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カスタマー・ジャーニー分析とビッグデータ

米経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーのパートナーである Dorian Stone(ドリアン・ストーン)と Marco Pacelli(マルコ・パセッリ)が4月上旬に行われた Fiserv Forum 2013 というマーケティングカンファレンスで講演した内容が非常に面白かったので翻訳してまとめてみました。

参考記事:

User Experience Journey Map - ユーザーエクスペリエンス・ジャーニー・マップ - UXploration

(原文:Customer journey analytics and Big Data

ここ10年でメディアやデバイスなどのチャネルの数が10倍にも膨らみ、マルチ・チャネル化されたことでカスタマー・エクスペリエンス(顧客体験)は Moments of Truth(真実の瞬間)から Customer Journey(カスタマー・ジャーニー)へと変化しつつあります。カスタマー・ジャーニー、または顧客が辿るパスをビッグデータをはじめとするデータ解析を用いて把握することによって収益性・成長性の観点からサービスないしはプロダクトの利用シナリオを最適化することができ、顧客ロイヤリティーを高めることが容易になります。

大半の会社が既にこの解析に必要なデータを備えていると言われています。備えているのですが、有効活用するにまで手が及んでいないことが事実です。残念なことに、その大半の会社がカスタマー・ジャーニー分析がもたらしてくれる本当の価値に気づいていないと指摘します。すべてのジャーニーを把握することが重要なのではなく、企業にとって最も有益なジャーニーまたはパスを抽出することが最重要ステップです。

これまではマーケティングとオペレーションはカスタマー・エクスペリエンス分析において良好な関係を築いてきませんでした。マーケティングがデータを抽出・提供できたとしてもオペレーションサイドの人間はどうすれば上手く活用できるのか、以降の検討が難航していると言われていました。結局はオペレーションサイドが基本的なデモグラフィックを要求し、マーケティングがデモグラフィックのみの範囲に留めた調査のみを実施するようになってしまいがちです。このビッグデータ解析を用いることで、両者の関係を改善へと導いてくれます。顧客のビヘイビア(行動)を示すデータによってオペレーション観点から観察・検証することが可能になり、これまでよりも確度が高いセグメントごとの顧客ニーズを抽出することができます。

マーケティングとオペレーションの双方がカスタマー・ジャーニーという共通の指針を掲げることによって、これまで以上に効果的なデータ解析が行われるようになり、新たな価値創出に向けた大きな一歩になると伝えています。

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(参照:The Importance of User Experience by soldierant on Flickr

マッキンゼーの調査によると、アメリカの大半の企業は100デラバイト以上のデータを格納していることがわかったそうです。特に多いのは証券や投資関連企業、次にメディアや政治機関がランクインしています。そしてその中でも既にデータを有効活用している企業は業界問わず、協業他社と比較して優位だそうです。

一方で、ビッグデータの有効活用法についてはまだ明確な価値が見出せていない企業が多いことも事実です。例えば…、点と点をつなげることができない/次のアクションを示唆してくれるレベルにまで達していないなどが理由として挙げられています。

ではカスタマー・ジャニー分析という考え方を取り入れる必要性はどこにあるのでしょうか?カスタマー・ジャーニーを可視化したカスタマー・ジャーニー・マップは顧客のライフサイクルの主要なイベントをベンチマークし、対象サービスないしはプロダクトに対してどのような反応を見せているのかを一枚絵で検証することができます。また、顧客がサービスないしはプロダクトを利用する際のビヘイビアにも変化が現れるようになり、顧客対ブランドのインタラクションの56%は複数のチャネルで発生しており、38%のカスタマー・ジャーニーが2つ以上のチャネルを跨いでいることがわかっています。

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(参照:Customer Journey Mapping | Customer Experience Planning

カスタマー・ジャーニーの主要構成要素は実店舗やウェブ、コールセンターなどのチャネルと、インタラクションが発生している箇所を示すタッチポイントの2つです。この点と点をデータ解析に基づき繋げることによって文字通り、旅の形跡を辿ることができるようになります。

マッキンゼーの調査によると、カスタマー・ジャーニーが進むにつれて顧客満足度も比例して高くなっていきます。つまり、カスタマー・ジャーニーにおける対ブランドとのタッチポイントが多ければ多いほど、顧客はブランドに対する愛着が湧き満足する傾向にあります。顧客満足度が上がれば結果として企業の収益性が改善されます。

それだけではありません。優れたカスタマー・ジャーニーを実現することによってこれまで複数のチャネル間で発生していた対顧客のサービス投資コストが平均10~20%もカットされ、売上も5~20%アップが期待され、顧客満足度も約30~40%ほど向上します。

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ではどのようにカスタマー・ジャーニーを描き、分析するのか?マッキンゼーが提供しているソリューションでは以下の4つのステップに分解されています。

  1. ジャーニーを先ずは可視化し、1つ1つのタッチポイントの質を分析
  2. 課題を抽出し、原因を特定
  3. 会社に価値を見出すパスを見極め、優先順位付け
  4. KPIなどの主要な指標との相関関係を分析し、ダッシュボード化して変化を察知

よく仕組み化されています。

このように、マッキンゼーをはじめとるす経営コンサルティング会社がマーケティング・ソリューションの一環としてユーザ体験に注力しているケースが多く見られます。同じく経営コンサルティング会社のアクセンチュアも、サービスデザイン会社を買収したばかりです。畑は違えど、企業経営に特化したコンサルティングを提供している会社ならではの科学的なアプローチは、学べることが多いです。

マッキンゼーによるまとめ:

  1. ビッグデータの価値はリアルタイムでデータを解析することであり、必ず実行に移せる指標にまで昇華させる必要がある
  2. すべてはデータ解析から導き出される人間そのものの意思決定に左右される
  3. データ解析はビジネス・ファースト(仮説思考)であるべきであり、データを集めることそのものを目的化しない
  4. 完璧なデータは存在しない
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