http://www.nhk.or.jp/special/onair/091025.html
前回のエントリーでご紹介した「見通す力」で池上さんがお話しされていましたが、日本経済・景気の今後の見通しを立てる際に「自動車業界のこれから」が有益な情報になるようです。
「自動車は、とても複雑な製品です。一台のクルマには、エンジンや車台、車体、内装、さらにはカーナビやオーディオといった、多くの要素が含まれています。そのため、国内の自動車産業の規模は非常に大きく、関連産業の就業者数は約515万人。日本の全就業人口のうち、約12.5人に1人が自動車関連産業で働いている計算になります。」- pp200
市場規模は60兆円以上に達し、日本の GDP の1割以上を占めている計算になります。そのため、自動車産業の今後は日本経済・景気の今後に大きな影響を与えると考えられているようです。先々週末に丁度 NHK で『NHKスペシャル「自動車革命−スモール・ハンドレッド 新たな挑戦者たち」』が放送されていたので、思わず録画して観てしまいました。
今、自動車業界では産業革命に匹敵する大革命が起きています。電気自動車産業は、既存の自動車産業の在り方を根本から覆してしまうのかもしれません。というのも、20世紀初頭にも実は同じような革命が起きていて、2つの技術が争っていました。電気でモーターを回す車(Electric Motor)とガソリンをエンジンで燃やす自動車(Gasoline Engine)です。結果として、ガソリン自動車が普及しました。
しかし、石油の時代の行き詰まりや百年に一度とも言われる経済危機の影響で、電気がガソリンからトップの座を奪おうをしています。そのきっかけとして、電気自動車産業(以下:EV)の新たな挑戦者(スモール・ハンドレッド*1)が誕生しつつあります。
中国の EV市場
- 中国では元農家が起こした EV メーカーや元自動車の技術者が起業したスモール・ハンドレッドが多い。
- EV は複雑なエンジンがいらないため、部品はガソリンの1/10で済ませられる。
- 電池とモーター、車輪を加えるだけで稼動し、エンジンが高熱化しないため、車体を鉄で作る必要がなくなる。
- 中国には、自動車メーカーが成長する条件(世界の自動車メーカーの部品製造を担ってきた中国ならではの価格と品揃え)がある。
- EV のターゲットは今まで自動車が市場とみなしてこなかった低い所得者層。
- ビッグスリーの下から這い上がってくる無数のスモール・ハンドレッドはいずれ大手自動車メーカーのライバルになり得る。
- 中国に拘る理由には、リチウム電池やモーターの資源が確保できるから。しかし、輸出には制限があるため、資源の安定供給の確保がカギ。
アメリカの EV 市場
- ガソリン自動車を牽引してきたアメリカでは、オバマ政権が打ち出したグリーンニューディール政策がキッカケで巨額な資金が自動車産業や環境省に向かうようになった。
- シリコンバレーでは電気自動車のベンチャーが誕生している。
- シリコンバレーのスモール・ハンドレッドはこれまでの常識を打ち破って新たな市場を開拓している。
- Aptera など、IT技術者にロボットやロケットの技術者、自動車産業に園がなかった人たちが開発を担っているベンチャー企業がある。
- 四輪で箱型の車を造るように訓練されていないからこそ、タイヤと地面の摩擦を下げるため、3輪にしたり鉄の3倍の強さを実現している素材の採用が可能。
IT と EV
- シリコンバレーでは政府が主導し、EV とITを組み合わせた新たな産業を起こそうとしている。中心的な役割を担っているのが、Google。
- 各家庭に電気を供給するパワーラインを利用し EV によって根本的に変える。
- EV はコンセントを通して家庭を繋がるようになり、自動車は家庭で最も大きな家電になる。
- EV は蓄電池になり、電気自動車から電気を供給する。この仕組みを地域に展開。
- 送電網をインターネットで結び、情報を管理することができれば、電気の不足を察知し、融通しあえるようになる。「SMART GRID」構想。
- 車(ノード)がシステムの一部と化し、IT が産業の核となるファンダメンタル・チェンジが起ころうとしている。
スモール・ハンドレッドの新興メーカー
上記を見る限り、自動車産業にはまだまだ伸び代がありそうですが、問題点は山積みです。
- 走行距離を稼ぐために、バッテリーを載せると車体が重くなってしまう。
- EV の普及には街中の充電設備の設備が欠かせない。
中国産のリチウム電池の普及から(1)は改善されつつあるそうですが、(2)は政府の全面協力が不可欠です。日産のアメリカ拠点では自治体に設置を要求し、自発的に進めているようですが、アメリカのグリーンニューディール政策のような巨額な支援金を投資しなければ急成長は見込めないのではないでしょうか。ヨーロッパのように EV 利用者の渋滞税*2や自動車税、駐車代の免除など、国を挙げての全面バックアップを見習っていただきたいものです。