Empathy:いま、デザインに求めらていれるエンパシーとは?

当記事は9月8日に開催された「UX Jam #2」でお話させていただいた内容を参考にしています。

f:id:separate-ks:20150926193950j:plain

UXデザインの仕事の本質は、日々進化するツールやフレームワークを使いこなすことではなく、ユーザーへのエンパシーを高められるよう、日頃からいろいろな体験をしておくこと。そしてそんな体験をシェアし合う場が求められている、というお話でした!

ー 【イベントレポ】ゆるく学ぶUXイベント UX JAM #2 | UX MILK

Empathy とは?

Empathy(エンパシー:共感力)に着眼点を置いた理由は、エンパシーこそが我々デザイナーが他の職種と差別化できる唯一の要素である、と考えているからです。

この思想に至った背景には、約2年前に参加した国際カンファレンスでの出来事があります。その日、参加者数名と一緒に懇親会を兼ねた夕食を食べに都内のレストランに足を運んだ時のことです。ファーストドリンクが運ばれるまでの開いている時間に突然隣に座っていた女性がテーブルに敷かれている紙のテーブルクロスに手持ちのペンで絵を描き始めました。

f:id:separate-ks:20150926194059j:plain

「何を描いているのですか?」そう尋ねると彼女はこう答えました。「想像に任せるよ。」確信が持てなかった著者はその隣に「こういうことですか?」と尋ねながら絵コンテのように次の一コマを絵で描いて見せました。「そういう捉え方もあるね」と目の前に座っていた男性が更にその続きの絵を無言で描き始めました。次にその男性の隣に座っていた人にペンが託され、紙芝居のように次々とコマが増えていきました。

言葉や文化、人種はそれぞれ異なるも、言葉を交わさずに絵だけでひとつのストーリーが完成しました。これがエンパシーだ、とみんなで実感した瞬間でもありました。

描かれている絵からひとつひとつの要素を抽出し、時間軸を加えて前後の文脈を保ちながら登場人物の感情や体験を設計する。これは正にユーザーエクスペリエンス・デザインそのものではないでしょうか。

f:id:separate-ks:20150926194158j:plain

描かれている絵の登場人物が置かれている状況や心境を自分ごとのように理解し、把握する力が共感力であり、いまデザインに求められている力だと考えています。

なぜ、Empathy なのか?

手前味噌ですが、登壇させていただくイベントや参加させていただくイベントの多くは、手法/プロセス/ツールのハウツーや事例などのノウハウに話題が偏ってしまっています。決してマイナスではありませんが、IT 技術の発展に伴い、これまでと比べてハウツーやノウハウなどの知識はネットで簡単に入手できるようになりました。

また、ツールや技法を習得できたとしても、良いアイディアの創出には直結しないと痛感しています。良いアイディアが創出される確率は上がるかもしれませんが、同時に「個人/個性」としての介在価値が発揮されにくくなります

f:id:separate-ks:20150926194357j:plain

アイディアを、「洞察や分析を通じて見つかる問題に対してさまざまな観点から得られる発見や気づきを加えて発想し、具現化されるもの」として捉えると、アイディアの質は「発見や気づきを得るための観点」に依存すると言えます。

そしてこの観点を養うためには、自分自分がさまざまな体験をすることで自分ごととして対象の体験を設計するためのユーザー視点を担保しなければなりません

これが、エンパシー(共感力)が求められている理由です。

ペルソナを作成したとしても、その属性や立場から遠い人にとっては理解が進まず、施策検討の段階でも表面的なニーズの抽出に留まってしまい、前述のアイディアの質が乏しくなってしまいます。もちろん、完全にその人になりきることは不可能であるため、昨今では「Empathy Map」など共感を促すための着眼点や方法論が議論されています。

f:id:separate-ks:20150926194612j:plain

著者の提案としては、ハウツーやノウハウの議論に時間を費やしすぎずに日頃からさまざまな体験をし、体験した素晴らしい出来事を共有する場をもっと増やしていきませんか?

当日使用した資料は下記からご覧いただけます。

関連資料:

事業計画・推進に求められる2つのプロペラ〜Balanced Team & Product Stewardship〜

先日、Media Technology Lab が主催するイベント「UX Sketch Vol.2」にて事業計画に求められる2つのプロペラと題し、サービス設計に向けたヒトづくりに求められる2つの思想ーBalanced Team と Product Stewardshipーについて事例と共にお話してきました。当記事はその内容のサマリーになります。

f:id:separate-ks:20150803192109j:plain

なぜヒトづくりか?

これまでさまざまな UX 関連のイベントやセミナーに登壇・参加させていたきましたが、議論されている大半の話題は:

  • 如何にして品質の良い「モノ」をつくるか
  • どのように「モノ」をつくるべきか
  • どのように「コト」を設計すべきか

といった、モノやコトに特化している内容でした。しかしながら、当ブログでも何度もご紹介しているサービス・デザインへのパラダイム・シフトを背景に、モノによって構成されるコトを届けるヒトそのものの体験を考えなければなりません

言うなれば、UX デザインを実行・遂行するための UX デザインを考えていかなければなりません。

なぜなら、どんなに魅力的でテクニカルな話題を取り上げたとしても、導入する際には必ずと言っていいほど、ヒトの問題に直面するからです。

f:id:separate-ks:20150803192256j:plain

これからは、これまでのモノやコトに踏まえて、これまでにあまり議論されてこなかったヒトにより特化したダイアログを始めていくべきではないでしょうか?

 

ここで言うヒトづくりとはなにか?

当記事で言及するヒトづくりには教育の概念は含まれていません。どちらかといえば、サービス設計を遂行する際の複数人が関わる実行スキームや体系構築のことを指します。そして今回のテーマである2つ思想こそが、そのヒントになると考えています。

Balanced Team

Balanced Team(バランス・チーム)とは、

  • 事業責任者/プロダクトマネージャー
    介在価値:意思決定を適切なヒトに促す
  • UX デザイナー/デザイナー
    介在価値:顧客課題を特定し、優先度を見極める
  • デベロッパー
    介在価値:顧客への成果を継続的にモニタリングする

の3つの「個」によって形成されるチームのことを指す、サービスづくりに必要なヒトのバランスの最適解を図るコンセプトです。

f:id:separate-ks:20150803192439j:plain

役職だけ聞くと当たり前かもしれませんが、ここでは役割についても触れていきます。米国では Balanced Team をテーマとしたコミュニティが存在し、それぞれの役割について活発な議論がなされています。当ブログでは細かくは言及しませんが、詳細は当日使用した資料をご参考ください。

 

 

人数が多い場合でも Balanced Team 内の役割を遂行する人員は各1名づつが理想です。すべての情報を集約し、サービスをマネジメントしていくためのリーダーシップを担う人員で形成されているチームとなります。責任者の集まり、ではなくそれぞれがリーダーシップを発揮し、発言する体制を整えることで課題への素早い対応が可能になります。

Product Stewardship

2つ目のプロペラである Product Stewardship(プロダクト・スチュワードシップ)とはアジャイル開発から生まれた思想であり、前述の Balanced Team に加え、サービス・エコシステムを形成するステークホルダー、そしてサービスを利用するユーザーのバランスを最適解を図るための考え方です。

f:id:separate-ks:20150803192518j:plain

  • ステークホルダー:
    外部パートナー含むサービス運営者全員が、ユーザーとのタッチポイントを形成していることへの当事者意識を持つ。
  • ユーザー:
    ユーザー中心、ではなくユーザーと一緒にサービスを構築していくユーザードリブンな関係性を構築する。
  • バランスチーム:
    自社組織とほか2人の「ヒト」との接点を担い、ニーズを抽出すると共にサービスに反映・展開する。

事業計画フェーズでは主要なステークホルダーを交えながらビジネスモデル等の評価をユーザー視点で行い、事前に克服すべき課題を抽出すると同時にサービスの提供価値や KPI を定めることが求められます。また、顧客とのタッチポイントを担う各人の役割を明確にすることでコトを体現するための基盤を構築することができます。

ユーザー中心ではなく、ユーザードリブンというお話をしました。これが意味することとしては、ユーザーとのヒアリングを定期的に実施し、前述のシナリオ評価を客観的に行いユーザーと共創していく姿勢です。結果としてサービスにおける対ユーザーのコミュニケーションプランや UX 戦略を策定することで構想だけに留めずに、実行に移すための足がかりを掴むことができます。

 

まとめ

冒頭でも記述しましたが、テクニカルな話をいくら広げようとも直面する課題は常に同じであると考えます。それは今回のテーマでもある「ヒト」に関する問題です。

どのようにモノをつくればいいのか、どのようなコトを実現すればいいのか、のみで会話するだけではなく、それらモノやコトコトを実現するためにどのようなヒトがどのように関わっていければいいか、文字通りユーザーだけではなく組織内外におけるヒトの UX デザインをもっと追求していくべきです。

事業を、ないしはサービスを計画し、推進していく我々が UX デザインを語る上で今後時間を割かなければならないのは、我々が介在することで生み出される価値、つまり介在価値の最大化を図るための実行スキームと関与するヒトの役割及び体系を考えることです。

「素晴らしい体験は、素晴らしい組織からしか生まれない」をモットーに著者も現職では実行スキームと体系の構築に少なくとも1ヶ月を費やすようにしています。

今回ご紹介した2つの思想がみなさんのサービスや事業、組織を前進させるためのプロペラとして機能することを願って。

 

関連記事:

「思い込み」でサービスをつくることは必ずしも悪いわけではない

但し、

  • 「思い込み」であることを自覚すること
  • 「思い込み」は実証されるべきであること

が前提として成立すると思っています。

サービス開発における2つのアプローチ

弊社コンセントのラボにも掲載されている「カスタマージャーニーマップのパターン」でも解説していますが、カスタマージャーニーマップ、つまりは顧客の体験や感覚を可視化するサービスデザインの手法のひとつとして企業が組織として顧客視点/ユーザー視点を維持し、サービス開発を支援するツールには2つの視点が存在します。

一つ目の軸は、Inside-out/Outside-inの視点。
Inside/Outsideとは事業者からの視点として、「自社事業の観点から=Inside-out」と、「自社事業の外側の観点=Outside-in」となる。ここではサービス事業者の観点となるから、Outside-inは、サービス利用者の観点となる。

自社事業観点のCJMとは、「サービスがどのように利用されるか」を示したものとなる。
CJMの特徴として、顧客の体験や感情などが記されることがあるが、Inside-out型のCJMでは、そのサービスでも顧客はどう感じているのかを把握することができる。ー カスタマージャーニーマップのパターン | ラボ | 株式会社コンセント

よってサービス開発はインサイドアウト(Inside-out)またはアウトサイトイン(Outside-in)のいずれかから始まると考えることができます。

多くの場合は前者で進行することが多いのではないでしょうか。著者が担当している新サービス開発支援プロジェクトでも多くがインサイドアウトのアプローチを実践しています。ところが、自社事業の観点からサービスを開発するもアウト(顧客)との Problem-Solution Fit(課題と解決策のマッチング)が成立しなければ意味がありません。後ほど詳しく述べたいと思います。

後者はオープンイノベーションとして位置付けられているプロジェクトに多く見られます。IDEO が展開している IDEO.org もその一例です。国内では NEC やパナソニックが関連特許を無償化し、アウトサイドインのアプローチを推進しています。

デザインとアート:アウトサイドインとインサイドアウト

デザイン的活動を「問題解決」と表現することがあります。顧客が潜在的に抱えている課題を特定し、解決手段を模索する行為は問題解決そのものであり、デザイン思考のルーツもロジカルシンキングに習っていると言われています。

f:id:separate-ks:20150418130658p:plain

問いを見つけることと問いに応えることがデザインの役割であるならば、アートは問いを問うことであると考えます。一見対極にあるように見える両者ですが、必ずしもそうではありません。デザインはもはや現代社会における決定的な差別化要因ではないと話すジョン・マエダ氏はデザインとアートの関係性を以下のように捉えています。

デザイナーが生み出すのが「解決策(答え)」であるのに対し、アーティストが生み出すのは「問いかけ」である。(中略)いま彼らー顧客ーが求めているのは、自分の価値観を思い出させてくれるような方法ーーつまり、この世界のなかでどのように生きることが出来るか、どう生きるつもりか、どう生きるべきかという価値観を思い出させてくれるものである。ー ジョン・マエダの考える「デザインを超えるもの」 « WIRED.jp

当ブログでも何度も言及している人間中心設計(Human Centered Design)ないしはユーザエクスペリエンス・デザインは「解決策(答え)」を導くアウトサイドインのアプローチ/設計思想です。

ところが、それだけでは差別化が図りにくく、誰もが同じ答えに辿り着いてしまう可能性があり、納得が行く解決策(答え)に至らないケースが多々あります。エンドユーザーからの価値や洞察の抽出には限界があり、答えにつながるエッセンスをすべて彼らに委ねることはほぼ不可能です。車が無かった時代に要求事項を探っても、車の開発に直結する解決策は導くことはできません。

著者が担当するプロジェクトでもイノベーティブなアイディやないしは製品の開発支援を求めるクライアントが多く、アウトサイドイン「のみ」のデザイン・アプローチでは期待に100%応えることが難しい場合があります。一方で、思い込みや仮説から立案された新規事業の開発支援では、未実証の項目が多いもインサイドアウト、問いを問うアートの設計思想に従って進めることができます。

これまでは著者含め多くのユーザエクスペリエンス・デザイナーは未実証項目ドリブンでコトが進むことに違和感を覚え、反抗する姿勢を見せていました。思い込みだけで設計や開発を進めることに嫌気が差し、ユーザー調査などのリサーチありきでやるべきである、先ずはユーザーに聞いてみましょう、などどいったブレーキをかけていました。

アウトサイドイン型である Problem-Solution Fit(課題と解決策のマッチング)のアプローチを批判しているわけではなく、イノベーションを促進し、差別化を図っていく上では製品開発よりも顧客開発が有効です。プロダクトやサービスは、何をつくるべきかを教えてくれるものでなければなりません。プロダクトやサービスは、そのためのひとつの手段であり、デザインもひとつの手段だと考えています。

アーティスト的思考のスペキュレーティブ・デザイン

スペキュレーティブ・デザインとは、空論の、未来のシナリオをデザインするための考え方です。既存の価値や信念、態度を疑い、様々な代替の可能性を提示するためのコンセプトとして注目を浴びています。

 

Speculative Everything: Design, Fiction, and Social Dreaming

Speculative Everything: Design, Fiction, and Social Dreaming

 

 

例えば、スマートフォンなしの生活は考えられないと思いますが、逆に保持することで大切な喜びをもたらしてくれているでしょうか?そもそもスマートフォンにはどんな価値が存在し、その価値はどのようにして取り戻せられるのかを考え、思想や思い込みを作品としてないしは製品として提示する。正に問いを問うアーティストのような発想がスペキュレーティブ・デザインと言われています。

問いかけは思い込みがあってこそ成立すると思っています。もっと言えば思い込みがなければ未来のシナリオをデザインすることができないのではないでしょうか。アップルのスティーブ・ジョブスはデザインの心得を大切にしていたことで有名ですが、その斬新な発想と彼なりのビジョン、思い込みはアーティストそのものでした。

アウトサイドインのデザインアプローチが Problem-Solution Fit(課題と解決策のマッチング)であるならば、インサイドアウト型であるスペキュレーティブ・デザインのアプローチは Vison-Customer Fit(ビジョンと顧客のマッチング)と言えるかもしれません。

f:id:separate-ks:20150418171230j:plain

結果、これからのデザイナーにはアーティストとしての要素が求められているのではないでしょうか。

まとめ

冒頭に戻りますが、思い込みがでサービスをつくることは必ずしも悪いわけではありません。インサイドアウトのアプローチですべてのサービスがつくられるべき、というわけではありません。

一番のリスクは思い込みだと自覚せず、ファクト(事実)として錯覚してしまうことです。そして、例え自覚していても実証せずに思い込みのままで終わってしまうことです。

実証には事前であれ事後であれ、アウトサイドイン(Problem-Solution Fit)のアプローチを採用すべきであり、著者含むユーザエクスペリエンス設計業務を担当する人は思い込みが発生した時点で「待った!」のブレーキをかけずに実現を構想に落とすための手段を考えるべきだと思います。「待った!」と思い立つこともひとつの思い込みであるという自覚が必要です。

  • 思い込みはなにか?
  • ファクト(事実)はどれか?
  • アイディアはなにか?

この軸で情報を整理し、製品を介した顧客の価値創出という名の顧客開発をどのように進めていくべきか?

これが今正に求められているデザインの役割なのではないでしょうか。

関連記事:

This work is licensed under a Creative Commons Attribution 4.0 International License.
Others, like quotes and images belong to its original authors.