「モノづくり」から「コトづくり」、そして「ヒトづくり」へ

*本稿は、UX・ユーザビリティに関する記事を12月1日から25日までリレー投稿していく UX Japan Advent Calendar 2013 への寄稿記事です。

「モノづくり」から「コトづくり」

「モノ」から「コト」のデザインへ。僕自身がエクスペリエンス・デザインに触れる上で良く利用するフレーズでもあり、マーケットでも良く耳にするようになりました。端的に言えば、現代はモノである物質や製品などの時代から、コトである体験や思い出を重視する時代へ移行しているということです。

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((c) reCOVER by Fulguro)


モノづくりに集中して、良い製品を生産して顧客の満足を得るという工業製品が主体となった時代は終わり、近年ではそのモノ(製品)を介してどのようなコト(体験)が得られるのかという対価を重要視するようになってきています。

しかし、2013年のUX界隈の話題や参加した国内国外のカンファレンスを振り返ってみると、時代は「コト」のデザインを実現するために「モノ」から「コト」、そして「コト」から「ヒト」のデザインへと発想がシフトして行っているように思えます。

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((c) iStockphoto LP. All rights reserved.)

「モノづくり」と「コトづくり」の違い

今年を賑わせたニュースのひとつに Apple の iOS7 が挙げられます。Flat UI の概念を継承し、最適化された端末として iPhone 5s / iPhone 5c が発売されました。MM総研が発表した2013年度上期の国内における携帯電話出荷台数のシェアをメーカー別に比較してみると、iOS を搭載している Apple の iPhone が 2011年度下期より半期別では4期連続で27.2%(前年同期比4.9ポイント増)のシェアを獲得し、首位をキープしています。下期には docomo からも iPhone が発売されたため現時点よりもシェアを伸ばしていると考えられます。以降は Android OS を搭載したソニーモバイルやシャープと続きます。

一方で、スペック別に比較してみると、Android OS 搭載の Google の Nexus はバッテリー、解像度、画面のピクセル密度、カメラ画素では iPhone を上回りました。サードパーティのアプリケーションをダウンロードできる Android の Google Play で利用可能なアプリ数も Apple の App Store を上回っています。機能面でも NFC(遠距離無線通信技術)が搭載されているため電子マネーや定期券としても活用できます。最近ではバッテリーの持続時間を訴求するテレビCMも良く見かけるようになりました。

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(LJR.MIKE via Compfight cc)


でも、(上記以外の要因も考えられますが)シェアでは劣っているのです。

数値でみると Android OS 端末が如何に優れているのかがお分かりいただけますが、それでも iPhone のシェアが伸び続けている理由にこそ、「コト」から「ヒト」のデザインへの発想転換のヒントがあります。「ものづくりの発想転換~『もの』と『つくり』を別けて考えよう」という記事でものづくり経営研究センターの吉川良三さんはこう話します。

日本のものづくりは「つくり」に没頭し、いつの間にか消費者不在になり、何をつくるべきかという「もの」を考える発想自体が希薄になってしまった。1つの産業に複数社がひしめいているがゆえに、消費者よりも同業他社に目が行きがちになり、際限のない品質競争を繰り広げてしまった面もあるだろう。

(省略)

グローバル競争に勝つためには、日本企業はいたずらに「つくり」に尽力するのではなく、もっと「もの」に目を向け、シフトしていかなければならない。グローバル化、デジタル化が進んだ現在のものづくりにあっては、「どのようにつくるか」ではなく、「どのような"もの"をつくるか」で勝負は決まるからだ。

例に挙げた携帯電話のスペックもそうですが、数値は嘘をつきません。故に絶対的な情報としてユーザーの信頼を勝ち取るための要素として互いに争い、有利な立場を示すためのひとつの指標として専念してきたことも背景にあると思います。しかし、iPhone がシェアを伸ばし続ける理由、それは「モノ」ではなく「コト」を訴求し続けている点と、つくりたい「モノ」や「コト」を実現するための「ヒト」へ投資だと考えます。

「ヒトづくり」の時代へ

「モノ」から「コト」のデザインへの発想転換を実現している象徴的な企業として良く事例に挙げられる Apple ですが、事実、Mac という Apple の収益源の約半分を担っている製品のメディア露出が少ないのも、Apple の「コト」への魅力を感じた iPhone ユーザーがパソコンを Mac へと乗り換えることを狙っているためだと考えられます。但し、Apple はそれだけではありません。

購入直後に手渡される製品パッケージ、OS のインストール手順、初回起動直後のガイダンスなどユーザーフレンドリーで魅力を感じる方も多いと思いますが、もう1つ大事な差別化要因として挙げられるのが Genius Bar という「ヒト」の体制とオペレーションを徹底しているカスタマーサービスです。結果としてユーザーの知覚価値が体系化され、iPhone または Apple というブランドが支持されるようになりました。

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((c) Kazumichi Sakata. サービスは「モノ」づくりから「コト」づくりへ。そして「ヒト」づくりへ。)

当ブログでも何度か言及している「サービスデザイン」は、正にこの「ヒト」づくりに視野を広げるための概念の1つです。これまでのエクスペリエンス・デザインはユーザーの体験に着目し、競合との優位性を図るための術としてその重要性を訴えてきましたが、これからは「コト」づくりだけに留めず、そしてユーザーだけに留めず、様々な「ヒト」の体験の構築に重きを置くべきだと思います。結果としてそれが自社製品またはブランド価値の構築に繋がることも忘れてはなりません。 

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