ハウツーが豊富な実用書ばかりを手に取るくらいなら、『Q思考』という書籍を推奨します。もともと当ブログでも何度も言及しているとおり、首題となる人間中心設計や UX デザインと呼ばれている手法体系は「問題解決」に重きを置きがちです。問題を解決するための手段として徐々に普及していますが、正しくモノをつくろうとする(正しい答えを求めようとする)意識が先行してしまうが故に、正しいモノの追求(正しい問いの追求)という本質が抜けてしまっているように思えて仕方がありません。
- 作者: ウォーレン・バーガー,鈴木立哉
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2016/06/24
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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人はなぜ答えを求めたがるのか?
Q思考の文脈に照らし合わせて言うならば、旧式での決まりきった方法やアプローチが幅を利かせているが故に、人は問いに時間を割くことを忘れ、答えこそが問題を解決し、我々を前進させ、改善の道を示してくれるという思い込みが生まれてしまいます。ではなぜ人は答えを求めたがるのでしょうか?本書ではその理由を以下のように説明しています。
- 問いを探ることは権威に刃向かうことになるという思考が働きやすい
- 確率された既存の仕組みやプロセスを混乱させるという脅威が働きやすい
- なぜその答えを求めているのか、問いに向き合う時間が不足しがち
- 効率重視の思考が働き、物事を考える視点が「モノをつくる」視点に偏っている
- 教育上、問いよりも答えを重んじるように教えられてきた
- 失敗への恐怖心が問いを探る思考や行動を阻んでいる
ほとんどの学校では生徒たちは質問よりも答えを重んじるよう教えられており、しかも大半の問題について正しい答えは「一つだけ」だと言われることが多いため、「答え」というものが世界のどこかにあって「発見される」、あるいは「偶然見つかる」「調べられる」「獲得される」「購入される」「手渡される」のを待っている、と私たちが考えてしまうようになるのも不思議ではない。
過去のエントリー「二輪駆動の人間中心設計」でも述べましたが、モノをつくるという観点から物事を考えてしまっては確率された人間中心設計のプロセスや手法で予め定められた手順を重視してしまうあまりにプロセスのツールやドキュメントなどのアウトプットに重点に置いてしまう傾向にあります。しかし、本来のモノづくりはユーザーにとって価値のある製品やサービスをつくり、提供することです。
そのためには本書でも述べている通り、
- 「モノをつくる」という観点から「問いを探る」という観点で物事を考える
- 製品やサービスは「具現化された問い」であるという思考に転換する
必要があります。
正しい問いは何をもたらすのか?
Q思考の著者は問いを「知性のエンジン」と称し、モノづくりを問いを探るための実験に次ぐ実験とと捉えるべきであると謳っています。これはモノづくりにおけるグッズ・ドミナント・ロジックからサービス・ドミナント・ロジックへのパラダイムシフトにも通ずる理論であり、製品やサービスを生産して顧客に届ける、というアウトプット単位のグッズ中心の考え方から製品やサービスはあくまでも顧客とサービス提供者間のインタラクションを実現するための手段であり、互いの問いを解決していくための価値交換を中心としたサービスエコシステムの構築という考え方への転換の必要性を意味します。
また、本書ではイノベーションの公式を以下に定めています。
基本の公式は「Q(問い)+A(アクション)=I(イノベーション)」だ。同時に「Q-A=P(フィロソフィー)」となる。
アクション、つまり実行や問題解決のみではイノベーションは生まれません。「イノベーションを起こせ」というアクション主体の考え方では正しいモノへと導くことが難しくなり、間違った使えるモノが生まれてしまいます。そのための回避策としてクエスチョン、つまり正しい問い、問題発見や問題定義を疎かにしてはなりません。
組織のトップにいる人たちはなぜ出世できたのだろうか。それは「答えを出すのがうまかったから」だ。「一方でそれは、問いを生み出した経験はあまりないことを意味しています」。
正しくモノをつくるよりも、正しいモノをつくる
正しくモノをつくるよりも、正しいモノをつくるー著者が常に頭の片隅に置いている信念です。
問題解決としての人間中心設計、UX デザインは語り尽くされました。ケーススタディも検索すれば大量にヒットします。しかし、ケーススタディに代表される手本に頼ってしまっては問いを拒絶してしまう思考に陥りやすくなるので注意が必要です。「現代は質問の黄金時代」とQ思考の著者は話します。オンラインのソースから答えがすぐに手に入る時代だからこそ、投げかけるべき正しい問いや解決すべき正しい問いはなんなのか、に時間を割くべきなのではないでしょうか。
答えからは距離を置き、問いの中に居続けること。
最後に、本書では問いを効果的に探るための問いかけの方法も紹介されていますのでオススメです。