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みんなでつくるエクスペリエンス・ジャーニー - EJlab(Experience Journey lab.)

以前ブログで取り上げたUser Experience Journey Map(ユーザ・エクスペリエンス・ジャーニー・マップ)をサービスに取り入れている「Experience Journey Lab.」に注目しています。通称「EJ Lab」は、慶応義塾大学のグローバルセキュリティ研究所と DNP の共同研究プロジェクトとして今週ローンチされた、共創を可能にするオンライン・プラットフォームです。

「本トライアルは、サービスデザインのためのプラットフォーム「Experience Journey Lab.(エクスペリエンス・ジャーニー・ラボ)」を活用し、一般の生活者から消費に関する不満や、その改善や革新につながるサービスのアイデアを募集します。消費に関わる一連の生活体験を、旅の行程=ジャーニーのように描き出すことで、認知、検討、購買、利用、共有といった、各消費行動のつながりから生まれる総合的な体験価値に注目し、その向上をはかる新たなサービスを参加者と共に創造していきます。」 - オンラインプラットフォーム「Experience Journey Lab.」にて共創サービスイノベーション手法のトライアルを実施―消費生活を豊かにするサービスアイデアをネット上で形成―

みんなの「欲しい(ニーズ)」ではなく、みんなの「不満(ペイン)」から革新的なアイディアを生み出そうという着眼点も非常に面白いのですが、加えて「人(ユーザ)」ではなく、その名の通り「体験(エクスペリエンス)」にフォーカスしていることが素晴らしいです。

参加方法および一連のサービスフローは以下のとおりになっています。

  1. テーマに沿ったモヤモヤを共有する:生活の中で「困ったな」、「なんか変だぞ」、「改善してほしいな」と感じるエピソードを、モヤモヤとしてサイトに投稿します。
  2. モヤモヤ解消のアイディアを発送する:参加者から寄せられた様々なモヤモヤを解決する製品やサービスのアイデアを投稿します。アイデア発想の手助けとして、モヤモヤにランダムなヒント(モノ、ヒト、場所など)を組み合わせる強制連想法が用いられています。
  3. アイディアを組み合わせてストーリーを考える:モヤモヤを解消するサービスのアイデアを任意で2つ組み合わせて、異なる生活シーンをまたがるより発展的なサービスの利用シーンをストーリー化していきます。異なるアイデアをひとひねり加えて繋げることで、個別シーンのモヤモヤ解決を超える新しい価値を生み出します。
  4. サービス利用者へのエクスペリエンス・ジャーニーマップを描く:2つの生活シーンをまたぐサービスのストーリーを、さらにその前後の生活シーンをも連続的に繋ぐように展開させて、一連の生活体験を豊かにする総合的なサービスのエクスペリエンス・ジャーニー・マップを描きます。このフェーズはワークショップ形式で実施されます。
  5. 生み出されたサービスアイディアを疑似体験する:「Experience Journey Lab.」で生み出されたサービスのエクスペリンエンス・ジャーニーのプロトタイプを制作し、ショールームにおいて一般公開します。

ポイントは2つあると思っています。

1つは冒頭でも記載しましたが、「人」ではなく「体験」に重きを置いているということです。これは、ラリー・コンスタンチン氏とルーシー・ロックウッド氏の「使いやすいソフトウェア―より良いユーザインタフェースの設計を目指して」でも提唱されている手法「利用中心設計(Usage Centered Design)」そのものです。一般的に人間中心設計(User Centered Design)ではターゲットユーザの調査からテストといった文字通り「ユーザ」に重点を置いているのに対して、利用中心設計では「プロダクト」あるいは「サービス」に重点を置き、ユースケースやインターフェースを導き出す、別の角度からのアプローチです。

人間中心設計と利用中心設計ではどちらが良いか、ということはありませんが、今回 EJ Lab. が扱っている「体験」中心アプローチの強みは、「なぜ、そのようなデザインになったのか?」がより明確になるということと、利用シーンを思い描きながら発想していくため、よりハイレベルでの認識の統一が図れることだと思います。結果として EJ Lab. はアーリー・ステージで多くの人に参加しやすい環境をサービスとして提供しています。

2つ目は「モヤモヤ」です。「ニーズはどうやって抽出するの?」とよく聞かれることがありますが、EJ Lab. のように、人々が「不満(ペイン)」だと感じている、あるいは思っていることを集約することがニーズの把握につながっていく1つのアプローチでもあります。また、「モヤモヤ」に重きを置くことで、その後開発した製品やサービスを通じて達成される喜びや楽しみによって解消したか否かの判断が前後比較で容易になると思います。

加えて、オンライン上で共創するプラットフォームを構築することでフィードバックもインタラクティブにかつ細かいサイクルで廻していくことが可能となり、利用するユーザ数が増えることで多岐にわたるアイディアであったり視座が得られるので大きな期待を寄せています。と同時に、どこかでコラボレーションできないものかな、と企んでいます。

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