世界で一番売れているカメラをご存知でしょうか?
人づてで伺った話なので既にご存知の方もいらっしゃると思いますが、正解は Flickr でも利用されているカメラで1位を独占している iPhone です(2013年7月時点)。
iPhone がカメラ機器として分類されるべきか否かはさておき、その理由を紐解いていくことがユーザエクスペリエンスを理解する上では重要だと考えています。
これは先日開催された JTF: July Tech Festa 2013 で担当させていただいた「ユーザエクスペリエンス・デザイン・ガイド」と題したデベロッパー向けセッションの冒頭でお話させていただいたトピックです。
あくまでも自論ですが、これまでのカメラは「写真を撮影をする」体験に重きを置いていましたが、iPhone (とサードパーティによって提供されている有数のアプリ)の登場によってカメラに最も必要だった価値は「写真を撮影する」こと以上に、その後の「写真を記録・共有する」ための「ネットにつながる」ことだったのではないかと気づかされます。
Facebook に代表されるソーシャル・ネットワーク・サービス、及び Flickr に代表される写真のクラウド・ストレージ・サービスの普及に伴い、写真を記録・共有する行動モデルにユーザがシフトしていったことも背景にはあると思います。加えて、レティーナ・ディスプレイによってこれまでのカメラに匹敵する画面高解像度が実現し、instagram などのフィルタ加工機能が付加価値として存在します。おまけに携帯性が抜群です。
カメラの持ち運びから撮影→加工→記録→共有までの一連の「コト」のデザインがとても優れている背景には、撮影後にパソコンにカメラを接続して写真をアップロードするという手間(問題)が解決されたことが要因としてあると思います。
ネットへの接続と操作性は iPhone のカメラとしてのユーザビリティ要素を満たし、フィルタ加工と各種ソーシャル・サービスとの連携によって使用する楽しさを実現しています。この2つの要件こそがユーザエクスペリエンスを考えていく上で重要であると言われています。
ユーザエクスペリエンス(UX)
前述しましたが、これまでになかった新たな価値が生まれてくる背景にはメディアやデバイス、プラットフォームの多重化があります。ある調査によると、その数はここ5年で10倍にも膨らんだと言われています。よって我々生活者は場所や時間に囚われることなく、利用するメディアやデバイスなどを取捨選択できるハイ・コンテキストなライフスタイルを送るようになりました。裏を返せば、企業の消費者へのアプローチがリッチになりました。
いくら自社コンテンツやサービスが魅力的でも彼らの利用シーンにフィットしなければ情報へのアクセシビリティが低下し、せっかくの魅力が十分に伝わりません。回避するためには誰が何をどのように利用するか、ではなく誰がいつどこで何をどのように利用するか、そしてなぜかを十分に検討していく必要があります。それを実現するための方法論が、今回の主題でもある「人間中心設計(Human Centered Design:以下HCD)」です。
人間中心設計(HCD)
ここでは過去に担当した事例を基に ISO 規格で定義されている人間中心設計プロセスとその手法をご紹介しています。
- ペルソナ:ユーザの要求を知る
- シナリオ、要件定義:ユーザ要求をシステム要求に変換する
- 画面設計:デザインや設計に落とし込む
- ユーザビリティテスト:デザインや設計案の妥当性を評価する
その中でもユーザエクスペリエンス・ジャーニー・マップを活用したシナリオのビジュアライゼーション(可視化)によって前述した誰がいつどこで何をどのように利用するか、そしてなぜかを分析することが可能です。結果として課題の特定から解決に向けた解決への糸口を探ることができます。
PDCAサイクルのところで出てきた「User Experience Journey Map」というツールがビジュアル的にわかりやすくてすてき。
-JTF2013に参加してきた(zzz0123さん)
人間中心設計手法の導入
July Tech Festa では職能問わずデベロッパーの方々でも HCD を実務に取り入れることができる、代表的な手法とそのポイントを幾つかご紹介しました。スタートアップ向けに今春開催した LeanUX Workshop でもご紹介したストーリーボードという簡易的シナリオ法もその内のひとつです。4コマ漫画の容量で対象ユーザと自社サービスまたはプロダクトの関係性を描き、利用文脈の共通理解を促すための方法です。
ここでポイントとなるのは時間(いつ)と場所(どこ)が把握できること、そしてストーリー(どのように)に関係してくるステークホルダーが描かれていることです。対象ユーザの行動や意思決定に影響しうる因子分析も同時に行うことでアプローチ方法が変わっていきます。
開発プロセスへの導入
最後に、質疑応答でもあったユーザビリティテストの実施内容と開発プロセスへの導入方法をご紹介しました。検討範囲及び期間、実施内容によって様々ですが、ベースとなるユーザビリティを担保するためには3つの評価軸に従うと良いかもしれません。
- シナリオの評価:想定したシナリオの妥当性を検証する。
- サイト構造の評価:導線の有効度合いやコンテンツニーズを検証する。
- 画面構成の評価:レイアウトやラベル、リンク位置を検証する。
同時に実施することも可能ですが、その後の変更や修正に伴う開発期間の短縮などのリスクが伴います。よって、手軽にできるペーパープロトタイプを活用するなどして大枠のシナリオの検証を早期段階で実施し、プロトタイプの精度を上げるごとに評価内容もマクロからミクロへとシフトしていくことも可能です。
今の開発はモックをベースに開発をしているのですが、それなりに開発期間が長いので、色々な理由でモックと少しずつ違う点が出てきたり、モックでは想定していなかった問題(例えばモックで用意していたデータと、実際に流れ込んでくるデータの量が全く違うなど)が出てきて、開発している画面が、テストを行ったモックと少しずつ離れてしまうんです。
-July Tech Festa に参加しました(tendon0さん)
開発期間が長期に及ぶ場合は想定しているシナリオごとに開発計画を練り、品質管理の一環でユーザビリティテストを実施することも選択肢のひとつとしてご紹介しました。
まとめーDesign for Meaning, Design for User
当セッションで一番伝えたかったことはリリーさんの下記の言葉に集約されます。
ユーザエクスペリエンスに関する体系だった坂田さんのセッション終了!面白かったです。ユーザ目線から見たら、サイトに関わる人はすべて職能関係ない!職能間のコミュニケーションのツールとして有効そうですね。#techfesta
— リリー (@barurustudy) 2013, 7月 14
職能別組織の形成は、マネジメントの観点から効率が良いことは理解しています。しかし、サービスまたはプロダクトを利用しているユーザからすればサービス提供側の組織構造やオペレーションなどは「どうでもいい」としか言いようがありません。区役所や病院の盥回しが良い例です。仕方なく合わせてみるものの、当事者間の連携や姿勢が煩雑だと気持ち良くはありません。
理想は職能関係なく全員が同じ姿勢でユーザを見つめることだと思います。人間中心設計(HCD)こそ、組織・領域横断的なユーザ中心のアプローチであり、それを実現してくれるコミュニケーション・ツールです。結果として優れたユーザエクスペリエンスの実現にも近づけていけるのだと思います。
最後に、人間中心設計の思想に一歩近づくために自問すると良いかもしれない質問をご紹介して終わりにしたいと思います。3連休の中日にも関わらず、ご参加いただきありがとうございました。
- どうやって(つくる)?
- なにを(つくる)?
- なぜ(つくる)?
- 誰のために(つくる)?
追伸
当イベントのスローガンは「コード中のインフラ」でした。インフラの「イ」の字もないセッションでしたが、ベスト・スピーカー賞を頂戴しました。とても光栄に思います。改めまして、ご参加いただいた皆さま及びスタッフの皆さま、ありがとうございました。