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UXploration

Explore the art of UX persuasion

キャンバスとユーザーエクスペリエンス

antenna

キャンバスは油絵具やアクリル絵具を用いて描かれる支持体として普及し、現在知られている限りでは1400年頃に誕生したと言われています。それまでは板絵が主流だったようですが、多くの芸術家たちがその品質に魅せられ、キャンバスに移行していったようです。

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今でも多くの芸術家に愛用されていますが、一種の表現方法としてこのキャンバスに魅了され、より優れたユーザーエクスペリエンスを設計していく上でビジネスの現場においてもツールとして続々と誕生しています。

決まった型などありませんが、同じく「表現する者」としてキャンバスに魅力を感じることもあると思います。今回は、そのなかから代表例をいくつかご紹介します。

Business Model Canvas(ビジネスモデル・キャンバス)

ビジネスモデル・キャンバスは「Business Model Generation(ビジネスモデル・ジェネレーション)」の出版とあわせて日本に輸入されてきたキャンバスです。ビジネスモデルを着想し、完成させ、評価するための柔軟なテンプレートとして一般公開されています。

ユーザを中心に置いたビジネスモデル全体を俯瞰した設計や比較ができ、関係者全員が共通言語でビジネスモデルを共有できることがこのビジネスモデル・キャンバスのメリットとして挙げられます。

Lean Canvas(リーン・キャンバス)

リーン・キャンバスはスタートアップのビジネスモデルのビジュアル化をお手伝いするキャンバスです。不確実性が高いスタートアップにおいてはビジネスモデル・キャンバスの各要素がオーバーラップしていることが確認され、MVP(最低限実現可能なプロダクト)のコンセプトに従い、ビジネスモデル・キャンバスの記載事項を必要最低限に絞られていることが特徴です。

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(参照元:http://leancanvas.com/LeanCanvas.pdf

Validation Board(バリデーション・ボード)

Lean Startup Machine(リーン・スタートアップ・マシーン)から登場したスタートアップ界隈で活用されているキャンバスです。特徴的なのは不確実性が高い状況の中でCPS(Customer:顧客、Problem:課題、Solution:解決策)仮説検証モデルを用いて検証を進めていくことに特化したフォーマットであることです。

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(参照元:http://leanstartupmachine.com/validationboard/

Customer:顧客
ターゲットユーザ及びニーズの妥当性を検証。解決したい課題に該当しないセグメントの場合はピボット(変更)。

Problem:課題
ソリューションまたは解決策がアプローチすべき課題の正確性を検証。検証結果によってアプローチする課題をピボット(変更)またはそもそものセグメントをピボット(変更)。

Solution:解決策
顧客と課題を軸にソリューションの有効性を検証。ほかのピボットに伴いソリューションをピボット(変更)または特定のソリューションにフィットする課題・ターゲットセグメントをピボット(変更)。

Product Canvas(プロダクト・キャンバス)

大半は対ビジネスという関係において顧客思考を形式知化するツールがメインですが、一方で対デベロップメントという関係においては「Product Canvas(プロダクト・キャンバス)」が新たに活躍しそうなのでご紹介します。

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(参照元:http://www.romanpichler.com/blog/agile-product-innovation/the-product-canvas/

The Product Canvas brings together the key pieces of information necessary to create a new product: the users and customers with their needs, the product’s functionality and design, and the user interaction. It’s intended to be a collaborative tool that helps you state your ideas and assumptions, test them, and integrate the insights you gain.

実は、この開発者はビジネスモデル・キャンバスを参考に作成されたそうです。ビジネス・モデルとエンドユーザのリレーションやリーチを可視化し、正しい問題解決を促すことはできますが「では、どうやって?」の部分にポッカリ穴が空いてしまっていることに違和感を覚えます。

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実際にビジネスモデル・キャンバスは「要件定義」を目的に作られたわけではありませんので当たり前なのですが、「要件定義は」ビジネスサイドの人間とデベロッパー、そしてデザイナーの三者の意見を束ねる必要がある、最も重要な作業です。

そのような背景から、ビジネスモデル・キャンバスと併用することを開発者は推奨しています。項目をご覧になっていただいてお分かりになったかと思いますが、アジャイル開発につなげるための HCD なエッセンスがこのプロダクト・キャンバスには含まれています。

Vision(ビジョン)
ビジョン・ステートメントでは対象の商品やサービスの背景にある意図や動機を述べます。短く、簡単な文章にまとめましょう。

Product Name(商品名またはサービス名)
対象の商品名またはサービス名を記載します。

Personas(ペルソナ)
ターゲットとする顧客セグメントを代表する、問題解決を促すユーザを説明します。このエリアでは「誰が」「なぜ」対象の商品またはサービスを使いたいと思うのかを説明しなければなりません。

Journeys(フローやシナリオ)
ペルソナと商品またはサービスの複合的なインタラクションを記載します。ダイアグラムやストーリーボード、ストーリー・マップなどのイラストを描いても構いません。

Epics(ストーリー)
対象の商品またはサービスの主要な機能をスケッチするためのハイレベルなストーリーのことを指します。ペルソナの名前を物語の一部に含めることで、問題が解決されるか否かを検証します:<この機能>を使うことで<ペルソナの名前>が抱える<ニーズや課題>を解決することができます。すべてのストーリーを記載するのではなく、ペルソナが抱えるニーズを満たせているか否かを検証できる本質的なストーリーのみを記載します。

Design Sketches(ワイヤーフレームやスケッチ)
デザインのアイディアを記載します。Epics(物語)同様、ペルソナにとってクリティカルとなるインターフェースやデザインのみにフォーカスします。ユーザからのフィードバックが得られ次第、アップデートしていくことを推奨します。

Constraints(制約)
パフォーマンスやオペレーション、アーキテクチャなどユーザーエクスペリエンスに影響のある制約が商品やサービスがある場合は記載します。データ通信やトランズアクション数など技術的品質の検証を確保するためでもあります。

Ready Stories(スプリントのためのストーリー)
上の Epics(ストーリー)をより小さくかつ詳細に記載し、番号を割り振ることで次のステージであるアジャイル開発に直結させます。結果としてスクラムを実施した場合のスプリントごとのゴールが達成されます。スプリントのためのストーリーは実現可能性・検証可能性を担保し、かつ LeanUX のコンセプトである Minimum Viable Product(最低限必要な機能)を定義できるレベルにまで落とさなければなりません。

AgileUX のエバンジェリストでもある Anders Ramsay が AgileUXNYC 2012 で言っていましたが、"UX must adapt to Agile(UXはアジャイル開発に順応すべきである)"の言葉がそのまま実現されたような素晴らしいツールです。

Customer Experience Map / Canvas(カスタマー・エクスペリエンス・ジャーニーマップ/キャンバス)

以前ブログでも取り上げた「ユーザー・エクスペリエンス・ジャーニー・マップ/カスタマー・エクスペリエンス・マップ(呼び名はどちらでも言いそうです)」もキャンバスの一種に含まれます。このキャンバスは、無機質になりがちなユーザ(ペルソナ)に物語(ストーリー)を加え、視覚化し描写することで組織内でユーザの Experience の共感を得るツールとして注目を浴びています。

サービスや導入するタイミングによってキャンバスの絵は変動するため、決まったテンプレートはいまのところ存在していないようですが、それぞれの特性を理解して必要に応じて取り入れるほかありません。

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(参照元:http://files.thisisservicedesignthinking.com/tisdt_cujoca.pdf

Service Blueprint Canvas(サービス・ブループリント・キャンバス)

サービス・ブループリント・キャンバスはサービスそのものとサービスの相互作用を上下にラインを表示するようなグラフィカルな手法で、その名のとおり、サービスの「青写真」と呼ばれています。良く上記の「カスタマー・エクスペリエンス・マップとどう違うの?」と聞かれますが、本質的には一緒ですが、ユーザからのインプットとなる定量的な情報がカスタマー・エクスペリエンス・マップに含まれていることに対して、サービス・ブループリントは定性的な情報のみで完結している印象を受けます。

そのため、顧客の満足度や使い勝手などの定量的な指標をエモーショナル・グラフとして設けたい場合はカスタマー・エクスペリエンス・マップのほうが向いているかもしれません。

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(参照元:http://kipworks.com/upmc_holisticbook.pdf

Kanban Canvas(カンバン・キャンバス)

カンバン・キャンバストヨタ生産方式から誕生したツールであり、現在ではアジャイル開発において壁にカードを貼るようにプロジェクトを見える化することで、タスクを効率よくマネジメントするために活用されています。

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(参照元:http://www.crisp.se/kanban/kanban-example.pdf

まとめ

ほかにも紹介しきれていないキャンバスがあるかもしれません。ばらばらのように見えますが、サービス・デザイン(サービス自体の価値定義)、アクティビティ・デザイン(サービス実現のためのシナリオ定義)、インタラクション・デザイン(インターフェースの検討)のように UX デザインの階層別に分類すると一貫性があって応用できることがわかると思います(コンセント長谷川さん談)。

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そして、まだまだ UX デザインのプロセスは第三者からすればブラック・ボックス状態です。中で何が行われているのかが全くわからない状態に陥ってしまっているチームメンバーが多いことと思います。不透明であれば不透明なほど、信頼は薄れていきます。一枚絵で全体像を描くきっかけを与えてくれて、かつメンバー全員の共通言語となるキャンバスはそんな危機的状況を打開してくれるはずです。

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