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HCD導入設計論ー公用語としての人間中心デザイン

産業技術大学院大学の履修証明プログラム「人間中心デザイン」の受講から早やいもので3年が経過しました。昨年は開講されなかったものの、2014年度はシラバスが大幅にリニューアルされ、過去最大となる30名を越える5期生の方々が受講されています。

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本プログラムは、「高いユーザビリティ、よりよいユーザー体験(UX)を提供するものづくり」を実践するための、人間中心デザイン(HCD)の諸理論並びに関連分野の知識の習得と、企画・デザインを行う具体的な手法及び技法の習得を目的としている。

産業技術大学院大学『人間中心デザイン』全体シラバス

2014年度は以下の3つのユニットによって構成されています。

  1. デザインリテラシー編(入門、解析、発想法など)
  2. 方法論編(調査、評価、サービスデザインなど)
  3. 応用演習(総合演習)

昨日2月28日(土)には最終回となる応用演習の「HCD導入設計論」が開催され、人間中心デザインの卒業生として過去の受講生の方々と一緒に、自身の経験から人間中心デザインにおける組織への導入に関する話題提供をさせていただました。

本講義は、本履修証明プログラムの全体での学びの振返りを狙ったものである。人間中心デザインを各企業において普及・促進する方法を考えるとともに、受講者が今後どのように企業内で学んだ手法等を活用していくべきかについて議論する。

産業技術大学院大学『人間中心デザイン』全体シラバス

人間中心デザインとスター・ウォーズ 

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人間中心デザイン(HCD)ないしはユーザエクスペリエンス(UX)の導入についてはこれまで UX Tokyo や Shibuya UX 主催で開催したイベントやディスカッションの場でも話題は尽きず、今後も半永久的に議論される内容だと考えています。今回は「HCD導入設計論」と題した集中討議の場が設けられたこともあり、本セッションでは著者の七年間の経験で取り組んできた人間中心デザインと常にあった葛藤を、ジョージ・ルーカス監督が手掛けたSFシリーズ「スター・ウォーズ」の文脈に従ってご紹介しました。

なぜスター・ウォーズなのか?

著者の個人的な好み…でもありますが、銀河系の自由と正義の守護者として一人前のジェダイ戦士を目指すルークに助言を呈するマスター・ヨーダの思想は、人間中心デザインの導入にあたって学ぶべきことが実に多くあります。 

例えば、ジェダイと対立する銀河系の悪と恐怖の信奉者であるシスとの長期戦争において、正しいと思っていることを遂行するも自身の力不足に挫折し、「信じられない…」と苛立ちを隠せないルークに対してマスター・ヨーダはこのように語りかけます。

That is why you fail.

(それが失敗する理由だ。)

 ー スター・ウォーズ エピソード5「帝国の逆襲」より

人間中心デザインを導入しようとするあまりに正しくモノをつくろうとする力、ないしは強制力が働いてしまい、上手く行かなかった状況下で最も陥りやすい場面です。自身がルールブックであり、自分ではそれが正しいことだと考えている一方で、どこか煮え切らない。裏側にある否があることを知っていても認められない自己正当化、エゴのいたずらです。

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著者も同様の経験がありますが、信じられない…と目の前の現象を受け入れられない状態から脱却するには、人間中心デザインに習ってことを進めることよりも、本来あるべき正しいモノをつくるための思想やアプローチを探求・追求することで必然的に対象の組織体系にフィットした人間中心デザインが生まれてきます。

もうひとつ、マスター・ヨーダは力(勢力)が第一である巨大な帝国国家シスとの戦いの中でルークにこのような言葉を投げかけます。

To answer the power with power, the Jedi way is not. In this war, a danger there is of losing who we are.

(力に力で応えようとするな。この戦いで最も危険なのは、己が誰であるかを見失うことである。)

ー スター・ウォーズ エピソード1「ファントム・メナス」より 

人間中心デザインを導入しようと働きかけることの目的や必要性が理解できなければ、自身の活動に対して意味性を見出すことができず、加えて前述した自己正当化の圧力が増幅し、強制「力」に頼ってしまう可能性があります。このままでは、アナキンのように我を見失ってしまいます。

人間中心デザインの最も大切なステップ

にて紹介されている人間中心デザイン(HCD)を参照する際に、実践に直結する以下の4つのステージについ目が奪われがちです。

 

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ところが、著者が最も大切にしているポイントは上記の4つではなく、その前後に位置付けられる以下の2つです。

  1. 人間中心設計の必要性の特定
  2. システムが特定のユーザー及び組織の要求事項を満足

本来、人間中心的思考の開始ポイント(問題意識)は「(1)人間中心設計の必要性の特定」から始めるべきです。その際に、

  • 必要とされている状態とはどのような状態か?
  • 必要性を見極めるポイントとはなにか?

を念頭に入れる必要があります。また、本来の思考着地ポイント(目的意識)は「(2)システムが特定のユーザー及び組織の要求事項を満足」であるべきです。

  • 組織における要求事項とはなにか?
  • 組織における満足とはなにか? 

必要性が特定できなければ導入する意味や目的が不明瞭のまま、なんでHCDって必要なの?と突き詰められて終わってしまいます。

ー WebUX研究会×ShibuyaUXの共同HCDワークショップ - UXploration

本セッションでは著者の経験を交えながら、主に上記ポイントを考察するための学びをご紹介させていただきました。

人間中心デザインないしは自身を必要とされている状態を探り、必要性を見極めるためには例えそれがデザインとは作業工程的に遠く離れている場所でも、それはデザインとは無関係である…という心理的距離を離さないことが大切だと考えます。ユーザーとの接点を担うからこそ「主体者」として、デザインを導く立場として振る舞うことで人間中心デザインの可能性を狭めないようにすることが大切です。

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組織における要求事項や満足するポイントを探る上では、UX Maturity Model(UX成熟度モデル)でも言及されているように、対象組織の成熟度を把握し、相手の理解できる言葉で伝える工夫が求められます。また、エンドユーザー「だけ」を対象とせず、人間中心デザインに込められている「人間」の本来の意味を理解し、優れたユーザー体験を実現するための手段として、組織の成熟度を高め自走できる環境を促す意味でももう一人のユーザー(ステークホルダーやサービスプロバイダー)の体験も考慮する必要があると考えます。

まとめ

最後に、人間中心デザインは「言語」です。当たり前ですが、言葉は交わすために存在します。但し、それぞれが異なる言葉を交わしていては、ユーザーへはもちろん、組織内の人間にも想いは伝わりません。

伝えることと伝わることは別です。伝えることは手段であり、結果として伝わっているかどうかは評価しなければわかりません。伝えたことで満足してしまっては双方のコミュニケーションは成立しません。最も重要なのは、伝わることです。

ー 優れたUXを実現するための人間中心デザインとは? - UXploration 

著者がこの記事を日本語で書いている理由は、言わずもがな、日本の読者の方に読んでいただきたいためであり、そのための手段として公用語(日本語)を採用しています。人間中心デザインは、組織における公用語として機能すべきと考えています。

組織では、必要なノウハウや大切にすべき価値観などの多くは言葉で伝わっていきます。役職や職種が多様化する組織では共通の定義と意味で理解し合うことが出来る言語が必要があり、第三者であるユーザーの想いが組み込まれている人間中心デザインこそ、その役割を果たすことができます。

ただ、本セッションのように人間中心デザインの導入に責任感を感じ、前述したルークのような状態に直面してしまっては意味がありません。導入には目的や必要性が前提として存在している必要があります。公用語は手段でしかなく、導入による効用は、導入する目的を軸に考えなければなりません

そのため、人間中心デザインの効用は導入に至った背景や目的ごとに異なるはずです。言葉を変えれば、組織ごとに公用語は異なるはずです。

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人間中心デザインの公用語化によって工数の削減に成功した、打ち合わせの時間が劇的に改善された、などの成功を収めたケースを見かけますが、同様の効果や目的を期待して導入に走ることは公用語の特性を考えると、本質的ではないように思えます。そのためには、一人一人が自分自身の中で人間中心デザインを公用語としてどのように捉え、確立させ、どのように社会や組織に役立てていくべきなのかを考えていかなければなりません。

フォースを操る、ジェダイ戦士のように。 

A Jedi uses the Force for knowledge and defense, never for attack.

(ジェダイ戦士はフォースを攻撃のためではなく、自身の知恵や防御のために使うのだ。)

ー スター・ウォーズ エピソード3「シスの復讐」より

ぼくと人間中心設計の七年間戦争

この場をお借りして、お声がけいただいた安藤先生、ご参加いただいた受講生のみなさまに感謝申し上げます。ありがとうございました。

関連記事:

組織の新しいカタチ「Holacracy(ホラクラシー)」

突然ですが、Holacracy(ホラクラシー)という言葉を耳にしたことはありますでしょうか?

日本ではまだ参考文献が少ないためご存知の方は少ないかもしれませんが、サービスデザインないしは組織デザインのための学習の一環として調査し、まとめてみました。

Wikipedia によると、ホラクラシーとは従来のようにトップダウンのヒエラルキーによって意思決定がなされるのではなく、組織全体に権限を分散させ意思決定させることで、自走する組織を保つための社会技術または組織のガバナンス・マネジメント方法*1と定義されています。

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(c) All Rights Reserved.

企業、NPO問わず今ではアメリカを始めフランスやドイツ、オーストラリア、イギリスで導入実績があるとのことですが、有名なところでは Airbnb、Zappos、Medium が導入例として紹介されることが多く、日本でも一部記事によって紹介されています。

「ホラクラシーの下では意思決定機能が組織全体に広げられ、人々は役職ではなく役割を与えられる。伝統的な組織では、目標や目的、さらにタスクまでもが上から個々の担当者に流れていくものだ。我々のやり方では、マネージャーというのは基本的に世話役に過ぎない。マネージャーは、作業担当者の障害を取り除くために存在しているんだ」

Airbnbの「マネジメントしない」マネジメント方法とは:前編 | ReadWrite Japan 

「このホラクラシー、元はと言えばソフトウェア会社で開発のために考えられた、昔ながらの上から下に命令を下す形態を、「自律したサークル」のようなものに置き換えた形です。理論的には、このシステムを導入することにより、社員は会社の経営に関してより発言権を持つようになります。根本的には、ホラクラシーは、「人」中心ではなく、「やらなければならない仕事」を中心に、会社を組織するのが目的です。その結果、社員には肩書きが必要なくなったのです。社員は、明確な目的を持っていくつかの職務を担当します。1つのチームや部署で働くのではなく、大抵は複数のチームの一員として、それぞれの場所で特定の役割を果たします。」

「すべての階級を廃止」米Zappos社が導入した組織管理システム「ホラクラシー」は成功するか? | ライフハッカー[日本版]

なぜ、ホラクラシーなのか?

ホラクラシーの浸透によって、組織が本来どのように構造化されるべきか、どのように意思決定がなされるべきか、どのようなガバナンスレベルが行き届くべきかを改めて見直し、変化を受け入れる組織へシフトするきっかけが生まれると考えています。

いまではグーグルやマイクロソフトのような巨大企業で働く従業員も、企業が益々組織的になっていくことに嫌気が差し、スタートアップに転職するケースが増えていると聞きます。

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(c) HolacracyOne, LLC

簡単にまとめると、ホラクラシーには4つの特徴があると言われています。

  1. 柔軟な組織
  2. 効率的な組織運営
  3. 役割の明確化
  4. 主体性の強化

ホラクラシーの歴史

2007年に Ternary Software とうソフトウェア会社の創設者である Brian Robertson 氏がまとめた公文書*2によって浸透したと言われており、元々の語源は1967年に Arthur Koestler 氏の著書「The Ghost in the Machine」で提唱されたホラーキー(holarchy)から来ており、ギリシャ語の holos(Whole / 全体)が由来となっている。ホラーキーは独立独行でありながらも全体の一部であるという認識のもと、全体を司る一部でありながらも独立した一部である、という双方の機能を保持していることを意味します。

ホラクラシーはイテレーティブ(反復)な組織運営や適応プロセス、自律組織などのキーワードで説明することができますが、その根底にはアジャイル開発やリーン生産方式の思想が根付いています。

ホラクラシーの主要原則

前述した Robertson氏がまとめた公文書は今では彼が所属する HolacracyOne の公文書として発表されておりますが、ここでホラクラシーの原則をいくつかご紹介したいと思います。

活発化する役割

ホラクラシーにおける組織構造の積み木となるのが、役割です。ホラクラシーには役割と、その役割を更に活発化させるための「エナジャイザー」の存在が不可欠であり、自身の言葉でキャパシティやポテンシャル、機能すべき役割や期待できる結果を表現できるように促さなければなりません。まるで上下がない、団体スポーツにおけるポジションのようです。

役割は、肩書きや職種のことではありません。ひとりが複数の役割を担うことも可能になるということです。参考までに、HolacracyOne の組織構造をこちらの公式サイトよりご覧ください。

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(c) HolacracyOne, LLC

インタラクティブに各円型組織を閲覧できるようになっています。小さいひとつひとつの円が人です。詳細を確認すると、役割と決定権限がある内容の一覧等が組織内で明確になっていることが分かります。再度言及しますが、役割であり、肩書きや職種ではありません。そのため、複数の役割を保持している方が複数名か存在するものの、役割上の重複が見られないことが特徴です。

円型の構造

ホラクラシーにおける組織構造は、バラエティに富んだ役割が円型に集合して構成させる自律組織です。ひとりひとりが創造し、実行に移し、評価するためのプロセスを常に保てるようにしなければなりません。円型の組織では自身で組織運営に向けた会議を実施し、役割を新たに設け、メンバーを選発するなどの取り組みを自己責任のもと遂行っします。円型の組織ではひとりひとりの役割のリンクが重要です。

ガバナンス(統治)の強化

円型組織は複数存在する場合もあります。それぞれに生まれる円型組織では独自で定義すべき組織運営のためのガバナンスを周囲の役割や方針に従って定めていく必要があります。ホラクラシーではすべての円型組織を統合した意思決定の方法論を用いることで、多種多様なインプットをそれぞれの円型組織から自動でかつ効率的に入手できるようになります。

オペレーションプロセス

ホラクラシーにおける組織運営では、様々なオペレーション上のニーズに応えるべくそれぞれの円型組織のメンバーが自身の役割を果たすために効率的に、かつ協働的に運用されるべきです。そのため、会議においても意思決定権がひとりひとりに分散されているため、会議が効率的に開催されることが特徴として挙げられます。

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(c) iStockphoto

ホラクラシーは未発達?

但し、ホラクラシーはいいことばかりではないようです。

昨年に独自のマネージメントやリーダシップ論を提唱している Steve Denning氏を発端とした反論*3も生まれてきています。そのひとつに、アジャイル開発やリーン生産方式をモチーフにしているホラクラシーモデルには顧客視点が不足していると指摘しています。

すでにホラクラシーを導入している有名企業のひとつに Zappos 社などがありますが、Zappos 社は創設時よりすでに顧客中心の組織であったが故に成功していると考え、顧客中心の発想が根付いていない組織には専属部隊の欠如により不向きなのではないか、と加えています。

あくまでもひとつの反論ですが、ホラクラシーの商標登録をしている HolocracyOne ではそれぞれの指摘に対する意思をブログで表明しています。また、既に導入している企業と連携することにより、未だ歴史が浅いホロクラシーの更なる進展を目指しているようです。

従来のマネジメント体系であるヒエラルキーとは異なり、ホラクラシーは市場変化が激しいIT特有のマネジメント体系かもしれませんが、引き続きウォッチしていきたいと思います。

関連記事:

*1:Holacracy - Wikipedia, the free encyclopedia

*2:Robertson, Brian (June 2007). "Evolving Organization". Integral Leadership Review 7 (3).

*3:Making Sense Of Zappos And Holacracy - Forbes

優れたUXを実現するための人間中心デザインとは?

当記事は、2015年2月5日に無料動画のオンライン学習サイト - schoo WEB-campus(スクー)にて開催した授業「優れたUXを実現するための人間中心デザインとは?」のフォローアップになります。

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当日の授業の内容は schoo の下記ウェブサイトよりご覧いただけます(会員登録が必要です)。

はじめに

当企画は schoo と弊社コンセントとの合同企画で「社会に求められる価値あるデザイナーとは?」というテーマのもと、著者含むコンセントのアートディレクターの佐藤とサービスデザイナーの大崎の3名でそれぞれの立場から1人づつ授業を開催してきました。

  1. デザイン領域の拡張に伴うデザイナーとしての役割とは? 佐藤 通洋 先生 - 無料動画学習|schoo(スクー)

  2.  サービスデザイン時代のデザイナーのあり方とは? 大崎 優 先生 - 無料動画学習|schoo(スクー)

最終回となる今回は、以下のポイントを軸に人間中心デザインを題材としたモノづくりからコトづくりへの発想転換を背景に、いま社会に求められるデザイナー像を探っていきました。

① 美大卒だけがデザイナーとしての価値を発揮するとは限らない。

初回と前回の授業を担当した2人とは異なり、著者は美大を卒業しておらず特にビジュアルデザインにおける専門知識はほぼゼロに等しい状態でした。

但し、だからこそ「見える」デザインよりも「見えない」デザインを重視したアプローチやマインドセットを強化する姿勢を保つことができ、デザインをする立場からデザインを導く立場で振る舞うデザイナーとしての必要性を理解することができたと共に、デザイナーの新たな価値創出の場を見出すことができました。

結果として美大を卒業した方のみがデザイナーになれるという固定観念を取り払い、より多彩な専門家をデザインという土台に招き入れることができるのではないかと考えています。

② 正しくモノをつくろうとするのではなく、正しいモノをつくろう。

今回の題材となっている人間中心デザインというアプローチはあくまでも手段であり、目的ではありません。

人間中心デザインの根底にある思想や目的を理解することで、正しくモノをつくろうとする力よりも正しいモノをつくろうという力が働きやすくなります。

人間中心デザインは、正しいモノをつくるための「ものさし」として以降、解説していきます。

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人間中心デザイン的思考回路

著者の社会人経験はIT企業のビジュアルデザイナー(見習い)からスタートしました。様々なウェブサイト上で露出される特定商品のバナー制作やその先のランディングページである特集ページのデザインやコーディングを担当していた時期です。

当時は Photoshop や Illustrator などの専用のソフトウェアを使い分け、限られた空間(サイズ、露出枠など)内で作業をすることに喜びを感じていましたが、少しづつ、ランディングページへの導線設計やランディングページそのものの設計範囲までを含めたコンテンツや機能設計に関心を持ち、ウェブディレクター職へと移りました。ウェブディレクター時代は制作の進行管理やサイトの簡単な情報アーキテクチャなどを担当しておりましたが、サービスそのものを抜本的に改善したいという想いが強まり、

「どのように」つくるか?から「なにを」つくるか?そして「なぜ」つくる必要があるのか? 

と問い質すようになったことがきっかけでサービスデザイン領域からモノづくりに関わっていけるようなポジションに身を置くようになりました。

本当にユーザーから必要とされている、または正しいモノをつくるためには先ず誰のために、なぜつくるのか?を明確にしなければならない。

これは、ユーザーとの接点を担っているデザイナーだからこそ課題意識として認識できるのではないでしょうか?

この思想に辿り着いたのは学生時代に専攻していたユニバーサルデザインの提唱者であるドナルド・ノーマン博士の著書「誰のためのデザイン?」で言及された「ユーザー中心設計」との出会いでした。

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「誰のためのデザイン?」が出版された1980年代以降、エンジニアリング領域からもヒューマンセントリックなモノづくりの重要性が主張されはじめ、1999年にISO 国際規格として「人間中心設計」が制定されました。

すべての人が使いやすく、という考え方は非合理的です。誰にとっても使いやすいプロダクトやサービスを目指せば、誰にとっても使いにくいモノになってしまう。

ユーザーの立場からも誰のためのプロダクトやサービスなのかが理解できず、自分ごと化できずに終わってしまう恐れがあります。だからこその人間中心デザイン改め人間中心設計なのです。

 花とデザインと伝わる仕組み 

「デザインとは、相手に花束を渡すようなものだ。」

ー中西 元男(PAOSグループ代表)

著者が学生時代に大変お世話になった、師匠の言葉です。人間中心設計はここで言う花束の届け方、つまりは「伝わるしくみ」を考える行為・プロセスそのものです。

「伝わるしくみ」を考えることは日常的に誰もが無意識に行っている行為です。例えば大切な方や友人にプレゼントを渡すシーンを想像してみてください。

  1. まず初めに、相手に伝えたい想いがあるはずです。例:ありがとう、ごめんなさい、付き合ってください、等
  2. (1) の想いを表現するために用いられるのがプレゼント(モノ)です。ここであなたは想いがより相手に伝わるためのプレゼントを、相手の性格や特徴を踏まえて選んでいることと思います。
  3. プレゼントが揃いましたら、想いを伝えるための方法を考えるはずです。いつ、どこで、どのように渡せば想いは伝わるのか、伝わるためのしくみをあなたは考えているはずです。
  4. 相手は受け取ったプレゼント(=想いを表す記号的役割を果たす)からあなたの想いを解読し、結果はどうであれ応えるはずです。
  5. あなたは相手の反応を待って、自分が用意したプレゼントはもちろん、伝えるためのしくみが正しかったか、伝わっていたかを評価し、次に活かそうとするはずです。 

人間中心設計も全く同じ思考手順で進みます。

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伝わるしくみを考える上で大事なポイントは2つあります。

  1. 伝えることと伝わることは別です。伝えることは手段であり、結果として伝わっているかどうかは評価しなければわかりません。伝えたことで満足してしまっては双方のコミュニケーションは成立しません。最も重要なのは、伝わることです。

相手に、ユーザーに、伝わったつもりではいませんか?

  1. 誰が、いつ、どこで、なにを、どうしたら伝わるのか?そもそもなぜ伝える必要があるのか?伝わるしくみを考える際のこれらのポイントは、お気づきの方もいるかもしれませんが「5W1H」と称される問題発見と問題解決と同じ思考のフレームワークを採用しています。

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結論、人間中心設計の本質は問題発見と問題解決であると言えます。

人間中心設計は問題の解決策を探るだけではなく、解決したいそもそもの問題を探る行為・プロセスなのです。

結果として、人間中心設計を通じて問題発見力・問題解決力を養うことがができます。

ここでは8つのステップで解説していきました。

問題発見:
  1. データ分析
    データ分析には3つの意図があります。過去からパータンを探る、いまを知る、未来を予測する。
  2. ファクト抽出
    ユーザーを知るための情報を抽出していきます。不足があれば、定性調査等で補います。
  3. ユーザー定義
    ユーザーが実在するかのように非言語情報として可視化し、周囲のイメージ強化を図ります。
  4. シナリオ定義
    時間軸でユーザーの生活を把握します。問題が多く発生している箇所を解決することが本質的な問題発見・解決に至るとは限りません。 
問題解決:
  1. 解決案作成
    問題とその原因を特定後、5W1Hに習ってユーザーに伝える解決する方法を模索していきます。
  2. 構造定義
    データやデバイス、ウェブサイトが全体の構造としてどのように調和していくべきなのかを考えます。
  3. 詳細設計
    解決する方法を軸に、想いを伝えるための表現手段を考えます。
  4. 評価
    事前・事後問わずユーザーに正しく伝わり、問題の解決に至ったかを検証します。

幸せの「ものさし」 

言わずもがな、そもそもものさしとは長さを測るためにあります。

なぜ人々はものさしを用いるのか。

当たり前のことではありますが、ものさしを使わずに対象を見ただけでは長さの判断においてばらつきや歪みが生じ、不都合が生じてしまう恐れがあるためです。

デザインにも同じようなことが言えます。

チーム内で同じものさしで物事や事情を測らなければ、ばらつぎが生じ、確信をもって判断ができなくなってしまいます。そしてこの人間中心設計は、チーム共通のものさしとして機能します。

前述した、誰によって、いつ、どこで、どのように、そしてなぜ対象のプロダクトやサービスが使われているのか?を発見し、問題を特定することで以降の問題解決でも同様に、誰に、いつ、どこで、なにを、どうやって伝える(提供する)のか、そもそもなぜか、を共通の目盛として考えていきます。

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人間中心設計はプロセスである、と説明しましたが必ずしもスタート地点がどの場合においても一緒とは限りません。場合によっては評価からはじめることもありますし、特に新規事業の場合は事前のデータなどがないため、仮説としてユーザーを定義したりします。

ポイントは、問題発見と問題解決で目的を明確に区別することで人間中心設計で陥りやすい手段の目的化から逃れることができます。

人間中心設計を参考にすることで、定量・定性の両方の側面から様々なプラスの効果を得ることができます。

資料に記載の数値的な結果と同様の効果を補償することはできませんが、ひとつ言えることは失敗はしません。チーム内で共通のものさしを設けることができれば、「正しいモノ」が測れるようになりチーム、そして組織を成功へと導いてくれます。

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著者が過去に担当したサービスも、サイトリニューアルを通じてコンバージョン率がリニューアル後3ヶ月で平均54.2%(昨対比)も改善し、事業に大きく貢献しましたが、何よりも嬉しかったのはリニューアル後に事業の各スタッフがリニューアル中に定めたユーザーやシナリオが正しかったかを継続的に検証を進めていることでした。

人間中心設計の価値は定性的な側面による効果が大きく、対象の事業も同様の効果が見られた故だと考えています。 

  • チームメンバー全員が主体的にモノづくりに関わっていけた。
  • ターゲットユーザーが共通言語として成立していた。
  • ものさしとして機能し、機能開発の優先順位が明確になった。
  • リリース後も継続的な改善を促すことができた。
  • 全体スケジュールやコストを平均20〜25%短縮することができた。
上記図のように、人間中心設計は無限かつ自動車のエンジンのように前輪と後輪で役割を明確化し、組織の中で稼働し続ける必要があります。

 「人間中心と言うからには、私は本当に人の幸せを考えらているのか、常に考えるようにしている。」

ー中埜 博(東京環境構造センター代表)

プロダクトやサービスは、ユーザーにとってその先にある目的やゴールを達成するためのひとつの通過点に過ぎません。

だからこそ、その先にあるユーザーの姿をも視野に入れ、自社のプロダクトやサービスがその人の幸せに向けてどのような役割を果たしているのか、を理解する必要があります。

人間中心設計または伝わるしくみを考えることは、想いを伝える先にいる相手の幸せを考えることだと思います。

そのためのものさしを、設けてみませんか?

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まとめ 

人間中心設計という名前こそ専門的な印象を受けますが、前述した「伝わるしくみ」に置き換えて考えることができれば、明日からでも実践することができます。

例えば、料理を食べさせてあげるときやメールをするとき、仕事場でプレゼンをするときなど、相手がいてこそ成立する日常のコミュニケーションに遭遇することがあれば、ぜひ、伝わるしくみの要領で想いを的確に相手に伝え、伝わるためのしくみづくりやコトづくりを意識してみてください。

そのように身の回りの日常から意識し、創造的に活動をすることでデザイナーでなくともデザイナー的思考のもと、人間本来誰しもが持っている創造力を取り戻し、そして育み、発揮することができます。

デザイナーには、「伝わるしくみ」のような無形の概念や言葉を形にできる、ないしは表現できる大きな強みがあります。

だからこそ、冒頭の正しいモノへと周囲を導くことができると信じています。

社会に求められるデザイナーとは?というテーマで人間中心設計という行為やプロセスを軸にデザイナーのあるべき姿や担うべき役割を述べさせていただきましたが、社会から一方的に求められるだけではなく「求めてもらえる」ようなデザイナーを目指すことが結果としてデザイナーの価値創出に繋がるのではないでしょうか?

おしらせ

いかがでしたでしょうか?

schoo と弊社コンセントとの合同企画で「社会に求められる価値あるデザイナーとは?」というテーマのもと計3回に渡り授業を開催してきましたが、みなさんからお寄せいただく質問や疑問にすべてお答えできなかったことが悔みです。

そこで来る2月25日(水)にクリエイティブスペース「amu」にて afterschoo、デザイナーのための放課後と題し、授業を担当した3名によるトークセッションとみなさまとのディスカッションの場を設けさせていただきました。

下記より申し込みいただけます。

ご都合が会いましたらぜひ、お気軽にご参加ください。オフラインでもお会いしましょう。

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