RE: UXの本質について
UI/UXという並列表記は基本的に信用しない。これは、長谷川さんと話していると良く話題に上がります。
UI/UXの並列表記問題
某中途採用の求人検索サイトで "UI/UX" と入力して検索してみたところ、900件以上の UI/UXデザイナーの求人が掲載されていました。職域や必要なスキルは実に様々で同一の枠を争っている様子があまり見られないことが特徴です。"UI/UX" という旬なキーワードを盛り込み、場合によってはすべてをお任せしたい、そんなミーハー感が漂っているようにも思えます。長谷川さんのブログでも「UXの本質」と題して言及されていますが、UI/UXという誤用の弊害のひとつに、課題意識を狭めてしまうことがあります。
UIについては、担当部門が責任を持つ、ということは可能だが、UXについては問題意識を持つ部門があることは必要だが、その解決には複数部門を巻き込んだアプローチが必要であり、少なくとも画面設計のパートだけでは解決は難しい。
すぐれたUXの実現のためには、プロジェクト全体で取り組む必要があり、グローバルに見てもその傾向は強まっている。
それが、UI/UXという表現によって課題意識を狭めてしまうのだ。
求人検索サイトに限らず自社の採用サイトでも、"UI/UX" の並列表記によって対象の企業が課題と認識している領域が明確になっていないことを自然と明示してしまっているのです。もちろん、900件以上の掲載の1部には的確な意思表示をされている企業もいましたが、丸投げとも言える姿勢を見せている企業は少なくありません。
もし、優れた UX の実現に主軸を置いているのであれば、特定の「UI/UX デザイナー」等という職種のみが取り組むべき内容ではありません。前述の課題意識が組織全体に行き渡っていなければ、例え UI/UX デザイナーの採用に成功したとしても様々な弊害によって価値が発揮しづらく長続きはしません。
ユーザーに中長期的な WOW(Long-Term Wow)を提供し、期待に応け続けるためには、組織も変革させていかなければなりません。そのための第一歩として、組織全員がユーザーと向き合うことからはじまります。
素晴らしい体験は、素晴らしい組織から
以前のブログでも論じましたがビジョン(戦略)からプランニング(構想)、ビルド(実行)に移すための組織内での立ち振る舞がなされない限り、戦略含む UX の構想は絵に描いた餅に終始してしまいます。"UI/UX" という並列表記に見る両者の溝は更に深まるばかりです。
いくらアイディアが素晴らしくても、それが実行されなければそのアイディアも無価値に終わってしまいます。エクスペリエンスの設計価値は、実践を通じなければ永遠に証明されません。自身の足元である組織上の課題には触れずに「表向き(UI)」の改善施策のみに留まってしまっているケースを多く見てきましたが、結果として優れた UX が実現されることとは必ずしもイコールではありません。
デザインとは、想いを単なる想いに留めてしまうのではなく、そのままカタチにすることなのではないでしょうか。ウェブサイトなどユーザーとの特定のタッチポイントに絞ってしまうのではなく、文字通り体験全体にまで視野を拡げる必要があります。組織そのものの最適化やオペレーションの見直しなど、組織全体の取り組みとして推進されるべきなのです。
ユーザエクスペリエンスと事業戦略
ユーザーに提供すべきモノやコトを組織の事業戦略の骨格として取り入れていく UX Strategy(UX戦略)の重要性が高まってきています。
ユーザエクスペリエンス・デザインないしは人間中心設計の前段となる事業戦略及び提供価値が不明瞭では企業またはサービスの差別化は図れません。ユーザーから考えていくことが常識になりつつも、Donald Norman も反論しているとおり、どの組織も同様のアプローチを展開してしまうと似たような製品がマーケットに出回ってしまい、工業化時代の再来とも言うべき、個々の提供価値がエンドユーザーに伝わりづらい状況下に陥ってしまいます。
[...] first, the focus upon humans detracts from support for the activities themselves; second, too much attention to the needs of the users can lead to a lack of cohesion and added complexity in the design.
優れた UX の実現には戦略をも含めた全体最適が不可欠です。UI/UX から連想される、個別最適による効果の最大化は小手先のみに終わってしまい、以降の改善に向けた原因の追求は足止めとなってしまいます。
ユーザーの体験は、対モノとの関係性によって成立するものではなく、ヒト対ヒトのコミュニケーションの連鎖によって成立するものだということを念頭に置くべきだと考えます。
まとめ
ほかにも長谷川さんが取り上げた、グッズ・ドミナント・ロジック(モノ主体)からサービス・ドミナント・ロジック(コト主体)へのパラダイム・シフトの背景が合い重なり、優れた UX の実現には組織を横断してビジネスに変革をもたらす必要があることを考えると、UX は単に UI と同列に扱われるべきではないことがお分かりいただけると思います。
当ブログではサービスデザインやユーザエクスペリエンス・デザイン、LeanUX、そして今回は UX戦略について言及してきましたが、UX を突き詰めると最終的には組織論に行きつきます。
入り口はそれぞれ違うかもしれませんが、ぼくは単なるバズワードとして終わってしまっても構わないと思っています。同じような取り組みが実際多くの企業または人たちの間で行われたはずで、目新しさがないかもしれません。ただし問題は、似たようなことが行われていても、必ずしも体系的ではないために途中で挫折してしまったり、実践者の我流で行われていたために、他の人には理解できずに社内では広がらなくなっていたと思います。
そういう意味では "UI/UX" という並列表記問題は結果として課題意識を再確認する良い問いかけだったのではないでしょうか。加えて、これまで取り上げた多くのコンセプトや手法体系が世に誕生しなければ、当記事で取り上げた問題の核心に近づくことはできず、ここまで拡張性のある話題は展開できなかったはずです。
最後に、UX の本質と題して話題を提供してくださった長谷川さんに感謝します。
関連書籍:
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