160回目となる DevLOVE にお招きいただき、Theatre Cybird という素敵な会場をお借りしてセッション「Lean UX: Designing Culture〜ルールではなく文化をつくる〜」を昨日の夜、開催しました。(過去に DevLOVE で担当させていただいたセッション:素晴らしい体験は、素晴らしい組織からーサービスデザインとエンタープライズ・アーキテクチャ)
当日参加された Takeshi Arai さんがご自身のブログに詳細のレポートをまとめてくださいました。ありがとうございます。
偉そうなことは決して言えませんが「もしユーザエクスペリエンスの設計担当者がドラッカーの『マネジメント』を読んだら」でもご紹介したように、監訳させていただいた「Lean UXーリーン思考によるユーザエクスペリエンス・デザイン」の根底にあるコンセプトは50年以上も前に出版された、ドラッカーの「マネジメント」で提唱されているマネジメント手法 MBO(Management by Objectives:目標による管理)と類似していることがわかりました。
『MBO とは、組織のマネジメント手法の1つで、個々の担当者に自らの業務目標を設定、申告させ、その進捗や実行を各人が自ら主体的に管理する手法。1950年代に米国のピーター・ドラッカーが提唱したとされる。本人の自主性に任せることで、主体性が発揮されて結果として大きな成果が得られるという人間観/組織観に基づくもの。』ー Wikipediaより
Lean UX は無駄を無くすことが目的ではありません。リーン・ボディという表現があるように、目指しているのは筋肉質な(企業)体質とその維持にあります。
一般的にダイエットを成功させるためには、半強制的な食事制限を自身に課すのではなく、生活習慣の見直しが求められていると思います。そしてこの生活習慣を企業にあてはめると、企業文化に相当します。企業文化を見直すことで、結果としては無駄が省かれるようになります。繰り返しますが、Lean UX の目的は無駄を省くことではありません。
特に IT 業界に至っては、企業文化の見直しが早急に求められているのではないかと考えます。なぜなら、IT 業界の変化は恐ろしいほどに速いからです。Web 2.0 という2000年代中頃以降における、ウェブの新しい利用法を指す流行語から始まり、近年ではモバイルやタブレットなどの情報取得チャネル数がここ数年で何倍にも膨れ上がっています。そして、企業に至っては企業価値が2倍になったり半分になったり、倒産する企業もあれば新たに資金調達を成功させる企業のニュースが毎日のように届けられます。
そんな競争社会に、我々はいま生きています。
つまり、これからの IT 企業は
- サービスとして成し遂げなければならないことはなにか
- それを成し遂げられなければいけない企業はどうあるべきか
を追求しなければならないのではないでしょうか。この本質を突き詰め、大体的な組織改革を進めている企業がいます。
米国の Yahoo! です。同社の CEO として2年ほど前に就任したマリッサ・メイヤー氏は物理的に場所を共有するように従業員に命じました。一部社員から反感を買っていましたが、結果としてひとつの Yahoo! となり、株価も就任時より1年で74%も改善しました。Yahoo! の歴代 CEO と比較してもトップだそうです。
世の中は、オフィスに束縛されず、IT を最大限に活用してノマド的な働き方の方向に向かっていますが、協力的にかつランダムにアイデイアをぶつけあう環境を構築することで、「三人寄れば文殊の知恵」という日本古来のことわざにもあるように、素晴らしいアイディアが生まれやすくなったと彼女は話します。
生産性よりも創造性を優先し、企業文化の再編に成功した Yahoo! のように、企業の本質は「文化」だと思います。企業文化をデザインする。これこそが正に Lean UX が目指している世界でもあります。
企業文化の再編に挑むことは決して容易ではありません。特に長い歴史を有している企業に至っては影響範囲が大きく、世界で100年以上の歴史を有する企業の約半数が日本企業であることから、変化を受け入れ難いことは確かです。それでも、僕はこのタイミングで Lean UX が日本に少しづつ浸透していることを大変嬉しく思っています。なぜなら、Lean UX は企業が潜在的に抱えている課題を表面化し、本来のモノづくりないしはコトづくりのあるべき姿を追求させてくれる取っ掛かりになると考えているからです。
言い訳ではありませんが、Lean UX は「銀の弾丸(silver bullet)」でも、「万能薬(panacea)」でもありません。Lean UX は、マネジメントであり、手法でもあり、マインドセットでもあります。故に、こうすべきである/こうでなければならない、などのルールのような縛りは与えられていません。
これまで当ブログで繰り返しご紹介していることを心掛けて取り組んでいければ、本書で紹介されている文化に一歩一歩確実に、かつ自然に近づいていくのではと考えています。
僕はまだ未熟者ですが、読者の方々と一緒に本来のモノづくりないしはコトづくりを実現するための企業文化の醸成に向けて、前に進んでいきたいと思っています。