サイレント・ニーズを探る5つのステップ ー #UXJapan Forum 2015

はじめに

当記事は11月22日(日)に開催された「UX Japan Forum 2015」でお話させていただいた内容のフォローアップ記事です。

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当フォーラムのテーマは「サイレント・ニーズを探る」と題され、各セッションではプロダクトやサービスを構築する上でエンドユーサーないしいはカスタマーの隠れたニーズを抽出し、その後のサービス開発に応用するための方法や具体的なケーススタディについて語られました。

著者のセッションでは「サイレント・マイノリティ」と題し、以下2つのトピックについて解説をしました。

  1. ユーザーの声なき声(=サイレント)に耳を傾けるには?
  2. ユーザーの声なき声を少数派(=マイノリティ)に留めないための仕組みは?

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また、今回のセッションでは著者が担当しているプロジェクトで正にこれから試みようとしている仕組みづくりと、今年半年かけて受講した、IDEO が主催するオンラインスクールへの参加から得られたインサイトを交えてご紹介していく予定です。

なぜ、ユーザーの「声」なき「声」なのか?

ユーザーの声を聞こうーユーザエクスペリエンス・デザインやデザイン思考の普及に伴い、この言葉をよく耳にするようになりました。

ユーザーが不在の状態からの脱却を目指し、ユーザーの声を取り入れる活動が活発になってきていますが、一方でユーザーの「声」を聞く活動には実に様々な思惑や目的が存在します。

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ユーザーの声に耳を傾ける行為、手段が目的化してしまい結果として「ユーザーを知ったつもり」症候群に陥ってしまうケースです。ユーザーの声は確かにチームやサービスを前進させる強力なトリガーとなりますが、声を実現しても改善に直結せず、利用に至らないことも結果として少なくはありません

「あの時、ユーザーはXXが欲しいと話していたのに、いざ実装してサービスに装着してみたら利用されなかった」なんて経験をしたことがある人は少なくはないと思います。

それもそのはず。その時々のコンテキストによってユーザー自身が抱える課題は変動し、解決手段もその時の判断に委ねられているため予測はできません。未来を訪ねる質問はNG、と言われる背景にはこのような過ちが存在します。

つまり、

  • ユーザーの声に答えれば、ユーザーは満足するという前提が間違っている。
  • 傾けるべきはユーザーの「声」ではなくユーザーの体験、ユーザーの声なき「声」なのです。

当イベントでではその重要性を理解すべく、プチワークショップを開催しました。それは、3人1組のチームを形成し、出題者を1人決めこれからお見せする質問を「声無し」で表現するというクイズ形式のものです。残された人は回答者として出題者が出題する質問を回答します。

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当てることがこのワークショップの目的ではありません。同じ質問を出題する人でもサイレントでコミュニケーションしなければならないため、ボディランゲージを通じた表現のパターンは実に人によって様々です。

つまり、その人の特性を理解するには声だけではなく声なき声に注意を払う必要があります。そして注意を払うということは相手に対する関心を抱くということです。

「声なき声に耳を傾けることが無関心への最大の武器。」ー Shannon Galpin

ユーザーの声なき「声」には、ユーザーの実際の「声」以上の価値があるのです。

サイレント・ニーズを探る5つのステップ

セッションの後半では冒頭でお伝えした IDEO が主催するオンラインスクールで学んだサイレント・ニーズを探るための5つのステップをご紹介します。

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1. Observing(観察をする)

インタビュー実施前やエスノグラィ調査などで先ずはユーザーを観察します。観察せよ、と言ってもただ眺めているだけでは大事なインサイトを逃してしまう可能性があるため、先ずは以下のポイントを抑えることが重要です。

  • その人の行動に影響を与えている因子はなにか?
    例)持ち歩いている荷物、服装、など
  • その人の周囲の環境への適応方法はなにか?
    例)周囲の観察、第三者へのコンタクト、など
  • 一番気にしていることはなにか?
    例)気温、周囲からの反応、など
  • 目立ったボディランゲージやジェスチャーはなにか?
    例)ろくろを回す、腕組み、など
  • 癖はあるか?
    例)髪型をいじる、貧乏ゆすりをする、など
2. Analyzing(初期仮設分析)

対象のユーザーとのファーストコンタクト(インタビューなど)ではまず相手が自身が関わるプロダクトやサービスにおいてどの利用ステージに位置付けられるユーザーなのか(アーリーアダプター、アーリーマジョリティなど)を見極めます。

  • 基本デモグラは?
    例)年齢、性別、家族構成など
  • 行動特性は?
    例)初心者、熟練者など
  • その人のモチベーションはどこから生まれるのか?
    例)金銭的インセンティブ、など

初期段階で対象のユーザーのポジショニングを設定することで、その後の質問を変えていきます。

3. Interviewing(インタビュー)

質問構成については参考文献が世にたくさん存在しているので深くは追求しませんが、相手をより深く探求すために注意すべきポイントをご紹介します。

  • オープンな質問を聞くこと(はい、いいえ、の質問は避けること)
  • 「実際に見せてもらえますか?」と訪ねること
  • 質問内容は広く浅く、から深く狭くへ
  • その人との信頼関係を構築すること
  • ギャップに注意すること

最後のギャップとはなにを指すのか?「実際に見せてもらえますか?」と訪ねる際に、その人の人間性がわかるスマホの画面やカバンの中身を実際に見せてもらうことで、声からは見えてこない本当の、その人らしさが垣間見れます。

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例えば就活を控えているこの学生の場合。実に優秀そうな学生ですがボイスケア用品を常に持ち歩いているようで、就職を考えていないことがわかりました。尋ねてみると、声優さんになりたいそう。これが、インタビュー(声)からは見えてこない、ギャップです。結果としてその後の質問が深く狭くなります。

4. Immersing Empathy(共感に浸る)

インタビューや観察後は実際に自分に体験してみることが大切です。ユーザーを知ったつもり症候群からの脱却には追想体験が有効です。

  • 視点を変える
  • 自身にハンディキャップを与える
  • DIY
  • アナログな体験をする

例えば、高齢者を対象としたインタビューではメガネにグリスを塗るなど、視界の狭さを実感することで、その人の行動に影響を与えている因子に気づくことができると共に更なるアイディアの発展が見込めます。

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5. Sharing Insights(洞察の共有)

チームメンバーやその他メンバーに結果を展開する時に注意すべきこと:

  • 個別のデータ(個票)を収集する
  • 統合と分散を繰り返し意味を見出す
  • 洞察を加える
  • 視点を展開する(ストーリーテリング)

重要なのは、冒頭のワークショップでもお伝えしたようにモチベーションを与え関心を抱かせることです。そのためには、ただユーザーの声を記録したメモを展開するだけではなく、カバンの中身やその人の特徴的な行動などその人の人となりがわかる要素を追加し、文字通りの「ユーザー視点」を構成します。

まとめ

ユーザーの声なき声に耳を傾けるためのサイレント・ニーズを探る5つのプロセスをご紹介しました。ユーザーの声を周囲に届ける際、発話録など実際にユーザーが口にした言葉をエビデンスとして残しておくことは決して間違いではありませんが、それだけでは周囲を巻き込むことは困難です。

料理されている様子をずっと見ていると、その料理を食べたらどんな味だろうか?と思うがあまり食べたい気持ちになるように、プロセスを見せることがやがて共感を生みます。

ユーザーの声なき声は、プロセスを見せることでしか証明できません。ただし、これはユーザーに定期的に会っていることが前提となります。

みなさんに質問です。

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ユーザーを知ったつもりでいませんか?ユーザーを知ったつもり症候群に陥ってはいませんか?ユーザーのためにつくることと、ユーザー視点は異なります。

著者も、ユーザーの声なき声を少数派(=マイノリティ)に留めないための仕組みづくりを始めています。それは、月に1回、ユーザーと会話する機会を半強制的に設け、メンバーから質問したい、または会話しないアジェンダを募集し、取りまとめを行うオペレーションを設計し、定期運用を始めています。

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実際にカスタマージャーニーマップのような共通の「ものさし」を作成し、定期モニタリングを兼ねたアップデートを月単位で行っています。ユーザーニーズが多様化し、変動が激しい今日だからこそ、作ったままで終わりにしないことが大切です。

実際にここから生まれた施策が多数生まれ、ユーザーへの共感が組織的に強化され始めてきました。まだまだチャレンジはあるものの、これまで以上にユーザーと向かうことが求められていることは確かです。

なぜなら、UX における協業優位性は、同じ業界の誰よりもユーザーのことを理解できているかで決まるからです。

そのためには先ず、我々自身がサイレントになっていてはNGです。さあ、ユーザーを探しに行きましょう!

Silent Minority(サイレント・マイノリティ) from Kazumichi (Mario) Sakata

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このエントリーは「UX Tokyo Advent Calendar 2015」の5日目の投稿です。

関連記事:

Empathy:いま、デザインに求めらていれるエンパシーとは?

当記事は9月8日に開催された「UX Jam #2」でお話させていただいた内容を参考にしています。

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UXデザインの仕事の本質は、日々進化するツールやフレームワークを使いこなすことではなく、ユーザーへのエンパシーを高められるよう、日頃からいろいろな体験をしておくこと。そしてそんな体験をシェアし合う場が求められている、というお話でした!

ー 【イベントレポ】ゆるく学ぶUXイベント UX JAM #2 | UX MILK

Empathy とは?

Empathy(エンパシー:共感力)に着眼点を置いた理由は、エンパシーこそが我々デザイナーが他の職種と差別化できる唯一の要素である、と考えているからです。

この思想に至った背景には、約2年前に参加した国際カンファレンスでの出来事があります。その日、参加者数名と一緒に懇親会を兼ねた夕食を食べに都内のレストランに足を運んだ時のことです。ファーストドリンクが運ばれるまでの開いている時間に突然隣に座っていた女性がテーブルに敷かれている紙のテーブルクロスに手持ちのペンで絵を描き始めました。

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「何を描いているのですか?」そう尋ねると彼女はこう答えました。「想像に任せるよ。」確信が持てなかった著者はその隣に「こういうことですか?」と尋ねながら絵コンテのように次の一コマを絵で描いて見せました。「そういう捉え方もあるね」と目の前に座っていた男性が更にその続きの絵を無言で描き始めました。次にその男性の隣に座っていた人にペンが託され、紙芝居のように次々とコマが増えていきました。

言葉や文化、人種はそれぞれ異なるも、言葉を交わさずに絵だけでひとつのストーリーが完成しました。これがエンパシーだ、とみんなで実感した瞬間でもありました。

描かれている絵からひとつひとつの要素を抽出し、時間軸を加えて前後の文脈を保ちながら登場人物の感情や体験を設計する。これは正にユーザーエクスペリエンス・デザインそのものではないでしょうか。

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描かれている絵の登場人物が置かれている状況や心境を自分ごとのように理解し、把握する力が共感力であり、いまデザインに求められている力だと考えています。

なぜ、Empathy なのか?

手前味噌ですが、登壇させていただくイベントや参加させていただくイベントの多くは、手法/プロセス/ツールのハウツーや事例などのノウハウに話題が偏ってしまっています。決してマイナスではありませんが、IT 技術の発展に伴い、これまでと比べてハウツーやノウハウなどの知識はネットで簡単に入手できるようになりました。

また、ツールや技法を習得できたとしても、良いアイディアの創出には直結しないと痛感しています。良いアイディアが創出される確率は上がるかもしれませんが、同時に「個人/個性」としての介在価値が発揮されにくくなります

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アイディアを、「洞察や分析を通じて見つかる問題に対してさまざまな観点から得られる発見や気づきを加えて発想し、具現化されるもの」として捉えると、アイディアの質は「発見や気づきを得るための観点」に依存すると言えます。

そしてこの観点を養うためには、自分自分がさまざまな体験をすることで自分ごととして対象の体験を設計するためのユーザー視点を担保しなければなりません

これが、エンパシー(共感力)が求められている理由です。

ペルソナを作成したとしても、その属性や立場から遠い人にとっては理解が進まず、施策検討の段階でも表面的なニーズの抽出に留まってしまい、前述のアイディアの質が乏しくなってしまいます。もちろん、完全にその人になりきることは不可能であるため、昨今では「Empathy Map」など共感を促すための着眼点や方法論が議論されています。

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著者の提案としては、ハウツーやノウハウの議論に時間を費やしすぎずに日頃からさまざまな体験をし、体験した素晴らしい出来事を共有する場をもっと増やしていきませんか?

当日使用した資料は下記からご覧いただけます。

関連資料:

事業計画・推進に求められる2つのプロペラ〜Balanced Team & Product Stewardship〜

先日、Media Technology Lab が主催するイベント「UX Sketch Vol.2」にて事業計画に求められる2つのプロペラと題し、サービス設計に向けたヒトづくりに求められる2つの思想ーBalanced Team と Product Stewardshipーについて事例と共にお話してきました。当記事はその内容のサマリーになります。

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なぜヒトづくりか?

これまでさまざまな UX 関連のイベントやセミナーに登壇・参加させていたきましたが、議論されている大半の話題は:

  • 如何にして品質の良い「モノ」をつくるか
  • どのように「モノ」をつくるべきか
  • どのように「コト」を設計すべきか

といった、モノやコトに特化している内容でした。しかしながら、当ブログでも何度もご紹介しているサービス・デザインへのパラダイム・シフトを背景に、モノによって構成されるコトを届けるヒトそのものの体験を考えなければなりません

言うなれば、UX デザインを実行・遂行するための UX デザインを考えていかなければなりません。

なぜなら、どんなに魅力的でテクニカルな話題を取り上げたとしても、導入する際には必ずと言っていいほど、ヒトの問題に直面するからです。

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これからは、これまでのモノやコトに踏まえて、これまでにあまり議論されてこなかったヒトにより特化したダイアログを始めていくべきではないでしょうか?

 

ここで言うヒトづくりとはなにか?

当記事で言及するヒトづくりには教育の概念は含まれていません。どちらかといえば、サービス設計を遂行する際の複数人が関わる実行スキームや体系構築のことを指します。そして今回のテーマである2つ思想こそが、そのヒントになると考えています。

Balanced Team

Balanced Team(バランス・チーム)とは、

  • 事業責任者/プロダクトマネージャー
    介在価値:意思決定を適切なヒトに促す
  • UX デザイナー/デザイナー
    介在価値:顧客課題を特定し、優先度を見極める
  • デベロッパー
    介在価値:顧客への成果を継続的にモニタリングする

の3つの「個」によって形成されるチームのことを指す、サービスづくりに必要なヒトのバランスの最適解を図るコンセプトです。

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役職だけ聞くと当たり前かもしれませんが、ここでは役割についても触れていきます。米国では Balanced Team をテーマとしたコミュニティが存在し、それぞれの役割について活発な議論がなされています。当ブログでは細かくは言及しませんが、詳細は当日使用した資料をご参考ください。

 

 

人数が多い場合でも Balanced Team 内の役割を遂行する人員は各1名づつが理想です。すべての情報を集約し、サービスをマネジメントしていくためのリーダーシップを担う人員で形成されているチームとなります。責任者の集まり、ではなくそれぞれがリーダーシップを発揮し、発言する体制を整えることで課題への素早い対応が可能になります。

Product Stewardship

2つ目のプロペラである Product Stewardship(プロダクト・スチュワードシップ)とはアジャイル開発から生まれた思想であり、前述の Balanced Team に加え、サービス・エコシステムを形成するステークホルダー、そしてサービスを利用するユーザーのバランスを最適解を図るための考え方です。

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  • ステークホルダー:
    外部パートナー含むサービス運営者全員が、ユーザーとのタッチポイントを形成していることへの当事者意識を持つ。
  • ユーザー:
    ユーザー中心、ではなくユーザーと一緒にサービスを構築していくユーザードリブンな関係性を構築する。
  • バランスチーム:
    自社組織とほか2人の「ヒト」との接点を担い、ニーズを抽出すると共にサービスに反映・展開する。

事業計画フェーズでは主要なステークホルダーを交えながらビジネスモデル等の評価をユーザー視点で行い、事前に克服すべき課題を抽出すると同時にサービスの提供価値や KPI を定めることが求められます。また、顧客とのタッチポイントを担う各人の役割を明確にすることでコトを体現するための基盤を構築することができます。

ユーザー中心ではなく、ユーザードリブンというお話をしました。これが意味することとしては、ユーザーとのヒアリングを定期的に実施し、前述のシナリオ評価を客観的に行いユーザーと共創していく姿勢です。結果としてサービスにおける対ユーザーのコミュニケーションプランや UX 戦略を策定することで構想だけに留めずに、実行に移すための足がかりを掴むことができます。

 

まとめ

冒頭でも記述しましたが、テクニカルな話をいくら広げようとも直面する課題は常に同じであると考えます。それは今回のテーマでもある「ヒト」に関する問題です。

どのようにモノをつくればいいのか、どのようなコトを実現すればいいのか、のみで会話するだけではなく、それらモノやコトコトを実現するためにどのようなヒトがどのように関わっていければいいか、文字通りユーザーだけではなく組織内外におけるヒトの UX デザインをもっと追求していくべきです。

事業を、ないしはサービスを計画し、推進していく我々が UX デザインを語る上で今後時間を割かなければならないのは、我々が介在することで生み出される価値、つまり介在価値の最大化を図るための実行スキームと関与するヒトの役割及び体系を考えることです。

「素晴らしい体験は、素晴らしい組織からしか生まれない」をモットーに著者も現職では実行スキームと体系の構築に少なくとも1ヶ月を費やすようにしています。

今回ご紹介した2つの思想がみなさんのサービスや事業、組織を前進させるためのプロペラとして機能することを願って。

 

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