でも表面的なニーズの抽出に留まってしまい、前述のアイディアの質が乏しくなってしまいます。もちろん、完全にその人になりきることは不可能であるため、昨今では「Empathy Map」など共感を促すための着眼点や方法論が議論されています。

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著者の提案としては、ハウツーやノウハウの議論に時間を費やしすぎずに日頃からさまざまな体験をし、体験した素晴らしい出来事を共有する場をもっと増やしていきませんか?

当日使用した資料は下記からご覧いただけます。

関連資料:

事業計画・推進に求められる2つのプロペラ〜Balanced Team & Product Stewardship〜

先日、Media Technology Lab が主催するイベント「UX Sketch Vol.2」にて事業計画に求められる2つのプロペラと題し、サービス設計に向けたヒトづくりに求められる2つの思想ーBalanced Team と Product Stewardshipーについて事例と共にお話してきました。当記事はその内容のサマリーになります。

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なぜヒトづくりか?

これまでさまざまな UX 関連のイベントやセミナーに登壇・参加させていたきましたが、議論されている大半の話題は:

  • 如何にして品質の良い「モノ」をつくるか
  • どのように「モノ」をつくるべきか
  • どのように「コト」を設計すべきか

といった、モノやコトに特化している内容でした。しかしながら、当ブログでも何度もご紹介しているサービス・デザインへのパラダイム・シフトを背景に、モノによって構成されるコトを届けるヒトそのものの体験を考えなければなりません

言うなれば、UX デザインを実行・遂行するための UX デザインを考えていかなければなりません。

なぜなら、どんなに魅力的でテクニカルな話題を取り上げたとしても、導入する際には必ずと言っていいほど、ヒトの問題に直面するからです。

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これからは、これまでのモノやコトに踏まえて、これまでにあまり議論されてこなかったヒトにより特化したダイアログを始めていくべきではないでしょうか?

 

ここで言うヒトづくりとはなにか?

当記事で言及するヒトづくりには教育の概念は含まれていません。どちらかといえば、サービス設計を遂行する際の複数人が関わる実行スキームや体系構築のことを指します。そして今回のテーマである2つ思想こそが、そのヒントになると考えています。

Balanced Team

Balanced Team(バランス・チーム)とは、

  • 事業責任者/プロダクトマネージャー
    介在価値:意思決定を適切なヒトに促す
  • UX デザイナー/デザイナー
    介在価値:顧客課題を特定し、優先度を見極める
  • デベロッパー
    介在価値:顧客への成果を継続的にモニタリングする

の3つの「個」によって形成されるチームのことを指す、サービスづくりに必要なヒトのバランスの最適解を図るコンセプトです。

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役職だけ聞くと当たり前かもしれませんが、ここでは役割についても触れていきます。米国では Balanced Team をテーマとしたコミュニティが存在し、それぞれの役割について活発な議論がなされています。当ブログでは細かくは言及しませんが、詳細は当日使用した資料をご参考ください。

 

 

人数が多い場合でも Balanced Team 内の役割を遂行する人員は各1名づつが理想です。すべての情報を集約し、サービスをマネジメントしていくためのリーダーシップを担う人員で形成されているチームとなります。責任者の集まり、ではなくそれぞれがリーダーシップを発揮し、発言する体制を整えることで課題への素早い対応が可能になります。

Product Stewardship

2つ目のプロペラである Product Stewardship(プロダクト・スチュワードシップ)とはアジャイル開発から生まれた思想であり、前述の Balanced Team に加え、サービス・エコシステムを形成するステークホルダー、そしてサービスを利用するユーザーのバランスを最適解を図るための考え方です。

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  • ステークホルダー:
    外部パートナー含むサービス運営者全員が、ユーザーとのタッチポイントを形成していることへの当事者意識を持つ。
  • ユーザー:
    ユーザー中心、ではなくユーザーと一緒にサービスを構築していくユーザードリブンな関係性を構築する。
  • バランスチーム:
    自社組織とほか2人の「ヒト」との接点を担い、ニーズを抽出すると共にサービスに反映・展開する。

事業計画フェーズでは主要なステークホルダーを交えながらビジネスモデル等の評価をユーザー視点で行い、事前に克服すべき課題を抽出すると同時にサービスの提供価値や KPI を定めることが求められます。また、顧客とのタッチポイントを担う各人の役割を明確にすることでコトを体現するための基盤を構築することができます。

ユーザー中心ではなく、ユーザードリブンというお話をしました。これが意味することとしては、ユーザーとのヒアリングを定期的に実施し、前述のシナリオ評価を客観的に行いユーザーと共創していく姿勢です。結果としてサービスにおける対ユーザーのコミュニケーションプランや UX 戦略を策定することで構想だけに留めずに、実行に移すための足がかりを掴むことができます。

 

まとめ

冒頭でも記述しましたが、テクニカルな話をいくら広げようとも直面する課題は常に同じであると考えます。それは今回のテーマでもある「ヒト」に関する問題です。

どのようにモノをつくればいいのか、どのようなコトを実現すればいいのか、のみで会話するだけではなく、それらモノやコトコトを実現するためにどのようなヒトがどのように関わっていければいいか、文字通りユーザーだけではなく組織内外におけるヒトの UX デザインをもっと追求していくべきです。

事業を、ないしはサービスを計画し、推進していく我々が UX デザインを語る上で今後時間を割かなければならないのは、我々が介在することで生み出される価値、つまり介在価値の最大化を図るための実行スキームと関与するヒトの役割及び体系を考えることです。

「素晴らしい体験は、素晴らしい組織からしか生まれない」をモットーに著者も現職では実行スキームと体系の構築に少なくとも1ヶ月を費やすようにしています。

今回ご紹介した2つの思想がみなさんのサービスや事業、組織を前進させるためのプロペラとして機能することを願って。

 

関連記事:

LEAN UX Japan Conference 2015〜LEAN UXが拓く未来〜

書籍「Lean UXーリーン思考によるユーザエクスペリエンス・デザイン」を基点に LEAN UX を実践・普及させることを目的とした有志による団体 Lean UX Circle の活動開始から約半年が経過しました。

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活動中はファシリテーター制度を導入し、参画している企業担当者が自身でミートアップを企画し、イベントを開催する取り組みを月に1回の頻度で開催してきました。また、2014年冬からはワーキンググループ形式で複数の企業担当者を集めたコラボレーションを主体としたツールや方法論の制作・開発などを行ってきました。

そして2015年4月11日ではその集大成となる Lean UX Circle 主催の国内カンファレンスLEAN UX Japan Conference 2015〜LEAN UXが拓く未来〜を開催します。

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日程:4月11日(土)
時間:13:30〜19:00(懇親会:19:00〜21:00)
会場:リクルート アカデミーホール
申し込み・プログラム:公式サイトをご覧ください

書籍「Lean UXーリーン思考によるユーザエクスペリエンス・デザイン」が刊行されてから1年以上が経過し、当ブログでも以前ご紹介したように様々な企業による取り組みがなされてきました。

本カンファレンスではこの1年間の各社による取り組み例をご紹介すると共に、組織への導入にあたっての課題解決に向けたヒント、並びに LEAN UX を取り囲むように誕生した、グロースハックやデザインスプリントのコンセプトをご紹介しながら、改めてLEAN UX の思想とその価値を参加者のみなさんと一緒に再発見・拡大していきたいと考えています。

400名以上の方が参加された昨年の LEAN UX 刊行記念セミナーとは異なり、今年は LEAN UX のオントロジーに主軸を置いたプレゼンテーションないしはディスカッションを主体としています。

開催背景と想い

LEAN UX はやり方ではなく、あり方です。手前味噌ですが、書籍が刊行されてから多くの企業様にお声がけいただき、ワークショップやプレゼンテーション、パイロット・プロジェクトをご一緒させていただいたと共に、様々なイベントで参加者の方々と意見交換をさせていただきました。

実に多かった意見として、

  • 構想に時間が要され、開発や実装との連動が難しく優先度が下がってしまう
  • 効果が見えにくい 

などがありました。 

LEAN UX は、他で言及されているようなデザインスプリントなどの手法とは異なり、マインドセットやコンセプトであると考えています。

それは、エンドユーザーにとって正しいプロダクトやサービスをつくることを念頭に置いた、組織における共創の文化を再確認・浸透させるための考え方であり、本来の組織としてあるべき姿を提示してくれる指針でもあります。

Lean Startup のルーツであるリーン生産方式は、無駄を省くことを徹底していましたが、誰にとっての無駄なのかを取り違えてしまうとスピードのみが重視され、かつ短期における結果を求める姿勢が強まってしまうことが背景としてあります。この「誰にとっての無駄なのか」を正すためにユーザー視点を取り入れた LEAN UX の思想が必要だと考えています。 

そのため、短期間で効果を期待するものではありあせんし、一度の実践では本質な価値が見出だせない可能性があります。

だからこそ LEAN UX の思想や価値を再確認し、再び探求していく必要性があるのではないかと考え、Lean UX Circle として本カンファレンスを開催する運びとなりました。

継続する努力

パレートの法則ではありませんが、Bloomberg の調査によると新規事業やスタートアップが18ヶ月で成功する確率は20%と言われています。ポイントは、18ヶ月という調査ながらも設けた期間が1年以上であることと、20%という数字です。

一時的な結果として捉えた場合に、20%という数値は低いですが、成功する確率を高める方法は継続だと考えます。もちろん、そのためにはプロダクトやサービスに込められた想いが大切であり、かつ継続するためのエンジンとなる軸を設ける必要があります。

答え合わせをするために無暗に回答を続けるのではなく、正しい答えを導きやすくするための仮説の設定と間違った理由を探るための視点を養うことができれば、数少ない回答で正解することができます。LEAN UX で度々ご紹介している CPS仮説検証モデルが、それに値します。 

話を少し戻すと、成功する確率を高めるためには一定の継続が求められます。ミドリムシビジネスで成功を収めているユーグレナ社長の出雲 充氏が提唱する実にシンプルな理論に納得が行きます。

例えば、「1回目の挑戦での成功確率が1パーセント」という状況があったとします。つまり99%は失敗する状況です。ではその状況であきらめずに2回挑戦した時の確率はどうなるか。2回とも失敗する確率は99%×99%=98.01%です。つまり、成功確率は約2%(1.99%)となり、1%成功確率が上がります。3回、4回、5回と続ければ4.9%。100回やれば63%。そして、459回やれば、最初と数字が逆になります。「一度やってうまくいく可能性が1%の出来事は459回繰り返せば、失敗する可能性が1%」になるんです。

失敗率99%のミドリムシ事業を成功させた男の"シンプルな法則" | Biz/Zine

 

失敗する確率が20%であろうと1%であろうと、数値のみで姿勢を変えるのではなく、継続して成功する確率を上げる努力と継続を支援するために LEAN UX があります。本カンファレンスでは大企業からスタートアップまで組織の規模や役職を問わず、LEAN UX の継続的な実践と実現をテーマとした様々な方のプレゼンテーションやディスカッションを行います。 

最後に

LEAN UX では構想のイメージが先行してしまいますが、書籍でも言及されているようにスタッガードスプリントの代替ソリューションとなるようなスプリントをはじめとする、構想から実現までを捉えた組織としての取り組み全体を視野に入れており、正しくモノをつくるためではなく、正しいモノをつくるための組織文化の醸成が価値に値します。

前後の工程を通じて同じ仕組みやプロセスを導入していないことを問題視するのではなく、同じ思想(想い)を用いてプロダクトやサービス開発に取り組めているかを考えるべきです。

結果として手法やプロセスも、以前ブログでもご紹介した人間中心設計の共通言語化に通じますが、組織ごとに異なるはずです。昨今話題のデザインスプリントも、Google Ventures が自身の組織ないしは自身がパートナーとして参画している組織形態に最適化するように設計されているがために、そのまま仕組みとして己の組織に導入することは創造性に欠けています。

このようなプロセスや手法の登場に伴い、組織への導入が騒がれると導入後の評価はプロダクトやサービスではなくプロセスや手法を軸に判断されてしまう恐れがあり、ユーザー視点が欠けてしまいます。

仕組み化は組織の状況にあわせて行われるべきだと考えます。そのような事態から打開すべく、本カンファレンスでは LEAN UX という思想をご紹介しながらものづくりや組織におけるやり方ではなく、本来のあり方を模索できればと考えています。

ぜひ、ご参加ください。

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