サンタクロースに学ぶUXデザイン

当記事は、著者が幼少期の大半を過ごした米国での実体験を基に再現したクリスマス・ストーリー*1です。殆どが著者による推測によって書かれた文章ですが、いま思えば、サンタクロースこそ優れたユーザエクスペリエンス・デザイナーなのではないでしょうか?

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この時期になると、著者が住んでいた市では町中が綺麗なイルミネーションに覆われていました。小学校の近くではご近所さん同士が協力し、一帯がひとつのアート作品として輝いていました。それを学校帰りの母の迎え車の中で妹と3人でドライブしながら毎年鑑賞していたことは、いまでも忘れられません。

ショッピングモール型の商業施設では必ずと言っていいほどイベントスペースには4階建てに相当する高さのクリスマスツリーが飾られ、クリスマスイヴが近くになるにつれ、決められた時間になんとサンタクロースが登場します。

子供たちへのインタビュー

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順番待ちをしていると、子供たちが次々とサンタクロースの両膝に座り、記念撮影をするとともにサンタクロースとの会話を楽しんでいる様子が伺えます。順番が来るまで、著者は欲しいものを一生懸命考えていました。

出番です。妹と2人でサンタクロースに歩み寄ると満面の笑みで私たち兄妹を抱きかかえるかのように暖かく包んでくれました。写真撮影に没頭する両親を横目に、サンタクロースから幾つかの質問が投げかけられます。

  • お名前はなんていうの?
  • 何歳かな?
  • 将来はなにになりたいの?
  • 今年はどんな年だったかな?
  • どんなことに挑戦したの?
  • 最後の質問だよ、欲しいプレゼントはあるかい?

著者は、当時流行っていたおもちゃが欲しい、と強く伝えました。笑いながらサンタクロースは「考えておくよ」とニッコリと笑い、私たち兄妹はサンタクロースに手を振りながら、その場を後にしました。

クリスマスプレゼントの準備

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クリスマスまであと数日。サンタクロースはきっと今頃、私たち兄妹のことを思い浮かべながらプレゼントを準備してくれているに違いない、と夢を抱きながらカウントダウンをしていました。

タクソノミーの作成

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サンタクロースはきっと忙しいはずです。全世界の子供たちにプレゼントを渡すのですから。子供たちの数だけプレゼントはあるー今頃サンタクロースはきっとプレゼントが混在しないために、インベントリー(リスト)を基にひとつひとつのプレゼントにタグを付けて整理しているに違いない。クリスマス当日に、より簡単にプレゼントを袋から取り出しやすくするために。

そのタグには子供の名前と年齢、国と住んでいる場所、プレゼントの中身が記載されているはずです。

シナリオ設計とシミュレーション

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サンタクロースはどうやってプレゼントを私たち兄妹の枕元に届けるのだろう?家の形はもちろんそれぞれの家庭で異なり、同じようにプレゼントが届けられるのだろうか?

サンタクロースはきっとプレゼントの最善の届け方を考えてくれているに違いない。そして、シミュレーションしているに違いない。私たち兄妹は、サンタクロースが無事に家の中に入れるよう、クリスマスイヴにはカーテンを少しばかり明け、迷わないためにサンタクロースのための道をつくりました。

クリスマスプレゼントを届ける

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サンタクロースはきっと来てくれる。でもいつ来てくれるのだろう?私たち兄妹は眠い目を擦りながら、「ありがとう」を伝えるべく、サンタクロースが来るまでベッドで待ち続けました。迷子になっていないかな?不安に思いながらも私たち兄妹は睡魔に負け、眠りにつきました。

クリスマス当日のサプライズ

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朝起きてみると、枕元にプレゼントがありました。いつ届けに来てくれたのだろうか。きっと、私たち兄妹がいつ頃眠りにつくのかわかっていたのだろう。プレゼントを急いで開けてみると中身は欲しかったおもちゃではなく、当時の夢だったサッカー選手になることをサンタクロースは知っていたからなのか、かっこいいサッカーのスパイクシューズが入っていました。

予想外だったプレゼントだけに、いまでもその体験は忘れられません。いま欲しいものではなく、そのときの著者にとって必要となるプレゼントを考え、届けてくれたサンタクロース。きっと、著者の反応を遠くの世界から見守っていてくれたことだと思います。

まとめ

これはあくまでも著者の推測によるものですが、いま思えばサンタクロースは優れたユーザエクスペリエンス・デザイナーだったと考えています。

  1. 子供たち1人1人の意見に耳を傾ける(著者の実体験では直接だが、手紙などによる間接コミュニケーションも存在)
  2. その子の特徴を的確に把握し、本当に必要とされるプレゼントを考える
  3. 子供たちへのプレゼントを準備する
  4. 子供たちにプレゼントを確実に届けるためのシナリオを練る
  5. 最善の方法でプレゼントを子供たちに届ける
  6. クリスマス当日に子供たちの反応を見守る

これは、人間中心設計(Human Centered Design)ないしはUX(ユーザエクスペリエンス)デザインの実践とほぼ同類なのではないでしょうか?

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ユーザーインタビューからシナリオ設計、施策検討までを手掛けているサンタクロースは正に優れたユーザエクスペリエンス・デザイナーだと思っています。そして何よりも、子供たち(HCD / UXデザインの文脈ではユーザー)の笑顔と幸せを思うその熱意と優しさは、著者としても学ぶべきことが大変多いと考えています。UXデザイナーは皆、サンタクロースであるべきです。

相手はどのようなプレゼントを欲しているのか?どのようなプレゼントを届ければ喜ぶのか?どのように届ければ喜ぶのか?このプレゼントがもし、あなたが担当するプロダクトやサービスだったら?これもまた、サンタクロースからのプレゼント(?)なのかもしれません。

すべての子供たちへ…メリークリスマス。

なお、この文章は UX Tokyo Advent Calendar 2014 への寄稿記事です。

関連記事:


UX Lessons Learned from Santa Claus — Medium


人間中心設計の基礎 - UXploration


「誰のためのデザイン?」よりも「何のためのデザイン?」 - UXploration

 

 

*1:6マスのストーリーボードは LeanUX の記事でもご紹介した 6up Sketches を採用しています。

ExperienceFellow - カスタマージャーニーマップの自動生成ツール

ExperienceFellow(エクスペリエンスフェロー)というオンライン・ツールをご存知でしょうか?

THIS IS SERVICE DESIGN THINKING の著者 Marc Stickdorn氏と Jakob Schneider氏が共同で立ち上げたサービスで、一言で言えば「カスタマージャーニーマップの自動生成を可能にしてくれるツール」です(カスタマージャーニーマップとは?については「ユーザーエクスペリエンス・ジャーニーマップ」をご参考ください)。

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ExperienceFellow とは?

ExperienceFellow が掲げているコンセプト「Research customer experience」が示す通り、被験者のエクスペリエンス(体験)を記録し、ジャーニーマップとして可視化するだけではなくチーム内でジャーニーマップを起点にコメントや洞察を登録・評価することができるサービスデザインのためのツールです。



ExperienceFellow の使い方

ExperienceFellow の使い方を説明します。

  1. 依頼者側がデスクトップのサイト上にプロジェクトを登録する。
  2. 被験者側がモバイル・アプリケーション上でプロジェクトに参加する。
  3. 被験者側がモバイル・アプリケーション上でエクスペリエンス(体験)を登録する。
  4. 依頼者側がデスクトップのサイト上でプロジェクトを終了する。
  5. 依頼者側のデスクトップのサイト上に反映された被験者の入力データを評価・考察する。
  6. 依頼者側が登録されたデータをジャーニーマップとして出力する。
ステップ1:依頼者側がデスクトップのサイト上にプロジェクトを登録する

先ず、依頼者側がプロジェクトと関係するメンバーをデスクトップのサイト上に登録します。

尚、当サービスが未だβ版ということもあり2014年12月度の利用料は無料となっています。今回は、僕のプライベート旅行で試験的に使用したデータを元に再現しています。

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ステップ2:被験者側がモバイル・アプリケーション上でプロジェクトに参加する

プロジェクトが登録されると、今度は調査の対象となる被験者に情報を入力してもらうためのアクセスコードを QR コード形式で提供します。被験者は事前にインストールが必要な ExperienceFellow のモバイル・アプリケーション経由(2014.12.19時点では iOS のみ)で QR コードを読み取り、プロジェクトに参加します。

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ExperienceFellow のアプリケーション内、被験者のモバイルデバイスにプロジェクトが登録されました。上記のキャプチャは既に使用済みのデータであるため幾つのデータが登録済みか、プロジェクトごとに表示されます。

ステップ3:被験者側がモバイル・アプリケーション上で体験を登録する。

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プロジェクト登録後よりすぐに体験の入力を開始することができます。ここでは「NEW TOUCHPOINT」としていますが、「NEW EXPERIENCE」とラベルを編集することができ、被験者に取って自身の体験またはジャーニーの入力しやすさを考慮して依頼者側で選択できるようになっています。

タッチポイントごとの登録(=NEW TOUCHPOINT)は被験者にとってサービス提供者側とのインタラクションを意識させなければいけないため、よりニュートラルな情報を得たいのであれば日記のような感覚で入力を促すことができる体験ごとの登録(=NEW EXPERIENCE)が良いかもしれません。

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入力画面は至ってシンプルです。体験した出来事を一行で記入し、5段階評価でその時の感情を選択します。

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加えて、メモやその時の体験を記録するための写真やビデオなどのメディアファイルを添付することもできます。LOCATION(位置)機能はモバイル・アプリケーションのGPS機能がアクティベートされている場合のみ、位置情報が付与されます。

登録後には定期的に登録データを依頼者側のデスクトップサイト上に送るために同期する必要があります。

ステップ4:依頼者側がデスクトップのサイト上でプロジェクトを終了する。

プロジェクトの終了は依頼者側がデスクトップサイト上のダッシュボードで宣言することができます。

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入力されたデータがダッシュボードに集約され、被験者ごとにデータを閲覧することができます。ダッシュボードでは総データ数、感情の平均スコア、簡易ジャーニーマップがサムネイルとして表示されます。

ステップ5:依頼者側のデスクトップのサイト上に反映された被験者の入力データを評価・考察する。

被験者ごとのデータを選択すると、入力したデータが時間軸で表示されます。

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当画面では登録されたデータ(画像・ビデオ含む)を閲覧することができると共に、各データごとにタグやコメントを付与することができます。

例えばこの場合は感情の平均スコアがマイナスポイントとなっている時間帯は空港という場所に依存している可能性が高かったため、「Airport」というタグを付与しています。また、考えられる原因や改善点もあわせてコメントとして登録しています。

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ステップ6:依頼者側が登録されたデータをジャーニーマップとして出力する。

以上の考察と評価は必要であれば行います。ExperienceFellow には常時 PDF へのエキスポート機能が搭載されており、被験者の入力データを基に可視化されたジャーニーマップを自動的に生成し、被験者ごとの出力やプロジェクトごとの出力が可能となっています。

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まとめ

前述しましたが、ExperienceFellow は被験者のエクスペリエンス(体験)を記録し、ジャーニーマップとして可視化するだけではなくチーム内でジャーニーマップを起点にコメントや洞察を登録・評価することができるサービスデザインツールです。

なぜ、僕が ExperienceFellow に目を向けたのか?ExperienceFellow は以下の点で優れています。

  • 時間的・物理的制限から開放される、リモート・エスノグラフィーが可能
  • ユーザー(被験者)の生データを直接ジャーニーマップに反映することが可能
  • ユーザーに負荷をかけず、コンテキストを破壊することなく日記感覚で入力を促すことが可能
  • リモート環境下でも複数のプロジェクトメンバー間のコラボレーションが可能

尚、今回はセルフ・エスノグラフィの要領で自身の旅行体験を軸に依頼者側・被験者側の当サービスにおける検証を行ってきましたが、改めて、ユーザーセントリックに普段から行っているサービスデザイン業務における調査の信憑性や妥当性を証明することの大切さを学びました。

最後に、2014年12月一杯までは利用が無料です。試験的に、依頼者側としての参加となりますが ExperienceFellow を体験してみたいという方がいらっしゃれば、ぜひ下記「通勤体験の改善」プロジェクトにお気軽にご参加ください。

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モバイル・アプリケーションは下記よりダウンロードが可能です。前述しましたが、現時点では iOS のみの提供となっています。

ExperienceFellow

ExperienceFellow

  • mohemian
  • ビジネス
  • 無料

 関連記事:


User Experience Journey Map - ユーザーエクスペリエンス・ジャーニーマップ - UXploration


サービスデザイン―無形をデザインする - UXploration

 

Lean Startup Update - 2015年1月16日開催

2015年1月16日(金)に開催される「Lean Startup Update」に僭越ながら登壇させていただくことになりました。

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日時:2015年1月16日(金)19:00〜22:00
定員:100人
参加費:無料
会場:日本マイクロソフト株式会社 31F セミナールーム A
公式ハッシュタグ:#LeanStartup
URL:https://atnd.org/events/60368

プログラム:

  • Lean Startup(河合太郎)
  • リーンスタートアップ導入の現場(黒田樹)
  • Lean UX Quest in Tokyo(坂田一倫)
  • Lean Analytics(角征典)
  • 絶対に行き詰まるリーンスタートアップの始め方(冨山香織)
  • Lean Customer Development – 「この製品が欲しいですか」と聞いてはいけない(馬田隆明)

2011年に発売された書籍「The Lean Startup」以降、著者である Eric Ries氏がシリーズエディターを務める THE LEAN SERIES より「Running Lean」「Lean UX」「Lean Analytics」「UX for Lean Startups」「Lean Customer Development」「Lean Enterprise」「Lean Branding」など数々の関連書籍が刊行されるようになりました。

米国では毎年年末に The Lean Startup Conference が Eric Ries氏主催のもとシリコンバレーにて5日間に渡り開催され、企業 / NPO / 自治体問わず多くのアントレプレナーをアメリカ全土から収集し THE LEAN SERIS の方法論に関する最新の知見の披露、成功例や失敗談の意見交換そして議論が行われ、リーンスタートアップの方法論は毎年進歩を続けています。

"We consider startups to include any new product or service facing conditions of extreme uncertainty–which means that our customers include not just two people in a garage in Silicon Valley, but also established companies in all sectors, non-profit organizations, government agencies, and educators." ー The Lean Startup Conference

僕が監訳を務めさせていただいた「Lean UX」に至っては、ニューヨークを起点に Lean UX NYC が The Lean Startup Conference 同様に毎年開催され、独自の議論がなされているほどです。過去に参加した当イベントの記録は「Agile UX New York City 2012(※ Lean UX NYCの前身)」をご覧ください。

そして今回、この THE LEAN SERIES の監訳や翻訳に関わった方々やリーンスタートアップを推進している方々で集まり、日本でもリーンスタートアップ・ムーブメントをアップデートする試みを来年より開始する運びとなりました。

Lean UX からは Lean UX Quest in Tokyo と題し、2014年1月22日の刊行以降の活動と、Lean UX Circle を始めとする団体活動のアップデートを予定しています。


募集は atnd より行ってますので、ご興味ある方はぜひご参加ください。会場でお会いしましょう。

関連記事:


Agile UX New York City 2012 - The Premier Agile & LeanUX Conference - UXploration


Designing Culture with Lean UX〜ルールではなく文化をつくる〜 - UXploration

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