一般の人、ことにアメリカでは神は絶対的な存在として文化的に受け継がれてきているため、人類のルーツを辿る「Darwin's Theory of Evolution : ダーウィンの進化論」をこころよく受け入れたがらないそうです。ほかにも科学や社会学、人文科学と対局にあるとされている進化論を、著者であるデイヴィッド・スローン・ウィルソン氏は始めて大学の講義として取り上げました。反発も多かったそうです。
しかし、進化論は科学や社会科学、人文科学の垣根を取り払うことができる共通言語です。決して対極に位置するのではなく、互いを理解する一環として進化論の考え方を取り入れなければならないとウィルソン氏は主張しています。
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自然選択肢
チャールズ・ダーウィンとアルフレッド・ウォレスによって体系化された「Natural Selection : 自然選択肢(自然選択説)」をまずは理解する必要がありました。自然選択説は、厳しい自然環境が生物に無目的に起きる変異(突然変異)を選別し、進化に方向性を与えるという説です。ダーウィンは、その説の中で3つの自然選択しを導き出しました。
- 変異(個性は遺伝性変異ではない)
- 結果(能力の違いにより生じる)
- 遺伝(子は両親に似る)
微生物をはじめとする人間以外の生物の脳にはプログラムされている作業を機械的にしつづけるばかりで、自覚や創造性は見受けられないため、環境への適応による進化を目の当たりにすることができます。本作では、様々な生物を進化論の題材として研究されている事例が数多く紹介されており、進化は、主にこの3つの要素によって成立していると考えられることが出来ます。
進化論の基本原理
著者をはじめとする進化論者は、物質世界と自然選択に基づく考え方を説明する際に、以下の2つの言葉を使用することが多いそうです。
- 究極要因 - 生存と繁殖を手助けする「生命の機能の基本原理」
- 至近要因 - 身体のメカニズムに関するシステムを構築している「身体の基本原理」
至近要因でもある行動の差がどんなふうに究極要因である生存と繁殖に関連するかは環境によりけりですが、行動の違いが遺伝子の根本的な違いに基づいていることもあるようです。また、発生過程での遺伝子のスイッチの切り替えや短期の学習などのメカニズムで生じるとも考えられます。ここで、1つの疑問が浮かび上がってきます。環境への適応は利己的遺伝子(スイッチ)によって生じる自然現象なのか、無意識の選択によって成立する現象なのか。奥深いこの洞察は、実用的な楽観主義の一形態に繋がり、適切な状況を与えて生活水準の質を高めてくれますが、事実に直結する理論はないとのこと。科学のように仮説と検証の過程が繰り返され、今も続いているようです。
集団を生む自発性
『「進化論」とひとこと言うと「遺伝子決定論」と言う言葉が返ってくることがある。私たちは行動が遺伝子で決定されていて、遺伝子が変化できないなら、どんなに望んでも行動は変化できない。社会の不公平は遺伝子に由来するのだから、根絶できるはずがない。』 - pp109
人間に限定されてしまいますが、進化が利己的遺伝子によって生じる現象であるならば、何があって人間の進化の三大C(Cognition : 認知、Culture : 文化、Cooperation : 協調)に変化したのだろう。本作では人間が有機体*1の集合(複数の固体)から有機体としての集合(社会)となる進化の移行の最先端にいるということにヒントがあると解説しています。
集団的志向の主要な特徴への進化は、平等の強化によって導き出されたものとされており、これは前述した有機体の集合から有機体としての集合への変身した特定の例です。集団構成(コロニー)に自発性が生まれることは、まさに進化論の視点から予想することが可能であることを証明しています。学習は進化して身につけ、頭の中で行なわれている複雑な処理や集団の石毛えっ低を視覚処理で考えるのでさえ、進化論の考え方が必要になってきます。結果として、人間は正しい道を進んでいることが証明されています。同時に、ジェームズ・スロウィッキー氏の「みんなの意見は案外正しい」でも分析されている有機体としての自発性や多様性は、人間の必然的な進化であるとも捉えることができるのではないでしょうか。
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まとめ
前述しましたが、進化論は科学や社会科学、人文科学の垣根を取り払うことができる共通言語です。ダーウィンの進化論は主要な仮説を様々な分野に細分化して提供し、基盤にして各々の理論を確立させています。対極に位置するのではなく、共存できることを著者のウィルソン氏は訴えていました。
それぞれを同じ造形活動の産物と考えられるのであれば、まだ、ダーウィンの説が発表されたばかりの時代と何も変わらないと思います。ダーウィンの説は基本的な故に、普遍的です。長々と書いてきましたが、私たち人間が日頃から行なっている行動は全て、進化論の視点で解説することができてしまいます。本作は、独自の発見を促す視点や考え方を読者に与えてくれて、読者も進化論の世界の広さと奥深さを実感することができると思います。
進化論者になるわけではありませんが、「今」を司っているのは、何十億年も前から蓄積されてきた進化の過程によって作り出された世界だと捉えることができたならば、その時点で立派な進化論者です。