「広い世界を見るのだ。」- 映画『GO』より
そう思った2日間でした。海外のカンファレンスに参加したのは実は今回が初めてで、これまでは気持ちだけで終わってしまっていました。改めて、業界の動向や個人的な経験を踏まえて今こそ周りを見渡してみる必要がありました。
今回参加したイベントは、職種を問わず世界中から約200名もの UX 関係者が集う AgileUXNYC 。1日限りだったので行くべきか迷いましたが、TEDx のプレゼン(この場合は TEDux?)に負けずとも劣らないほどのポテンシャルで圧巻でした。当イベントの公式ビデオが近々公開されるようなので、ご期待ください。
セッションはもちろん、個別に繰り広げられたディスカッションに参加してわかったことは、各々が抱えている課題や現況は日本とはさほど違いはないということ。ただ、コンフィデントなんです。なぜなら、彼らはベスト・プラクティスよりもワースト・プラクティスやワースト・シナリオに重きを置いていて、結果として発想の転換から導き出されるコンセプトやアイディアをユニークかつ確実性の高いものに仕上げています。
他者のサクセス・ストーリーのような成功を成し遂げる確立よりも、他者と同じ失敗を経験する確立のほうが何倍も高いでしょう。
スキルセットではなく、 マインドセット
「Web は Customer Development(顧客開発)の原点に立ち戻った」と話すのは投資家の Eric Burd さん。AgileUXNYC の1つの特徴は、参加者のバックグラウンドがバリエーションに富んでいたということ。文字通りの UX デザイナーがいれば、経営者やデベロッパー、そしてデザイナーからマーケティング PR の担当者がスピーカーないしはオーディエンスとしてコミットしています。Eric Burd さんは投資家の観点から企業動向を分析されていて、デザインもデベロップメントも Customer Development の動向に従って変わっていくべきだと指摘します。その1つとして AgileUX がありました。
これはスキルセットの問題ではなく、AgileUX そのものへの理解を示す努力を見せるか否かのマインドセットの問題なんです、と繰り返します。昨今、ビックデータの重要性が問われていますが、データ・ドリブンであると組織が意思表示することに、もはや意外性はありません。優れた企業では、定量と定性は別けないようです。なぜなら、定量分析だけでは人は動かせないことに薄々と気づき始めているからです。
では何が人(組織の人間)を動かすのか?どのようなインサイトをプロダクトに反映させるべきなのか?何を計測すべきなのか?個人的にも定量分析は定性ありきと考えていたため、このような論点は非常に共感できる部分が多いです。(極端な話、定性的な観点から導き出される論拠を補助するために、定量解析データを共通ダッシュボード化すべきだと思います。)ポイントは、タンジブルであるということ、そして企業文化に根付かせることだと Eric 氏は言います。
この"Customer Development"にフォーカスしたセッションはほかにも数多く登場しました。Meetup の代表を務める Andres Glusman さんは自社が取り組んでいる Customer Development の方法論について取り上げていました。
Requirement(要件)を Hypothesis(仮説)に置き換える
このブログでも度々登場している Janice Fraser さんが所属する LeanUX のコンセプトを推進している LUXrco のメンバーも AgileUXNYC に参加していました。スピーカーとして登壇した Josh Seiden さんもその1人です。
AgileUX を組織内に浸透させるべき一手段として Josh さんは Requirement(要件)を Hypothesis(仮説)に置き換えることを推奨されていました。仮説思考を用いることができれば、 これまでの要件ファーストの Waterfall よりもチームをより効果的にマネジメントすることが可能になるとのことです。
確かに、従来は要件定義のステージと設計・開発ステージにプロジェクト・ライフサイクルが区分けされていたが故にビジネスサイドとデザイン・デベロッパーサイドの間に見えない壁が存在していました。なぜか。ビジネスサイドが表現するニーズがそのまま要件として捉えられてしまうことが背景にあります。一度確定した要件はフレキシブルではありませんし、意思決定権が偏っている日本では尚更です。一方の仮説は不確実性要素が高いため、先ほどの顧客開発ではないですが、その手のニーズは本当に存在しうるのかを検証して学ぼうとする姿勢を保ってくれてます。仮説は更に細分化することで、Lean Startup のエッセンスでもある MVP(Minimum Viable Product) も定めることが容易になると Josh さんは話します。Hypothesis > Sub-Hypothesis > Pain > MVP のフレームワークです。
Collaboration Centered Design
イベント中に最も言及されていたキーワードはいわずもがな、"Collaboration" です。D/E 問題のみではなく、ビジネスと顧客のインターセクションも含みます。時間の確保が困難なステークホルダーをユーザとのランチセッションに招き、チームでヒアリングを行なう定期ランチを開催している会社がありました。確かに、ステークホルダーがどんなに忙しくともランチの時間は設けているであろうという仮説はあります。
また、同じく LUXrco の Lane Halley さんは Cross Functional Pairing を紹介されていました。デザインとデベロッパーのロールがお互いに変化していることから得意分野は意識せずにユーザ・インタビューやコーディングをペアで行なうそうです。元々 Agile 開発にはエンジニア間で Pair Programming する風土がありますが、よりスピーディーにかつ成果をビジュアライズするには Cross Functional Pairing が最適だそうです。
従来と AgieUX のそれぞれの特徴をリレーとラグビーに例えて解説されていたのは Anders Ramsay さん。UX デザイナーは Agile の実践フィールドで従来の Waterfall のような動き方をしてしまいがちだと指摘します。Anders さんご自身も UX デザイナーなので、説得力があります。確かに、リレー形式にように孤立状態でハンドオフするだけではエクスペリエンスのデザインは不可能ですし、後々書きますが、UX のブラックボックスからは抜け出せません。
ラグビーのように連続的なコラボレーションを繰り返し、かつゴールラインを割っても勝つまでトライを目指しつづける姿勢は AgileUX そのものかもしれません。更にはポジション関係なくパスしていくプレースタイルも、ペーパープロトタイプからビルド、コーディングまでの一連の連携に近いです。ボールを廻すような連携プレー、Cross Dimentional Passing Game をマネジメントするのが UX デザイナーなのかもしれません。最後に Andres さんは話しました。Collaboration Centered Design ですよ、と。
まとめ
イベントの主催者である Jeff Gothelf さんが切り出しました。これ(AgileUX)は、ブラックボックスです。このイベントに参加している UX 関係者であればある程度の理解度は得られるけれども、まだまだ UX デザインのプロセスは他者からすればミステリーです。中で何が行われているのか、一切不明のまま出てきたアウトプットを見てリアクションしなければいけない状態に陥ってしまっています。不透明であれば不透明なほど、信頼は薄れていきます。コラボレーションはそんな危機的状況を打開してくれますが、それよりも大事なのな demystify、自身の行いを打ち明けることだと話します。そして、医者が医学用語の「感冒」を「風邪」とわかりやすい言葉に置換してくれているように、共通言語で伝えるあるいは造って教えなければなりません。
(Jeff Gothelf さんのプレゼンテーション資料はこちら)
最後に、AgileUX が約束してくれるものは何だろうという話になりました。Agile Manifestoの1つに valuable software(価値あるソフトウェア)を創出すること、とありますが、UX がまさにその価値の責任を負わなければなりません。価値の最大化に向けて、AgileUX は今後も更にシフトしていくでしょう。我々も、まずは以下のマインドセットをきちんと整える必要があるのではないでしょうか?
- Requirement(要件) は Hypothesis(仮説)になる。
- Design(デザイン) は Experiement(実験) になる。
- Output(成果物) は Outcome(解決策)になる。
- Deliverables(プロダクト) は Value(価値) になる。
AgileUXNYC の各セッションを要約したカンファンレンスの Redux を近々開催したいと思っていますので、お楽しみに。id:wayaguchi が当日 Ustream 中継をされていたので、あわせてどうぞ。