100 Things Every Designer Needs to Know About People

'100 Things Every Designer Needs to Know About People(日本語:インタフェースデザインの心理学 ―ウェブやアプリに新たな視点をもたらす100の指針)'を読了しました。著者は Susan Weinschenk (スーザン・ワインチェンク)さんという心理学を専門としている方で、消費者の行動心理研究に30年以上の歳月を費やしている正にスペシャリストです。

100 Things Every Designer Needs to Know About People (Voices That Matter)100 Things Every Designer Needs to Know About People (Voices That Matter)
Susan Weinschenk

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インタフェースデザインの心理学 ―ウェブやアプリに新たな視点をもたらす100の指針インタフェースデザインの心理学 ―ウェブやアプリに新たな視点をもたらす100の指針
Susan Weinschenk 武舎 広幸

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本作はこれまで僕が見てきた中でもユーザー·インターフェースの設計に最も有用なガイドだと思います。単なる参考書ではなく、これまで過去に世界中で発表されてきた心理学的研究と科学を組み合わた人間そのものの研究結果に等しい文献です。事例にウェブを多く取り扱っていますが、本書の文章構造が、ひとつの指針に対してそれに基づく調査結果の概要と取るべき対策を完結にまとめてくれています。故にデザイナーのための…と紹介されることが多いようですが、サービス・プロバイダーであれば一読をオススメします。構成が非常に読みやすく、熟読する、というよりは必要に迫られた時にページをめくる方が正しい読み方のような気がします。

  • How people see(人はどのように見るのか)
  • How people read(人はどのように読むのか)
  • How people remember(人はどのように記憶するのか)
  • How people think(人はどのように考えるのか)
  • How people focus their attention(人はどのように興味を持つのか)
  • What motivates people(何が人をモチベートさせるのか)
  • People are social animals(人は社会的な動物)
  • How people feel(人はどのように感じるのか)
  • People makes mistakes(人はミスを犯す)
  • How people decide(人はどのように意思決定をするのか)

100の指針の中でも著者が選ぶベスト10をまとめた資料がありました。御参考まで。

How to Change the World 〜チェンジ・マネジメント3.0〜 #h2ctw

翻訳を担当された id:wayaguchi より日本語版「How to Change the World 〜チェンジ・マネジメント3.0〜」の献本をいただきました。ありがとうございます。

Management 3.0: Leading Agile Developers, Developing Agile Leaders (Addison-Wesley Signature Series (Cohn))
Management 3.0: Leading Agile Developers, Developing Agile Leaders (Addison-Wesley Signature Series (Cohn))Jurgen Appelo

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本書のキーワードとなっている「チェンジ・マネジメント(日本語では「変革管理」と訳されています)」は捉え方によって様々な場面で応用することができます。ビジネスの観点においては新たなビジネス・プロセスや技術革新に値します。社会的な観点からは公共施策や法律などが含まれます。ただ、社会や組織における改善や変革において最も難しいのは、他人の行動を変えることに変わりはありません。そもそも社会ネットワークは個人とその相互作用がすべてです。であれば、環境を変化させることができれば、人を変えることができるのかも?そんなヒントが紹介されていました。

チェンジ・マネジメント3.0のスーパーモデル

  • システムとダンスする―PDCAモデルを活用
  • 人々のことを気にかける―ADKARモデルを活用
  • ネットワークを刺激する―普及曲線モデルを活用
  • 環境を変える―5つのIのモデルを活用

カーネギーの「人を動かす」でも記載がありましたが、人々は変化の必要性を納得しない限り、その変化に対抗することは目に見えています。日本人は変化を嫌う人種である、と良く言われたものです。人を動かすためには何よりも目標。何のために変化を起こし、何を達成したいのかを明確にすることが必要不可欠であると著者は訴えます。

『目的の定義をアクティビティやメソッドの観点から行わないことが重要だ。どうすれば人生が誰にとっても良くなるかを常に直接結びつけて考えなければならない。』- pp32

著者はアジャイル・マネージャーとして活躍されていますが、アジャイル開発プロセスの推進に伴う(組織内に)変化を起こすということに着眼点を置いて、社会変革に議論を発展させたのは驚きです。だからか、ユーザエクスペリエンスに携わっている身としてはとても親近感を感じます。この引用からも、人間中心設計(HCD)が最も陥りやすい状況であると認識しました。

ユーザエクスペリエンス・デザインとチェンジ・マネジメントはシナジー効果が期待されます。先ずは主役が置かれているシチュエーション。組織に対して UX デサインの重要性と意味を理解してもらう必要があります。つまりこれは、組織における UX デザインの IQ を高める(変える)ことに等しいと言えます。

ほかにも、必要性の理解に求められる緊急度、他者とのコラボレーション、ビジョンの立案、共通認識を促すコミュニケーション、変化につなげる行動、そして組織に根付かせるための補強と評価。ひとつひとつ説明しだすときりがありませんが、はてなの近藤社長が言うように、変化を通じて個人としての存在意義を高めていく上では、この本はとても訳に立つことと思います。オススメです。

『どんな世界も自分が何かを始める前は自分が居ない状態で回っています。しかも、そこそこちゃんと回っているのです。何か新しい事を始める時、「その世界はあなた無しでもちゃんと回っている」状態から出発する事を忘れないでください。極端な話、「自分が生まれなくても地球は問題なく回っていた」のです。新しい領域に挑戦すると言う事は、自分が不必要な状態から、自分が必要とされる状態への変化を、自分の力で起こすという事なのです。』- はてなに入った技術者の皆さんへ

関連エントリー:

Agile Experience Design―ビッグバンを起こすものづくり

"Agile Experience Design"は先日開催した「Agile UX NYC 2012 Redux in Tokyo」のパネル・ディスカッションでもご紹介した書籍です。はじめの挨拶にある、「エゴでデザインしていないか?」という言葉には胸が打たれました。結局のところチームワークで進めていくプロジェクトにも関わらず、ブラックボックス状態で完全に隔離されている空間で価値を見出そうを悪あがきを繰り返しているだけなのではないかと自覚するようになりました。

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本書はアジャイル開発のフレームワークに従ってエクスペリエンス・デザインの価値を最大化するための「コラボレーション」を基軸としたデジタル・デザイナーズ・ガイドブックです。正に"AgileUX"のバイブルと言っても過言ではないと思います。

アジャイルなプロジェクト・デベロップメント・ライフサイクル

繰り返しますが、UX デザインの世界はエゴ・ドリブンになりがちです。デザイン・プロセスはデッドラインをどこに置くかによって左右され、これは工業化時代に大規模な工業製品を設計・開発する際には有効ですが、情報化時代に至ってはテクノロジーの著しい進化に伴い、人間・社会・環境の変化が問われています。

デジタル世界のウォーターフォール―本書では Waterfall System Development Life Cycle(SDLC)と称されていました―におけるデザイナーのロールは、オフライン・メディアの設計・開発によく似ていると言われています。多くの変化を最小限に留めるためのマネジメントを可能にしている一方で、プロセスが進むにつれて費用が嵩み、クリティカルな変化を受け入れない性質があります。


(The cost change in the project life cycle)

アジャイルと UX デザインのコラボレーション

ウォーターフォールではデザインとビジネスのステージが分離されてしまっているが故にビジネスへの理解が乏しくなってしまいます。そのため、このままでは変化に柔軟に対応できなくなる恐れがあることは確かです。とはいえ、デザインは既にアジャイルであると指摘します。UX デザインのプロセスは独自で PDCA サイクルを廻すアジャイルであったものの、ウォーターフォールではデザインという1つのステージに圧縮されてしまっているのが現実です。

その一歩として紹介されているのが、「Design Disciplines(デザイン・ルール)」をアジャイル開発に適応させるアプローチです。その前提として、"Agile Experience Design"はビジネス、エンドユーザ、テクノロジーの観点から考慮されている必要があります。

この思想は以前ブログでもご紹介した Lean Startup の1つのコンセプトでもある"Product Stewardship"に基づいた設計とも言えます。


(Agile Experience Design(AXD) considers business, end customers, and technology)

  1. Design Thinking
  2. Service Design
  3. Product Design
  4. Graphic Design
  5. UX Design

エクスペリエンス・デザインのバリュー

次にアジャイル開発における UX デザイン上の戦略(バリュー)について触れられています。本書は以下の4つのキークエスチョンを抑えることが我々(UX)の使命であると話します。

  • なぜ(Why)アジャイル開発をやっているのかを理解する(ビジネス上の課題や可能性を十分に見極める)。
  • 誰に(Who)対してやっているのかを理解する(1番目の課題や可能性に対してベネフィットを得られるカスタマーを見極める)。
  • デザイン上の挑戦は何で(What)、課題を解決するための幾つものアイディアを生み出せるかを理解する(アイディアを洗練させ、提供するエクスペリエンスを体現するための適切なソリューションを見極める)。
  • どのように(How)プロダクトやサービスのビジョンを創り出すのかを理解する(ビジョンを遂行するためのデザインやデベロップメント・プラクティスを見極める)。


(A process for specifying value)

アジャイルフレームワークとタクソノミー

"Agile Experience Design"のフレームワーク・モデルを採用することによって、開発サイクルが進むにつれて不確実性要素を効率的に防止する効果があります。下記図でもあるような、くねくねとしている曲線は恐らくチームメンバーの方向性が表現されている想定されますが、確かに、プロジェクトの冒頭では一見は煩雑(無駄)に見えるが後半になると方向性が定まり、円滑に進むようになります。


(Agile Experience Design Project Framework)

そして、本書ではエクスペリエンス・デザインを価値を最大限に高めるべく、理想とされる体制と各役割についても解説しています。その中でも本書は3つの思想に重きを置いていました。


(Taxonomy of Experience Design)

  1. Design Thinking:ノン・デザイナーなスタッフでもデザイナーのクリエイティブなメソッドを活用し、より戦略的かつクリエイティブなアプローチを実現するための手法。
  2. Service Design: シングル・システムとのインタラクションを示すユーザインターフェース・デザインに対し、サービスデザインは対象のプロダクト/サービスとカスタマーとのクロスチャネル・チェーンを全て網羅するエコシステム・デザイン。
  3. Lean Start-up: エクスペリエンス・デザインの真髄はテストを早期に実施し、持続的にアイディアを発展させていくことだったが、リーン・スタートアップはビジネス・ケースのテストから全てが始まる。

まとめ

最後に、アジャイル開発におけるエクスペリエンス・デザイナーの役割とスキルについてまとめています。

エクスペリエンス・デザイナーとは、

「デザイン・ビジョンを創出し、カスタマーがプロダクトやサービス、あるいは全体のシステムとのエンゲージメントの際に発生するエクスペリエンスを提供するためのデザインの方向性をドライブする人である。」

これまではプロジェクト・ライフサイクルやプレイヤーの解説と適応方法について紹介してきましたが、まだ触りの部分です。本書が魅力的だと感じたのは、デザイナー・デベロッパー問わず第三者の観点で"Agile Experience Design"の実現に向けたアプローチを解説していることにあります。例)

  • プロジェクト・メンバーの役割とレスポンシビリティ
  • Product Stewardship におけるコラボレーション
  • UX デザイン技法Agile 開発への適応方法(ペルソナ、ストーリーボード、エクスペリエンス・ジャーニー・マップなど)
  • イテレーションとデザイン(UI フレームワーク)の進化論
  • 各種アウトプットの評価方法とプロジェクト成功の定義

リーンやらアジャイルやら人間中心設計(ヒューマン・センタード・デザイン)やら「ものづくり」に関わるコンセプトが幾つも誕生してきていますが、冒頭の「なぜ」「誰に」「何を」「どのように」を答えるためのヒントが散らばっているだけのような気がしています。結局のところ、成功を収めるためには

  • 正しいプロダクトを(ビジネス、テクノロジー、デザイン)
  • 正しい人々に(ヒューマン・センタード・アプローチ)
  • 適切なタイミングで(リーン、アジャイル
  • 正しいエクスペリエンスを提供する(ヒューマン・センタード・デザイン)

ことを念頭においてビックバンを起こさなければいけないと感じました。改めて、1年から2年かけて多額な予算を投資してマーケット・プレイスで失敗するよりも、我々のアイディアが上手くいっていないことを早期に把握したほうがよほど効率的です。

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