運営として関わっているインターネットメディア企業でユーザエクスペリエンス設計業務を担当する人が集うコミュニティ「Shibuya UX」で昨日、「Lean UXーリーン思考によるユーザエクスペリエンス・デザイン」の出版記念パーティ(非公式)を兼ねたトークセッションを開催しました。
原書「Lean UX」の出版経緯
著者である Jeff Gothelf氏と Josh Seiden氏とは2年前、アメリカはニューヨークにて開催された「Agile UX NYC 2012」で初めてお会いしました。当イベントはアジャイル開発とユーザエクスペリエンス・デザインの融合をテーマとしてセッションが数多く開催され、今では「Lean UX NYC」と改名し、今年も4月上旬に開催されます。
以前ブログでも当イベントの概要をご紹介しましたが、「Lean UX」の根底にある考え方が既に議論されていたことが伺えます。
- スキルセットではなく、マインドセット
- Requirement(要件)を Hypothesis(仮説)に置き換える
- コラボレーション・センタード・デザイン
当イベントの主催者であった Jeff Gothelf氏は最後に切り出しました。
このイベントに参加している UX 関係者であればある程度の理解度は得られるけれども、まだまだ UX デザインのプロセスは他者からすればミステリーです。中で何が行われているのか、ブラックボックスのまま出てきたアウトプットを見てリアクションしなければいけない状態に陥ってしまっています。組織内で透明性が維持されていなければ、信頼は薄れていきます。コラボレーションはそんな危機的状況を打開してくれますが、それよりも大事なのな demystify、自身の行いを打ち明けることです。
ユーザエクスペリエンス・デザインは決して簡単ではない。だからこそ、打ち明けるべきです。そして、医者が医学用語の「感冒」を「風邪」とわかりやすい言葉に置換してくれているように、他社でも理解可能な共通言語で話せるようにならなければなりません。
この時点で Jeff Gothelf氏は「The Lean Series」のシリーズ・エディタである Eric Ries氏とも言葉を交わしており、「Lean UX」の出版に至ったそうです。
Lean UX ―リーン思考によるユーザエクスペリエンス・デザイン (THE LEAN SERIES)
- 作者: ジェフ・ゴーセルフ,ジョシュ・セイデン,エリック・リース,坂田一倫(監訳),児島修
- 出版社/メーカー: オライリージャパン
- 発売日: 2014/01/22
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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「Lean UX」は何本ですか?
オンライン上の書評を拝見していて「どちらかと言うと、デザイン本としてではなく、プロジェクト・マネジメントに有効活用できそう」などをご意見をいただき、かつ書店に足を運べば置かれている本のカテゴリが様々であることがわかりました。ビジネスとIT、経営戦略、ウェブ・開発など手にとっていただける方々がバラエティに富んでいることが印象的ですが、僕は「Lean UX」は様々なカテゴリに応用可能な普遍的なマインドセットだと考えています。
- チームから独立して働かない
- 何をつくるか、ではなく何が効果的か
- 正しく、ではなく正しいものを
- すべてのものは仮説であり、実験する
何度も取り上げているこれらの「Lean UX」のマインドセットはアタリマエかもしれません。実際にそのようなご意見もいただいているのですが、むしろそのような意見を多く得られることはとても良いことです。アタリマエである、ということは既にこの本に書かれている内容を実践されていることの証明ですし、これから実践しようと検討されている方からしても、このアタリマエと現実のギャップを認識する上ではとても価値のある書籍だと思います。
「Lean UX」とドラッカーの「マネジメント」
人間中心設計を始めとする各種プロセスや手法は、素晴らしいアイディアに制限を欠けてしまう恐れがあります。例として、人間中心設計の導入を検討するものの、導入するからには規定されている流れに従って進むことを決意し、結果として導入目的はもちろん、そもそも達成したい目標が前述のとおりブラックボックス化する現象に陥ってしまいがちです。
「Lean UX」の考え方は、その事態からの脱却を支援してくれます。そして、その根底にあるコンセプトは50年以上も前に出版された、ドラッカーの「マネジメント」にて提唱されているマネジメント手法 MBO(Management by Objectives:目標による管理)の考え方を取り入れていることがわかりました。
- 作者: ピーター・F・ドラッカー,上田惇生
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2001/12/14
- メディア: 単行本
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『MBO とは、組織のマネジメント手法の1つで、個々の担当者に自らの業務目標を設定、申告させ、その進捗や実行を各人が自ら主体的に管理する手法。1950年代に米国のピーター・ドラッカーが提唱したとされる。本人の自主性に任せることで、主体性が発揮されて結果として大きな成果が得られるという人間観/組織観に基づくもの。』ー Wikipediaより
「Lean UX」のマインドセットをドラッカーの MBO にあてはめてみましょう。
- チームから独立して働かない:分節化している企業の縦割り組織の在り方及び個々人の自主性や責任感を問いただします。
- 何をつくるか、ではなく何が効果的か:チームで達成したい共通目標ないしは目的(オブジェクティブ)が何かを問いただします。
- 正しく、ではなく正しいものを:共通目標ないしは目的に対してメンバーの仕事への取り組み方法(マネジメント)を問いただします。
- すべてのものは仮説であり、実験する:すべての行為における動機付け、及び達成感とは何かを問いただします。
「Lean UX」で大事にしている関係者全員の前提の洗い出しから対象のプロダクトやサービスの提供価値や目的を明示化することで、共通化を図り、何をつくるかという話題から何のためにつくるかへの移行、そして実際に候補となり得るユーザーと会話を交わすことでチームメンバーの行為における動機付けや達成感を与えることが可能になります。
結果として無駄が省かれ、組織で考える仕事の効率化をマネジメント観点から実現してくれます。
「もしドラ」で野球部の女子マネージャーが監督や部員の前で発した、「野球部を甲子園に連れて行く」という強い意志表示によって監督はもちろん、部員全員が共通目標に向かってそれぞれが主体的に動き、チームに一体感が生まれるようになりました。
もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら
- 作者: 岩崎夏海
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2009/12/04
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まとめ:「Lean UX」は「マネジメント」である
つまり、ユーザエクスペリエンス設計担当者がドラッカーの「マネジメント」を読んだら、「Lean UX」に書かれている内容が自然と実践できていることになります。
言葉を変えれば、「Lean UX」に書かれている内容を実践するためには、ドラッカーの「マネジメント」を読むことが近道なのかもしれません。
改めて、「Lean UX」とは何本ですか?という問いに対して。
「Lean UX」は、日本企業が抱えている潜在的な課題を表面化し、本来のモノづくり・コトづくりのあるべき姿に気づかせてくれる本です。
週末に日本全国で開催されている各種ハッカソンイベントに見られるような、短時間でコラボレーションしながらプロダクトやサービスをつくりあげていく協業の重要性は、そろそろ認められるべきなのではないでしょうか。
もしユーザエクスペリエンス設計担当者がドラッカーの「マネジメント」を読んだら。もうひとつの「もしドラ」ストーリーとして、ぜひ実践してみてください。